ゲーム7:親切丁寧家庭教師対決④

 テテテテテテテテテテレレン……テテテテテテテテテテレレン……。

「はい、もしもし?」

『あ、勝太君。明後日だよ、いよいよ』

「あぁ」

『楽しみ?』

「めっちゃ楽しみ。え、何が楽しみ?」

『そうだなぁ、コーヒーカップかなぁ』

「ジェットコースターかと思ったけど、違うのか」

『だって、まあ、そりゃ……』

「なんとなく理由分かってるけど。ま、いっか。ひとまず、楽しみにしてるわ」

『うん』

「ええっと、九時から現地集合で良いんだよな?」

『うん。とよやま園の場所分かってるよね?』

「大体。ま、地図アプリでどうにかするわ」

『方向音痴君、せいぜい頑張るのだよ』

「誰が方向音痴じゃ」

『ウソウソ。ま、ひとまずそういうことでね』

「ああ」

『じゃ、またねー。バイバーイ』

「バイバイ!」

 テロレン




 テテテテテテテテテテレレン……テテテテテテテテテテレレン……。

 またすぐに二本目の電話かよ。

 俺はまた緑色の電話マークをスワイプした。

「もしもし?」

『もしもし、俺だ、健吾だ』

「分かってる。どうしたんだ?」

『ちょっとさ、聞いてくれよ。さっき真緒ちゃんとこ終わったんだけどさ……』

「真緒ちゃん?」

『あ、あの家庭教師対決で行ってた子』

「まるまるちゃんって呼ぶの珍しいな。なんだ、早織ちゃんじゃなくてそっちを好きになったか?」

『あ、いや、別にそんな……んなわけねぇだろ!』

「歯切れが悪かったけど」

『気のせいだ。ところでさ、俺さ、その真緒ちゃんからすげぇ話聞いちまってさ』

「と言うと?」

 健吾は話し始めた。聞いてみると、これまで掴んでいたことがどんどん具体化していく気がした。

 伊織先輩の目的は一体何なのか。

 あの人の考えは全く読めない。少し異常なところがある。

 健吾はその真緒という女子を好きになったのだろうか。それは、伊織先輩の計算外なのだろうか? それとも……。




 ピーンポーン、ピーンポーン

 定番の音。

「あの、例のアレです、五十嵐一樹でーす。樹莉ちゃんいますかーっ!」

『あ、ええと、どちら様ですか?』

 聞こえたのはオバサンの声だった。お母さんが出たのだろう。

「え、ええっと、あの樹莉ちゃんの同級生です」

『あ、そういうことなのね。分かりました、ちょっと待ってくださいね』

「おぉーい、じゅりー、お友達来たわよー、早くテレビ切りなさーい」

 と聞こえる。

「えー、なんでー、嫌なんだけどー、ちょーどいいとこなのー、あ、待って待って逃げてる逃げてる! ヤバいって! 伊良部さん急いで! あ、おぉナイス大貞さん! え? いや、キャーッ!! ちょ、サダさんサダさん! ヤバいって!」

 ――な、何が起こってんだ?


 結局に十分ほど待ちぼうけを食らい、やっとドアが開いた。

「こんちゃー! 今日一緒に遊ぶ一樹っす! よろしく、樹莉キュン!」

「……?」

 元々苛立たしそうな顔をしていた鍵山樹莉だったが、さらに怪訝そうな顔をした。

「ま、ひとまず部屋に入りましょっか。ちょい寒いっす。はい、今日は何の勉強を教えて欲しいっすか?」

「……は?」

「だから、どんな勉強を教えてもらいたいっすか? 僕は何でも分かりまっす! なんでも行けるからドーンと、ほら」

「いや、あの、ちょ……」

「ま、ひとまずここで立ってるのも怪しまれるっしょ? 寒いっしょ? じゃ、温かい部屋の中で色々、ね?」

 一樹は完全に凍えた身を温めようと、室内に入ろうとした。

 それが、仇となった。

「止めて! もう無理! 出てって!」

 ドンと体を押され、思わず頭から倒れる。

「いてっ!」

「あ、ごめんなさい……」

 体が勝手に動いたのか、手を差し伸べてくれた。

 ――けど、男が小鳥ちゃんに助けてもらうのはカッコ悪いよねっ。

「よいしょっと。ま、ひとまず入らせてもらっていいんすよね?」

「いや、ダメです……」

「いやいや、いーじゃんいーじゃん、元々、伊織パイセンかそういう風に言われてるわけなんだから……」

 あ。そう言えば。

「ところで、ピンポンでずっとキャーキャーキャーキャー叫んでたのは何だったんすか?」

「え? ええっと、それは……」




 ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン……。

 なんか珍しいタイプの音だなぁと思いながらも、勝太は部屋からの返事を待つ。

「あ、はい、ええっと、はい、あ、ちょっと、待って今行きます、はい」

 そう言えば、健吾が何か言ってたなぁと思いだす。

 俺を巡ってグループ作ってたとかどうとかこうとか。そのグループのメンバーから選抜した。つまり、今出てくる高杉あずきという女子は俺のことがもともと好きだったってことになるわけで。

 うーん、これは有利な材料だろう。めっちゃ緊張している声色からも分かるように、多分適当にやっても俺に満点をくれるはずだ。

 ――だが。

 おろそかにすることはよくない。しっかりルールに習って、俺にできることをしなきゃいけない。

 伊織先輩は何を企んでいるのか知らないが、今はあずきをサポートするだけ。

「あ、こんにちは……ええっと、あの、その、よ、本日はどうぞ、よろしくお願いします。」

「こんちは。中学で一緒だったんだよな? なら敬語なんかおかしいだろ。止めてくれ。で、俺は何をやればいいんだ?」

「えっと……まさか勝太様、あ、いや、その、勝太君に何かさせるなんて、いや、ええっと……」

「家庭教師すればいいんだろ? 勉強なんかできる方じゃないけど、まあ頼まれてる身だから仕方ないしさ。お金は出ないけどな。ったく、伊織先輩こういうとこおっかねーんだよな」

 この一言に、少し顔を赤くしたあずきがクスクスと笑いを必死にこらえているのがなんだかおかしかった。

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