再会(2)

 目が覚めると、いつもと変わらない天井が映った。首だけを動かし辺りを見渡す。母さんと父さんが近くの椅子に座っていた。

 身体を起こそうとするも上手く起き上がれない。よく見ると、あの時の充のように俺の体には管がたくさん繋がれていた。動作の音に気付いた二人が俺のほうへと振り向いたようだ。

「優悟!」

 俺を見て第一声を発したのは母さんだった。母さんはホッと安心したのか、安堵の溜め息を漏らした。

 父さんは俺をじっと見ている。前よりも目付きが変わっているが、それは睨みつけているような感じではない。

「優悟、お前は一日眠っていたらしい。無理をしたんだろう」

 俺が状況を把握できていないのを察したのか、優しい口調で口にする父さんに俺は呆然とする。今まで無理をする度に父さんは厳しい声で怒鳴っていた。何かがおかしいと頭の中で疑うしかない。


「今度から病室から離れる時は誰かに言うことだ。分かったか?」

「いや、病室に出てしまった俺が悪かった。だから、」

 心配を掛けてしまったのは事実だ。俺は正直に謝った。

「充くんのところに行ったんだろう。彼はもう長くない。時々、会ってやるといい」

 俺は思いがけぬ言葉に衝撃を受ける。いや、本当は分かっていた。

 充のあの状態は良くない。もしかしたら、移植は間に合わないかもしれない。

 充の姿を見た時、そう思った。充のために、何か出来ないかとさえ思った。

「優悟、どうした?」

 父さんの声を耳にする。俺は我に返り、無言で父さんを見やった。父さんは俺が何を考えているのか分かっているのか、首を横に振る。

 俺は何か言葉を口にしようとしたが、何か出来るわけでもないと思い直し留まった。

 俺は父さんを再び見やる。無力の自分に悔しさが込み上がってくる。ここで気持ちが昂ったら、発作が起きてしまうかもしれない。そう思うと、堪えるしかなかった。

 そういえば、父さんはなぜ充の状態が分かっているんだろうか。充のところに行ったんだろうか。

 

 そんな時、不意に扉が開いた。誰だろうと扉のほうを向く。

「失礼。優悟、来たぞ! やっと起きたか。大丈夫か?」

 元気に入ってきた人物、陽輔は俺を見て心配の言葉を発した。

 一日眠っていたことに驚かないのは出会ってから何度かあったから分かりきっていることなんだろうが、幾つもの管が繋がっている状態を見れば誰だって心配はするか。

「陽輔くん、久しぶり。来てもらって有難いけど、今の優悟にはちょっと無理かな。また今度来てくれるかな。ごめんね」

「あ、はい。すみません。優悟、またな!」

 母さんが陽輔に話しかけると、陽輔は残念そうな顔を浮かべて病室を出ようとする。俺は慌てて陽輔のほうを向いた。

「陽輔、ちょっと待ってくれ!」

 大声を出すも陽輔は既に病室を去っていた。大きな声で声を掛けたから届くはずなのに、病室はしんと静まり返っている。

「勝手に追い出さないでくれ。俺は大丈夫だから」

 二人は心配そうな顔で俺を見つめる。そんな顔をしないでほしいが、頼んだところで意味がないと分かる。俺は生まれた時から心臓が悪い。心配しないほうがおかしい。

「充くんに会ってはいいが、無理はするな」

 父さんは突然、話を戻した。

 俺は自分の身体を知っている。無理をすれば苦しくなる。それは嫌だな。そう思うと、頷くことしか出来なかった。

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