第2話 自己紹介

 結局、横穴の中には問題なく5人で入ることが出来た。一番大柄な鎧姿の青年も、問題なく入れたし頭がつかえないで済んでいる。

 天井部分の岩を触りながら、鎧姿の青年が口を開く。


「ふむ、思っていたよりスペースがあるな」

「あんまり狭い場所じゃなくてよかったね」


 三角耳の少年も耳をピコピコさせながら青年に同調する。確かに、思っていたよりも広さがあるし空間に余裕もある。魔物が入ってくる様子もないし、安心して話せる環境なのは幸いだ。

 すると、額に石のはまったレオナールなる青年が、俺を見ながら口を開く。


「さて、君に聞きたいことはたくさんある。だがこちらの素性も分からなければ、話す気も起きないだろう。まずはこちらから自己紹介といこう」


 すると青年は、ローブの胸元から細長い棒のようなものを取り出した。それのてっぺんを触ると、棒から光が出て文字が空間に浮かび上がった。

 ホログラムのようなやり方で映し出された文字を示しながら、レオナールが話す。


「我々は『砂地の輝石ビジューサブレ』。ガリ王国魔法研究所捜索班に所属する冒険者パーティーだ。私はリーダーのレオナール・ルネ・バルテレミー」


 そう話すとレオナールが俺に向かって頭を下げた。次いで口を開くのは髪の長い女性だ。さらりと髪をかきあげ、細長い耳を見せながら言う。


「私はウラリー・ジルー。『砂地の輝石ビジューサブレ』の副リーダーよ。職業は治癒師」


 そう言いながら女性――ウラリーがにっこりと微笑む。その美しい微笑みに俺が慌てて頭を下げると、次に口を開くのは三角耳の少年だ。


「ボクはシルヴェストル・パレ。『砂地の輝石ビジューサブレ』の先導役、ってトコ。斥候だよ。名前長いと思うから、シルヴィって呼んで」

「俺はエタン・オヴォラ。戦士だ。ちなみにレオナールは魔法使い、だな」


 少年ことシルヴィが俺に向かって手を振ると、その隣りにいた鎧姿の青年ことエタンがレオナールに指を向けつつ言った。

 いわゆる冒険者パーティー、と言った感じの冒険者だ、というのは俺にも分かった。彼らはどこかの組織に所属して冒険者家業に精を出し、その兼ね合いでこの山に入ってきて、俺と遭遇した、ということだ。

 彼ら曰く、エタンは普通に人間だが残り3人は人間以外の種族であるらしく、ウラリーがエルフ、シルヴィが獣人。そしてレオナールは額に宝石を備える輝石人ビジリアンという種族なのだとか。

 状況を飲み込んだところで、エタンがずいと身を乗り出しながら言ってきた。


「それで? お前は誰で、どこの所属で、職業は何なんだ」

「え、えーっと……」


 エタンの言葉に俺は明らかにまごついた。無理も無いだろう、そもそも所属もなにもあったものではないし、職業だってフリーターだ。無職と言ってもいい。

 俺が言葉に詰まっていると、レオナールが小さく息を吐きながら言った。


「エタン、あまり問い詰めるものではない」

「レオナール。だがこいつについての情報が、今のところ何もないんだぞ」


 レオナールの言葉にエタンが肩をすくめながら返した。彼の言い分ももっともだ。俺について分かることと言ったら、見るからに珍妙な格好をしている、というだけ。それだけでは俺が安全な人物かどうか、など分かるわけがない。

 俺の姿を頭の先から足の先まで見つめながら、レオナールは言った。


「先程ウラリーが言っていただろう。見るからにこの国の国民ではない。ともすれば、冒険者ですらない可能性すらある」


 レオナールの先を読んだかのような言葉に、俺はまたしてもぐっと言葉に詰まった。彼の言う通り、俺は冒険者でも何でもない、ただの迷子だ。

 果たして、レオナールが小さく微笑みながら俺に視線を向ける。


「ともあれ、名前はあるだろう。伺おうか」

「え、あー……マコト。斎木さいきまこと、です」


 返事をしつつ、俺は俺の名前を話した。先程までの話を聞くに、やっぱりというかこの国も氏名は名・姓の順らしい。そんな中で日本式の姓・名の名前を出すのも混乱を招きそうだが、しばし考え込んだレオナールはこくりとうなずきながら俺に言った。


「ふむ、やはりこの国の命名様式ではない。どころかこの大陸に存在する国の、いずれの命名様式にも当てはまらない。やはり異世界からの被召喚者・・・・・・・・・・か」

「ま、まぁ……そんなとこっす」


 またまたきっぱりと言い当てられた俺は、困惑しつつも頬をかきつつうなずいた。間違いではない。召喚されてこのイーウィーヤなる世界にやってきたのは事実だ。

 俺の返答にいろいろ察したのか、他の三人も一様に肩を落として俺に言葉をかける。


「そういうこと……災難だったわね」

「こんな洞窟の奥地で召喚儀式を行うなどは考えられない。どこかの国が召喚儀式を行って、期待外れだとてられたのだろう」

「で、ここに転移してきた……ってわけ?」


 ウラリーが俺を慰めると、エタンが腕を組みながら俺に向かってあごをしゃくった。それに返答するシルヴィの視線は、どことなく不審そうだ。

 だが概ね、間違いではない。この国がどこの国かは俺には分からないが、この洞窟の中で召喚された、なんてことは実際ないのだ。


「た、多分……そういうことになるんだと、思うっすけど」


 だから俺はうなずきつつ、しかし煮え切らない態度で言葉を返した。そんな感じで間違いではない気もするが、気がするだけなのは事実だ。

 果たして、俺の方を見てレオナールが僅かに身を乗り出してくる。


「把握した。ならば不運だったとしか言う他はないな。しかしこの横穴を見つけられたのは幸いだった」


 そう言いながらレオナールは俺から視線を外す。その視線の先にあるのは俺の頭上、横穴の天井。そこに彫られた謎の二次元コード・・・・・・だ。


「マコト。君の頭上に彫られている紋様・・が分かるか」

「紋様……これのことっすか?」


 俺が天井の二次元コードを指し示すと、レオナールは小さくうなずきながら真剣な面持ちで話す。先程ウラリーが何かして、この紋様を紙に写し取っていたのを見るに、この紋様が彼らには重要であるらしい。


「そうだ。我々はこれを探すために、このルノヴィノー山の洞窟にやってきたのだ。その古代魔法の紋様・・・・・・・をな」

「こ、こだい、まほう?」


 だが、次いで話されたレオナールの言葉に俺は首を傾げた。魔法。しかも古代魔法とは。

 と、そこで俺は自分のスマートフォンで先程取得かなんかをやっていた事を思い出した。慌ててスマートフォンを取り出し、画面ロックを解除する。


「じゃああの、さっき俺のスマホが読み取った、この魔法って、古代魔法ってやつなんっすか」

「む?」


 スマートフォンの画面には変わらず、先程取得した「雷光ライトニングボルト」の魔法が映し出されている。これをレオナールに見せると、他の三人もきょとんとした顔で口を開いた。


魔動板マジックボードのようだが……珍妙な機械だな」

「なんかよく分かんないけど……ライトニングボルトって、もしかしてこの紋様の魔法?」


 エタンが顎に手をやると、シルヴィも驚いた様子で俺の顔を見る。次いでエタンと顔を見合わせる横で、ウラリーがひどく深刻そうな表情をしながらレオナールに話しかけていた。


「レオナール」

「これは……もしや」


 レオナールもずいぶんと驚いた様子で俺のスマートフォンを見ている。しばらくまじまじと俺のスマートフォンを見ていたあとで、レオナールが真剣そうな顔つきで俺に言ってくる。


「マコト。もしかしたら君は、我々が探し求めていた人材かもしれん」

「え……えぇ?」


 その言葉に俺は目を見開くしかなかった。召喚された直後のタイミングでは何も映っていなかったのに。しかし彼にとって俺は随分重要な存在らしい。

 何が何だかわからないまま、俺はレオナールを押し留めることしか出来なかったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る