第16話 回復を願って(ジルアーク)



「…。」


魔力を送り続けて丸一日が過ぎ、そろそろ半分近くまで魔力が送られているはず。

器が壊れていなければの話だが、半分近くまであれば意識が戻ってもおかしくない。

顔色を確認しつつ魔力を送っていると、リアが少し動いた気がした。

ほんの少しだけだけど、身体が震えた気がした。リアの口が動いている?


い・や?


あぁ、シャハルに抵抗しようとしているんだ。

脱がされてはいなかったが、それでも何もされていないとは思えない。

心に傷を負ってしまっていないか、それも不安だった。


「リア、大丈夫だ。もう大丈夫だよ。

 一緒にいるのは俺だよ。抱きしめているのは俺だから安心して。」


聞こえていなくてもいい。

少しでもリアに届いたらと思って、ささやくように声をかけ続けた。

安心してほしい。俺の腕の中だってわかってほしい。


しばらく話しかけ続けると、静かな寝息が聞こえてきた。

魔力が失われている間は生命活動を限界まで休ませている状態だ。

それが静かに身体が動き出したのを感じて、危険な状態を脱したのがわかった。

よかった。少なくともこれで死ぬことは無い。


リアの目が覚めたのは、魔力暴走から一日半が過ぎた朝になってからだった。


「…ん?」


「…リア?目が覚めた?」


「ジル…私どうしたの?身体が動かない…。」


目が覚めたのは良いが、身体が動くようになるにはまだ時間がかるだろう。

下手に動こうとされても困るので、静かに待つように説明しなければならない。


「リアは魔力暴走を起こしたんだ。わかる?

 リアの中の魔力がほとんどない状態に陥ってしまった。

 死にかけてたんだ。あのままなら間違いなく死んでただろう。」


「魔力暴走?」


「シャハルから逃げようとしたんだろう?

 無事でよかった…。」


シャハルの言葉でぴくっと反応するのがわかった。

顔色が悪い。嫌なことを思い出してしまったのかもしれない。


「リアがあの時何があったのかは、もう少し後から聞くよ。

 とりあえず俺がリアを助けだした時には制服の乱れもないし、

 リアが気を失ってから何かあったことは無いから安心して。」


そう言うと少しは不安が消えたのだろう。

こわばった顔が柔らかくなったように感じた。


「今は俺が魔力を送ってる。

 リアが目を覚ましたってことは、半分近くまで魔力が戻ったんだと思う。

 そうすると俺の魔力も半分近くになってるはずだから、ちょっと待ってて。

 リンに魔力回復薬を頼んでたから受け取ってくる。

 隣の部屋だからすぐ戻るよ、待ってて。」


身体を離すと、自分の半身を割かれるような喪失感があった。

同じように感じたのか、リアが悲しそうな顔になった。ごめん、すぐ戻るよ。

急いで寝台から降りて眼鏡をかけ隣の部屋に声をかける。

部屋の鍵を開けると、すぐそこにリンが魔力回復薬を持って待機していた。


「とりあえず三本用意しました。

 これでお二人とも八割がた回復できると思います。

 回復したらすぐさま大公の別邸のほうに移るように指示されました。」


「わかった。回復したら顔出す。また待機してて。」


魔力回復薬の瓶を三本受け取って、すぐ寝台へ戻る。

寝台の横の机に瓶二本と眼鏡を置いて、一本はその場で飲み干した。

すぐさま魔力が回復していくのを感じながらリアの横に滑り込むように入って、

また身体全部を抱きかかえるようにして魔力を流す。

リアにふれた瞬間、リアがふわっと微笑んだのが見えて嬉しくなる。

俺がふれるのを待っていたように見えて、

リアが俺と同じように感じてくれたのかと思ってしまう。


「リア、魔力が八割戻ったら別邸に移動するって。

 それまで、あと半日以上はかかるかな…。」


「ん。わかった…。」


流れてくる魔力に半分酔っている感覚なのかもしれない。

他人の魔力を一方的に受け取るなんて、普通は経験できないはずだ。


俺もまさかこんな風に魔力を受け取ってもらうことになるとは思わなかった。

そこまで考えて、リアに説明していなかったことを思い出して、少し後悔した。

どうしようか。今言うのは反則だろう。でも、他に方法なかったよな…。

少し迷ったが、リアには全部説明することにした。


「リア、魔力を扱う際の注意点は覚えているよね?

 その中に婚約者以外の異性の魔力の受け渡し禁止があっただろう。

 あれは魔力の受け渡しを異性間で行うことができるのは一度だけだからだ。

 婚姻するときにお互いの魔力の半分ずつを交換するんだ。」


「え?」


「今、リアの中に俺の魔力の半分以上が入っている。

 つまり、俺はこの先リア以外の異性に魔力を流すことはできない。」


「…えぇ?」


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