第11話 ラブラブの相合傘

 学校内へ戻り、綾と別れた。

 俺は階段を上がっていき、教室を目指す。急がないと授業が始まってしまう。急ぎ足で向かう。


 なんとか一分前に到着し、席へ着けた。


 ……危なかった。

 なんとか間に合った。


 ――とはいえ、担任が来るまでには多少のタイムラグがあった。次の授業の教科書を準備していると、前の席の北上さんがこちらへ振り向いた。


「おかえり、櫻井くん」

「今日はよく話しかけて来るね、北上さん」

「うん、そういう気分なんだ。ところで、櫻井くんはさっき後輩ちゃんとお昼へ行っていたんだよね」


「ま、まあな」

「そっか。やっぱりラブラブなんだね」

「……っ! ち、違うよ」


 北上さんはニヤッと笑い、前を向く。

 これ、からかわれてるのかな。


 その直後には担任がやってきた。

 また授業が始まる。



 * * *



 放課後になって雲行きが怪しくなってきた。……しまった、今日は天気予報で雨だって言っていたな。


 ぱらぱら降っていた雨は、今はもうザァザァと強雨が降っていた。

 困ったな、傘を忘れてしまった。


 俺はスマホを取り出し、綾にラインした。



 圭:綾、傘とかある?



 メッセージを送ると、直ぐに既読になり返事が返ってきた。



 綾:折りたたみ傘があるよ。一緒に帰ろ~

 圭:ナイス! じゃあ、昇降口で

 綾:わかった。待ってるね

 圭:オーケー!



 良かった、綾が傘を持っていた。

 俺はルンルン気分で教室を飛び出した。


 廊下を歩いて昇降口へ。

 すると既に俺を待つ綾の姿があった。周囲をキョロキョロと見渡し、俺を探しているようだった。……あんな健気に。


 そんな可愛くも微笑ましい光景に、ぼうっと突っ立っていると綾が俺の存在に気づく。トコトコとやってくる綾は、少し慌てた様子だった。



「良かった、お兄ちゃん。行こっか」

「それはいいんだが、なんか慌ててなかったか?」

「……う。それなんだけどね、話した方がいい?」


「気になるからな」


「うん。実はね、ここに立っていたら色んな人から話しかけられちゃって……断るの大変だった」



 あー、そういうことか。

 つまりこれは“ナンパ”というヤツか。ちょっと違うかもしれないけど、大体そんな感じだ。綾を狙っている連中は多いということ。


 けれど、それは無駄な努力。

 綾は、常に俺が“先約”なのだ。


 最優先されるのは『兄』である俺。

 兄妹の特権だな。



「よく断ったな」

「知らない人について行っちゃダメだって教えて貰ったから」


「へえ、それを教えたヤツは偉いな」

「お兄ちゃんだけどねっ」



 そんな冗談を交え、靴へ履き替える。出入口へ向かうと外は大雨だった。

 綾は折りたたみ傘を取り出し、差した。――が、開いた傘は思ったよりも小さくて相合傘をするには、ちょっと厳しいかもしれないと思った。


 まあいいか、俺の肩が濡れるくらい安いもの。俺よりも綾が風邪さえ引かなければそれでいいのだ。



 傘を拝借し、俺が手に持ちなるべく綾を中へ入れた。あ、やっぱり二人は窮屈きゅうくつっぽいな。



「大雨だけど、行くか」

「でも、お兄ちゃん濡れちゃうよね」

「構わないよ。ほら、もっと肩をくっつけて」


「……う、うん」



 ぎこちない動きで綾は俺にぴったりくっつく。なんだかロボットみたいな動きだったぞ。という俺も、綾に近づかれて緊張感が増していた。


 ゆっくりと歩き出し、雨の中を突き進む。


 さっそく肩が濡れ始めているけど問題はない。そう思っていたのも束の間。思ったより冷たい雨で身が震えた。


「……っ」

「お、お兄ちゃん?」

「いや……大丈夫だ」

「あ……ごめんね。綾、もっと近づくね」


 気づいたのか、綾はもっと密着してきた。

 小さな頭が腕の辺りに寄りかかってきて、俺は信じられないほど心拍数が上昇した。このままでは死んでしまう。


 校門を出るとカッパ着て全力疾走する小学生に「あ~、アツアツのカップルだー!」とか弄られる。


 あのクソガキ!

 よく言ってくれた。


 おかげで緊張が解れ、俺は会話をする機会を得た。



「今日は学校楽しかったか」

「うん。お兄ちゃんと一緒だもん」

「そうか、俺も綾と一緒で楽しい」


「今……すっごくドキドキしてる」

「俺もだ。俺も死ぬほどドキドキしてる」



 さりげなく手を握ってくる綾。俺も握り返し、恋人繋ぎ。こんな天気だからこそ成せる行為。


 今なら、ずっと雨でいいとさえ思う。



「カラオケ、行く?」

「約束だからな。俺の奢りだ」

「やったぁ! いっぱい歌おうね」


 歌はいいよな。嫌なこと全部忘れられるし、ストレス発散になる。なによりも、綾と二人きりで歌える喜び。


 これから楽しみだな。

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義妹が毎日素敵なプレゼントを贈ってくる件 桜井正宗 @hana6hana

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