第13話 敵と味方

「リアージュ様、では、

 おつきあいされてからまだ一月もたっていないということですの?」


「…おつきあいというか、婚約してから一月たっていませんわ。」


「それなのに、ガハメント大公令息があのような甘い顔をされていますの?

 あの魔王と呼ばれている方が!?」


「…魔王?」


「あっ。」


うっかり言ってしまったのだろう。

フェリア様が涙目になって口元に手を当てているが、

他の二人は目をそらして呆れているように見える。

…内緒の呼び名みたいなものだったのかしら。でも魔王って良い感じしないわ。


「大丈夫です。ジルには言いませんから。

 それで、ジルは魔王と呼ばれているのですか?」


「…ええ。どんな令嬢も近寄れず、話しかけることもできません。

 噂では眼鏡をしていないガハメント大公令息の目を見てまうと、

 すぐさま魂を持って行かれるとも言われております。」


「えええ…さすがにそれはないと思います。

 眼鏡を外している時に目を合わせたこともあります。

 とても綺麗な目ですけれど、それ以上には何もなかったですよ?」


「ふえぇぇ。リアージュ様はガハメント大公令息の素顔をご存じなのですね!

 素敵ですわ!」


「ええ、さすがですわ!あの方に選ばれただけあります。

 私、お二人を応援いたします!」


「私も応援したいですわ!」


「応援とは?そう言われると、何か弊害がありそうに聞こえますけど…?」


キラキラした目で応援しますと言われることはうれしいけれど、

もうすでに婚約している者たちを応援すると普通言うだろうか?

そう思って聞くと、三人の表情が暗いものに変わる。


「…王女様です。」


「え?王女様っていうのは、第一王女のジャニス様ですよね?

 まだお会いしていませんけれど、何かあるのですか?」


「ええ。同じ学年に第一王子サハル様と第二王子シャハル様、

 その二つ下にジャニス様がいらっしゃいます。」


「え?シャハル王子様は第二王子なんですか?」


「はい。サハル王子様とシャハル王子様は双子です。

 ですが、サハル王子様はご病気のためずっと王宮でお過ごしです。

 それでシャハル様があの状態ですので…。」


「あの状態…ね。」


「ええ、リアージュ様も初日に大変な思いをされたと思いますが、

 高位貴族の令嬢に対してああいうことはめずらしいです。

 さすがに身分の高い令嬢に何かすれば陛下もお叱りになると思いますので。

 ですが、王宮の侍女などが被害にあっているという話はよく聞きます。」


「ですから、ジャニス様としてはご自分が女王になって、

 ガハメント大公令息を王配にしたかったそうですわ。

 ガハメント大公令息はその申し出をずっと断り続けていると聞いています。」


「あーでは、ジャニス様にとって私は邪魔者というわけですか。」


「そうだと思います。

 学園では他学年と会うことは少ないですけど、夜会で会うことになると思います。

 お気をつけてくださいね。何かあれば盾になれるかと思いますので…。」


「ありがとう、皆さま。気を付けますね。」


ジルはあまり他の貴族の話をしないので、お茶会での情報はとてもありがたい。

自分の敵になるかもしれない方の情報は先に仕入れておきたいもの。




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