ゲーム7:親切丁寧家庭教師対決⑤

 色々とあったが、結局家の中に入らせてもらうことになった。

「お邪魔します……」

「お母さんとお父さんいないからちょうどよかったぁ……」

「すげぇ、めっちゃオシャレじゃん」

「いや、別にそんな……」

 と、目に留まったのがフワフワの白い毛が付いた額に飾られている小さい子の着物姿の写真だった。

「これさ、もしかしてあずちゃんの小さい頃の写真じゃねぇの?」

「え、まあ、確か七五三の時の……」

「マジで? めちゃめちゃ可愛いじゃん! 俺の五歳の時どんなんだっけなぁ……見たくもねぇけど」

「あ、ありがと……」

 完全に俺の勝ちだ、と勝太は思った。相手が完全に顔真っ赤になって、呂律が回らなくなってきている。

「さーてとっ、じゃ、あずちゃんの部屋に案内してもらおっかな」

「あ、そ、そのあずちゃんっての、あ、そのあいや……」

「ん? あ、いや、こう呼ばれんのあれだったら止めるけど。中学でこんな風に呼ばれてた記憶あるからさ」

「いぃい、いや、別にいいけど、あ、いや、あの、むしろ嬉しいくらいで……」

「ならこのまんまで良いよな?」

「あ、う、うん、あ、はい、その、ま、まんまで良いですぅ……」

 心の中で微笑みたくなる。残念だが、俺の心は今そっちには傾いていないんだよな。

「じゃ、ここでじっとしてずに、ひとまず行こうぜ。本題を果たさないと」

「うん……」

 と言う時にスマホが振動した。

「あ、ちょっと待ってくれ。なんか連絡……はっ」

 LINEの着信だった。送り主は早織。オロオロした犬のキャラクターのスタンプと一緒に本文が寄せられている。


『ちょっとさ、なんか別の女子の家に乗り込んでいたの見た気がするんだけど、気のせい? そうだよね? ね……?』




「ね、何だったんすか? 教えてくれたっていいじゃないっすか」

「あ、いや……」

「ひとまず、本題っしょ本題。家庭教師に来たんだから、それくらい、ね?」

「いや、止めて、ホントに」

「だーかーらー、伊織先輩から何も話聞いてないわけじゃないっしょ? 了解して今ここにいるわけじゃないっすか」

「いや、それは伊織先輩が勝手に……」

「とーにーかーく、そういうことなんすから、ハイ」

 僕はドアノブに手を伸ばそうとする。

「いや、止めて、ホントに、変態……」

「いや、誰が変態っすか? 僕はどんな小鳥ちゃんでも迎える広い心の優しい雄鶏だと思ってくれれば……」

 樹莉キュンは完全にアワアワしている。あいつと本当に付き合っていいのか、彼氏を裏切ることになるんじゃないか、それでも彼が好きなんだから……と迷っていると一樹は推測する。

「で、結局何をやってたんすか? というかそもそもなんで入れさせてくれないんすか?」


「それは言えない! 絶対に入れられない! そもそも私はあんたを受け入れるなんて一言も言ってない! 変態! 出てけ!」


「僕はそんな変態でも何でもないし、そういうのよりもまずは心と心を通わせることが大切だと僕は信じているからね。しっかり二人で大空に飛び立てるように、みたいなそんな感じで……」


「うるさい! これ以上近寄ったら本当に警察呼ぶからね!」

「警察呼んだところで樹莉キュンとの心の糸は絶えないわけだし、それは……」

「おーい、いつまで外で色々してるわけー? もうそろそろどうにかしてー」

 ガチャリ

「うわ! お母さん、ちょ、ダメ、やめて、マジで……」

 必至に遮ろうとする樹莉だったが、その間から見えたもので、やっと一樹が理解した。してしまった、と言った方が良いのか。

「もしかして、刑事ドラマっすか?」

「もう無理!!」

 ついに痺れを切らした樹莉は開いたドアにそのまま入り、一樹が必死に引き留めようとするのを引き払い、強引にドアを閉じ、カギを大きな音で締めてしまった。




 今、教えているのは剣道だった。

 そこら辺に落ちている木の棒を拾い、今やっているという剣道の型を解説する。

 別に、剣道をしているわけじゃない。

 俺は全く上手なわけじゃない。

 だがそれでも、あずきはそれほど運動上手じゃないようで、水泳と体操は得意だが、陸上や球技、武道は苦手とのことだった。

 まあまあ出来る部類の勝太がそれ故に教えているわけだった。

「オッケーオッケー、上手い上手い。完璧。これで次学校行って体育したら驚かれるぜ。体育がいつあるのか知らねぇけど。あ、竹刀と木の棒は重さ違うから、そこだけ気をつけろよ」

「うん。ありがと」

 やっと舌が回るようになってきたあずきだった。




 ――やっと全員終わったころかなぁーっ。

 ワクワクしてる。

 彼女たちからどんな返事が来るのか。

 大目玉は健吾と弘人だ。

 勝太は人気者だから、どうせ満点なりなんなりだろう。

 一樹は元々早織と決まっているし、何より正直ウケそうな性格じゃないから、下手すりゃ門前払いを食らっているかもしれない。

 残る二人はどうだろう。

 真緒は健吾に惚れるぐらいのことは当然ありそうだ。逆のことも十分あり得るかもしれないし。

 弘人と朱は全く合いそうにもないが、意外とそうでもないってこともあり得る。

 ここはどっちに転ぶか分からない。

 テロレン

 LINEが来た。

 終わりましたとのこと。

 これで全員が終わった。

「そろそろ大詰めだ」

 伊織はメッセージを打ち始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る