第22話 カミーラの秘密


二週間ぶりに学園に着くと、少しだけ緊張している気がした。

そんな私に気が付いたのか、ジルが背中に手をまわして大丈夫だよと言ってくれた。


教室に入るとシャハル王子たちもいたが、

私に話しかけたり近づいたりは出来ないようになっているので、

ちらりとこっちを見ただけで興味無さそうにしていた。

もっと恨まれたりしているかと思っていたので拍子抜けしてしまったが、

問題がない方がうれしいので興味を無くしてくれたのならそれで良かった。



午前中の授業が終わり、

席を立とうとしたらフェリア様とダニエラ様に話しかけられた。


「リアージュ様、休んでいた間の授業のノートですわ。

 少しでもお役に立てたらいいのですけど。」


「まぁ、ありがとうございます!フェリア様、ダニエラ様。

 留学してきた疲れが出てしまったのか二週間も休んでしまったので、

 授業がわからなくて困っていましたの。助かりますわ。」


「ふふ。お元気になられて良かったです。

 リアージュ様がいらっしゃらないとつまらなくて。」


休んでいたことを気にしてもらっていたことが嬉しくて、

少しだけ立ち止まって話し込んでいると、

教室の前のドアからひょこりと顔を出した令嬢が見えた。

制服姿ではなく、黄色のドレス姿のカミーラだった。


「…カミーラ。本当に学園にいるのね。」


「あ、お義姉様、ひどいですぅ。

 侍女の手が足りないから留学してきてって言うから学園まで来ましたのに。

 なぜか留学手続きもされていないし…。

 どうして私を一人で放っておかれたのですか?

 シャハル様に助けていただかなかったらどうなっていたことか…。」


「…カミーラ?あなたは留学の資格無かったはずだけど、どうして来たの?」


「ええ?ひどいです!

 お義姉様が呼んだのに、またそういう意地悪をするんですか~?」


「私は呼んでいないわよ?」


「どうして私をそんなに嫌うのですか?…ひどいっ。」


涙をぽろぽろとこぼすと、シャハル王子の側に小走りで抱き着いていった。

シャハル王子たちは私には近づけないし話すこともできない。

結果、カミーラを連れて出ていくことを選んだようだ。


カミーラとシャハル王子たちが教室から出ていった後、

残された者たちはあっけに取られていた。


「あの…?リアージュ様?あの方はいったい?」


「一応、義理の妹ではあるのだけど…。

 レミアス国から他国に留学するには学園で一番上位のクラスにいる上で、

 学園長と陛下の許可をもらわなければいけないのだけど…。

 あの子は一番下のクラスなのよ。

 留学生ということはレミアス国の代表として他国に行くことになるのだから、

 あの子の成績で許可が下りるわけ無いの。

 どうして学園に来たのかわからなくて。」


「そうでしたか…お義妹様でしたか。

 シャハル王子たちと一緒に行動しているようですが大丈夫なのでしょうか?」


「…お父様に報告してみます。すぐに迎えが来てくれるとは思いますが…。

 みなさま、義妹がお騒がせして申し訳ありません。」


「リアージュ様のせいではありませんわ。

 こう言ってはなんですが、少しおかしな義妹さんですのね。

 リアージュ様がからまれないように周りが気を付けたほうがいいかもしれません。」


「そうですわ。何かあったらお守りしますからね?」


「ありがとうございます。」



フェリア様とダニエラ様と話していたために、

少し離れた場所で待っていてくれたジルを見ると険しい顔をしている。

カミーラには関わらないでと言っておいて本当に良かったと思いながら、

ジルの所に戻った。


「お待たせしてごめんなさい。」


「いいよ。じゃあ、控室に行こうか。」






「え。カミーラ様が教室に?」


大公家の控室で昼食の準備をしていてくれたミトに報告すると、同じように驚いていた。


「…もしかして、リア様を追いかけてきたんでしょうか?」


「ミト、どうしてそう思うんだ?リアを追いかけてくる理由があるのか?」


「…これは私の考えなのですが、カミーラ様はリア様を憎んでいるように思います。

 レミアスでの学園や公爵家でも何かにつけてリア様は嫌がらせをされていました。

 その都度、公爵様やフレデリック様からは注意されていたようですが…。

 カミーラ様は不貞腐れるだけで反省しているようには見えませんでした。

 今回もリア様が婚約されたことでまた邪魔をしに来たのではないかと。」


「それだけ大っぴらにリアに嫌がらせしていたってことか?」


「そうです。レミアスの学園内には侍女である私はついていけません。

 レミアスの学園では学生以外の立ち入りが禁止されています。

 カミーラ様は同じクラスの令息たちをいいように使っているようでした。

 子爵家と男爵家の令息たちです。平民の商家の者も何名かおりました。

 嫌がらせは直接的じゃないものが多かったので、

 学園側も処罰するのも難しかったのです。」


「…同じクラスの令息か。なるほどね。

 リア、この学園ではそんなことは起きないから大丈夫だと思う。」


ミトからの説明を聞いて考え込んでいるようだったジルがそう言うので、

どうしてそう思うのか不思議になった。この学園ではってどういうことなんだろう。


「どうして、この学園では大丈夫なの?」


「あの義妹の目は魅了眼だ。

 だけど、魅了眼っていうのは自分よりも魔力量が少ない者にしか効かない。

 おそらく取り巻きになっていた男爵家や子爵家の者は魔力が少ないか無いのだろう。

 だけど、この学園は伯爵位以上の者しかいないし、

 レミアスよりも魔力量が多い者ばかりだ。

 俺が学園内にいることで抵抗力もついているだろうしな。

 あれ以上騒いでいたとしても取り巻きは増えないよ。」



「…カミーラって、魅了眼だったの。」


おかしいと思っていた。

どうして公爵家の者に下位貴族の令息が嫌がらせをするのだろうと。

下手なことをして見つかったら本人の退学だけでは済まない。

それほどまでカミーラの言うことに従う理由は何だろうと思っていた。

だけど、理由がわかってしまえば納得する。

公爵家の者や王族たちはもちろん、

学園でも高位貴族の者はカミーラに近付かないようにしていた。

どちらかといえばあの言動を嫌がっていたようにも見えた。


「魅了眼はシャハルには効くかもしれないけど、シャハルはリアに近付けない。

 シャハルが他の者に命令するにしても、俺はそれを止めることができるしね。

 あと数日でレミアスから迎えが来るだろうから、それまで俺から離れないで。」


「わかったわ。

 …なんだかカミーラが怖かったのが、理由がわかってしまったら平気みたい。」


魔力量の問題なのだとしたらジルは平気だろう。

ジルとの間を邪魔されることは無いとわかって、ようやくほっとすることができた。


「あぁ、でも一応陛下に報告に行こうか。

 魅了眼は放っておくと災厄を招くと言われているからね。

 レミアスに帰す前に魔力封じの腕輪をはめることになるかもしれない。」


「そうなの…でもそうよね。レミアスではよく騒ぎを起こしていたわ。

 カルヴァインで同じようなことが起きれば処罰しないわけにはいかない。

 ここは他国なのだから、レミアス王家としても許すことは無いと思う。」


「うん、じゃあ、午後の授業が終わったらそのまま王宮へ報告に行こう。」



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