第14話 油断


思ったより情報が集まった上に令嬢たちと仲良くなれたお茶会も終わり、

一人で大公家の控室へと戻ろうとしていた。

ミトが迎えに来る予定時間よりも早く終わってしまったからだ。


ここからは遠くないし、ここで一人で待ってる方が危ないかもしれない。

そう思って大公家の控室へと向かった。


お茶会の会場から大公家の控室へは階段をあがってすぐの場所だった。

公爵家以上の家が持つ控室がならぶ階はいつ来ても静かな場所だ。

この学園の控室は借り上げ制になっていて、

各自の部屋の内装などは自由に変えていいらしい。


大公家の控室は3部屋がつながっている大きな控室で、

仮眠や湯あみもできるようになっていた。

特に申請しなくても泊まることができるらしい。

学園内にある別宅みたいなものだよとジルから説明されてなるほどと思った。

生徒数の多いレミリアの学園では難しいだろう。

伯爵家以上しかいないこの学園だから出来るものだ。


公爵家からならんでいる控室を奥へと進む。

廊下も絨毯が敷かれているので、足音もほとんど聞こえない。

各控室は防音結界が張られているそうなので、部屋の内部の音も全く聞こえなかった。


ふと後ろに誰かいると感じた時には遅かった。

口を手でふさがれて、次の瞬間手足を三人の男性に持ち上げられてしまった。


「!!」


叫んでみたが、口をふさがれているせいで意味がなかった。

暴れてみても最初から私の魔術に警戒している男性相手では効果がない。

抵抗むなしく、どこかの部屋の中に引き込まれてしまっていた。


部屋の中に入ったと思ったら、放り出されるようにソファに投げ落とされた。

すぐさま態勢を整えて敵を確認したら、見たくない顔が目の前にあった…。



「シャハル王子…。」


「ふはは。ようやく捕まえることができた。

 なかなか隙が無くて苦労したぞ。だが、これでお前は俺のものだ。」


「…何を言ってるのですか?ここからすぐに出してください。」


「出してもいいぞ。俺の女にしてからな?」


ニヤニヤ笑うシャハル王子の後ろ側、

部屋の出入り口付近には側近候補だと思われる令息が三人待機している。

おそらく私が幻影で逃げようとするのを防ぐためだろう。

何か抵抗する手は…下手に攻撃魔術を使ってしまうと、外交問題になりかねない。

どうしてこんな愚かな人が王子なのだろう…。

素直に言うことを聞く気はないが、どうしたら逃げられるのかわからない。



「さぁ、奥の部屋に行くぞ。

 あいつらの前で抱かれてもいいならここでするが、

 初めては奥の寝台のほうがいいだろう?

 もう抵抗しても無駄なのはわかってるはずだ。おとなしく歩け。」


シャハル王子がにたりと笑って、私の手首をつかんでくる。

痛くはないが、けっして離さないという意思を感じるくらい強く握られている。

ここで手を振りほどいても、他の令息たちをどうにかしないと逃げられない。

防音結界があるから、叫んでも無駄なのは知っている…どうしたら。


「ほら、行くぞ。」


「嫌よ!」


少しも動こうとしない私を抱き寄せようとしたシャハル王子に、思わず抵抗してしまう。

シャハル王子にさわられるなんて、絶対に嫌だと思った。

抵抗されたのが面白くなかったのか、シャハル王子の雰囲気が変わった。


「おとなしくしていれば優しくするものを…。」


次の瞬間、後ろから羽交い絞めにされて、制服のボレロのボタンを外されかかる。

一つ目を外された時に身をよじったら、肘が王子の脇腹にあたった。


「うぐぅ。」


かなりいい感じに入ってしまったらしく、痛みで顔をゆがめているのがわかる。

だけど、それでも左腕は拘束されたままで離してくれなかった。


「…もう手加減なしだ。」


制服の上から右胸をギリギリと力いっぱいに掴まれる。

そのまま揉みしだかれて、痛みと気持ち悪さと吐き気で頭がいっぱいになった。

シャハル王子にこのまま襲われる?シャハル王子のものにされるの?


「いやぁああ!!!」


目の前を暴風といくつもの光が飛び交った。

人の力を超えた風と光は部屋の中を駆け巡り、

突然現れた暴風に耐えきれなくなった扉が外に弾け飛んだ。

ふっと気を失う瞬間、この部屋に飛び込んでくる人が見えた気がした。






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