第12話 二国の違い


「こうしてお話しするのは初めてですわね。

 皆様、イルーレイド公爵令嬢とお話しするのを楽しみにしていましたのよ?」


おっとりとした話し方でお茶会を始めたのはタルテット侯爵令嬢フェリア様だ。

いつもにこやかな方ではあるが、割とはっきり話す令嬢だと思っている。



「そうですね。教室内ではあまりお話しする機会がありませんでしたから。

 こうして皆様とお話しする機会があって嬉しいです。

 私のことはリアージュと呼んでくださいね。」


「嬉しいですわ。ぜひ、私のこともフェリアとお呼びください。」


フェリア様に続くように同じ席に着いた令嬢たちが自己紹介をしていく。

礼儀作法の一環として、三か月に一度お茶会を開くことになっているらしい。

同じ学年の令嬢でも、侯爵家以上の令嬢の会と伯爵家の令嬢の会に分かれるという。

隣り合っている国ではあるが、詳しいことは何も知らなかった。

これほどまでに貴族間の差がはっきりしているとは思っていなかった。


「それにしても、こちらでは子爵家と男爵家は同じ学園には通わないのですね。」


「ええ。レミアスでは貴族はすべて同じ学園に通うと聞いて驚きました。

 こちらでは子爵家と男爵家とはほとんどお会いすることが無いものですから。」



フェリア様とは逆側のお隣に座るのはヘンジェイン侯爵家ジェニー様。

女騎士を目指しているらしく、髪を一つに束ねているのが特徴的な令嬢だ。

お父親は騎士団長を務めていて、ジェニー様も入団することが決まっているらしい。


「それは何か理由があるのかしら?」


「この学園では魔術実技があるので、魔力があることが前提になります。

 子爵家以下だと魔力を持たない人も多いですし、魔力があっても少ないのです。

 魔力が無い状態でこの学園に通うのは、

 飛べない鳥に飛び方を教えるようなものですから。」


向かい側に座るのはユナイダー辺境伯令嬢のダミエラ様。

伯爵とは名ばかりで、辺境伯は侯爵家以上の身分になるそうだ。

辺境伯領はレミアスとは逆側の他国との境目に位置する大事な領地だという。

ダミエラ様は授業でも発言することが多く、その説明もわかりやすい。


「魔力が基準になっているのね。

 レミアスでは経済が発達している分、平民から男爵になった方も学園に通うの。

 大きな商家の男爵だと、子爵家よりも力があったりするのよ。」


「平民から男爵にですか?随分と我が国と違うのですね。

 それでは夜会やお茶会も分けられることが無いのでしょうか?」


「ええ?もしかして、この学園だけではなく、

 夜会やお茶会も身分で分けられるの?」


「そうです。伯爵家以上は子爵家以下の家と婚姻することはありません。

 魔力が減ってしまうと、伯爵家から子爵家に落とされてしまうこともありますから。

 伯爵家が二代続けて魔力の無い子が産まれたら子爵家になりますの。」


「そうなのですか。レミアスでは婚姻は二つ上か下までの爵位までですね。

 それ以上になると、何か特別な才能があるかたなら考えられるかもしれません。」


レミアスでのことを思い出しながら答えていると、

ジェニー様が少し前のめりになって質問してきた。

その勢いに驚きつつ顔には出さないようにつとめる。


「リアージュ様とガハメント大公令息との婚約は、

 いつ頃決まったのか聞いてもよろしいですか?

 その…お二人はいつからおつきあいを?」


「ジェニー様、はしたないですわよ?」



突然ジルのことを聞かれて驚いたが、このお茶会で聞かれるとは思っていた。

急に隣国から来て大公令息と婚約したとなれば、誰でも興味を持つだろう。

もしかしたら高位貴族令嬢には恨まれているかもしれないと思っていた。

それなのに、こんな風に興味を隠さずに聞かれるとは予想外だった。


「いいえ、聞かれても構いません。

 おつきあいと言われましたが、留学してきた初日に初めてお会いしました。

 祖母の紹介での婚約でしたので、

 それまではお会いしたことがありませんでした。」


「「「ええっ!」」」


「え?」


三人同時に叫ばれるように驚かれて、身体がビクッとしてしまう。

何かおかしなことでも言っただろうか?


「リアージュ様、では、

 おつきあいされてからまだ一月もたっていないということですの?」


「…おつきあいというか、婚約してから一月たっていませんわ。」


「それなのに、ガハメント大公令息があのような甘い顔をされていますの?

 あの魔王と呼ばれている方が!?」


「…魔王?」


「あっ。」

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