第15話 隙を見せた(ジルアーク)


「リアがいなかった?」


「はい、お茶会はもうすでに終わってまして、

 近くも探しましたが見つかりません!どういたしましょう!」


「リン、ファン、手分けして探すぞ。俺も探しに行く。」


剣術の授業が終わり軽く湯あみをしてリアが戻ってくるのを待っていたのだが、

戻ってきたのはミトだけで、リアはどこにも見当たらないという。

…まずいな。つけさせている魔術具の腕輪が反応していない。

どこか結界の中に入ってしまっているのだとしたら、一刻を争う。


廊下に出て、すぐ奥の王族の控室に向かう。

シャハルが単独で使っているが、俺にも使う権利を認められている。

というのは建前で、何かあった時に止められるようにと、

王族の控室は俺にも入れるように登録してある。

もしリアを連れ込んだとしたら、王族の控室が一番可能性高いだろう。


もうすぐ王族の控室の扉の前というとこで、いきなり扉が外に弾け飛んだ。

それと同時に激しい風と光が廊下にあふれてくる。

この魔力は光と風が同時?…まずい!

すぐさま部屋の中に飛び込むと、入り口付近に令息が何人か倒れている。

全員が気を失っているようだ。

部屋の中央を中心に渦を巻くように風が吹いたのがわかるように、

調度品が壊れて散乱している。

その真ん中に、倒れるようにリアが横たわり、

壁際に吹き飛ばされたように崩れおちているシャハルが見えた。


「リア!大丈夫か!」


抱きかかえて確認すると、

制服のボレロのボタンが一つはずれている他は異常が見当たらない。

ストッキングも綺麗な状態なのを見て、その手の心配はなさそうだと安心する。

だけど、この状態はまずい。完全に魔力を失いかけている。


リアを抱き上げてそのまま王族の控室から出る。

廊下で待っていたリンとファンに指示を出しながら大公の控室へと急ぐ。


「リン、俺たちはこのまま大公家の控室にこもる。

 リアが魔力暴走を起こした。意識が戻るまでどのくらいかかるかわからない。

 魔力回復薬だけいくつか用意しといてくれ。

 ファン、お前は王族の護衛に説明して、

 シャハルと側近候補を王宮まで連れ帰るように言ってくれ。

 ケガをしているかもしれないが、自業自得だ。

 陛下と父上にも説明しておいてくれ。

 おそらくリアを襲おうとして魔力暴走を引き起こしたんだ。」


「わかりました。すぐさま必要なものを手配します。」


「王族の護衛がこちらに向かっていますので、説明してきます。」


リンとファンがすぐさま動く後ろをミトがおろおろしているのが見える。

リアが心配なのはわかるが、魔力暴走を説明している暇はないな…。


「ミト、すぐさま大公家に行って母上に説明して来てくれ。

 魔力暴走を起こしたと。

 リアの着替えや必要なものを母上に聞いて用意して来てくれ。」


「は、っはい!」


泣きそうな顔で、それでも仕事を言いつけられて、すぐさま走っていく。

リアも良い侍女に恵まれているな。


さて、これからは急がなければ。

大公家の控室に入り、奥の部屋までリアをそのまま連れて行く。

寝台の上にリアを寝かせて、部屋の鍵をかける。

少なくとも魔力が半分以上回復するまでは邪魔されるわけにいかない。

リアの制服のボレロとスカートを脱がせていく。

この学園の制服には特殊な糸が使用されてあり、対魔術効果が施されている。

そのためこの後することにはどうしても邪魔だった。


白のブラウスと黒のストッキング姿になったリアを寝台に寝かせて、

俺も制服を脱いで隣に寝そべる。

抱きしめるように、抱きかかえるようにして、全身から魔力を送りこむ。

からっからに乾いた砂に水をかけるように、魔力が吸い取られて行くのがわかる。


多分俺とリアの魔力量は同じ程度だ。

半分の魔力まで送ったら、少しは楽になるだろう。

そこからは俺の魔力を回復しながらだから、

動けるようになるまでどのくらいかかるかわからない。

時間がかかるのは別にいい。

心配なのは限界まで魔力を放出したことでリアの器が傷ついていないかだ。

魔力が回復するまで確認することも難しく、こればかりは祈るしかなかった。


リア…一瞬のすきも見せるんじゃなかった。

シャハルに狙われていたのはわかっていたはずなのに。

自分の愚かさに吐き気がする。守ってやるなんて言ったくせに。


腕の中のリアの顔色が人形のように真っ白で、生きている実感がわかない。

冷たい身体を必死で温めるように魔力を送り続ける。

頼む。戻って来てくれ、リア。




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