第7話 妹と添い寝

 普段は踏み入れることのない妹の部屋――聖域。

 俺は今、その目の前に立っていた。


 ノックをして反応を待つと、静かに扉が開く。中からパジャマ姿の綾が現れた。ブラックのレーストリムとショートパンツの可愛い寝間着姿だ。


 そんな綾は、ちょっぴり不安気な表情をしていた。



「どうした、綾。いつもは一人で寝れているじゃないか」

「……少し思い出しちゃったから」



 震えるように気持ちを吐露する綾の姿を見て俺は察した。そうか、一週間前の火事をフラッシュバックしたんだな。それで不安に駆られていた――と。



「分かった。そういうことなら、一緒に寝ようか」

「う、うん。でも、大丈夫? お兄ちゃん、なんだか手も足も震えてるよ」


「……そ、そりゃな。年頃の女の子と寝るだなんて、これが初めての経験だからな」

「わ、わたしもだよ。男の子と付き合ったこともないし、今まで兄も弟もいない一人っ子だったから」


「マジか。綾って凄くモテそうなのに」

「うー…。お兄ちゃんに嘘はつけないよね。実は告白はよくされてた。でも、全部断っていたんだ」



 だろうな。こんな芸能界にいてもおかしくない容姿、美貌を持つ女の子が同じクラスにいたら、男子が黙っちゃいない。


 でもそうか、断っていたんだな。

 それを聞けて安心した。


 そうして俺は、綾の部屋に招かれ――三日前に買ってあげたロフトベッドへ案内された。


 広いアパートとはいえ、空間としてはそこそこ狭い。ので、綾の希望だったのもあり、ロフトベッドを導入したのだ。


 梯子はしごを上り、約百四十センチの高さに到達する。


 天上とスレスレというわけではなく、余裕がある。こりゃいいな。俺は折り畳みベッドだから新鮮な感じがした。



「へえ、揺れないし安定しているんだな」

「うん。耐荷重たいかじゅう200kgまでだって。だから、全然大丈夫だよ」



 俺の体重が60kg、綾が推定40kg台だから余裕か。なんて思っていると綾が横になった。


 ここまで来たんだ、腹を括って横になるか。


「正直言うぞ、綾。俺、今死にそうなほどドキドキしている」

「うん、わたしも。でも、こっちに来て欲しいな」


 布団の中へ招かれ、俺は思い切って突入。ついに添い寝を果たした。


 息がかかるほど顔が近い。

 こんなにも接近したのは、これが初めてかもしれない。とても幸せなことだけど、緊張が勝っていた。綾のシャンプーの匂いとかで頭が真っ白になってしまった俺。


 少し視線を落とせば、胸元も間近。


 なにげに谷間がそこにあるし、俺はどこを見たらいいんだ。



「……っ」

「そ、そのぉ……やっぱり、胸が気になる?」

「そりゃな。綾の胸は大きくて魅力的だから」

「うん、お兄ちゃんってば普段から、綾の胸見てるよね」


「うぅ……。ほら、綾って小学生の頃から大きかったじゃん」

「思い出した。小学生の頃、お兄ちゃんとよく遊んでた。いじめられてた綾を助けてくれたよね」



 そう、綾は誰よりも胸の成長がスピードが速くて男女両方から、からかわれていたのだ。俺はそれが許せなくて綾の味方をし続けた。


 でも、それは小学生の頃の話。

 中学に上がってからは疎遠になった。


 けれど、なんやかんやあって今がある。


 こうして同じ屋根の下で暮らすことになろうとは――当時は思いもしなかったな。



「これからも助けてやる。俺に……兄ちゃんを頼りまくれ」

「今、綾が頼れるのはお兄ちゃんだけ。お兄ちゃんがいないと生きていけない……から」



 眠たそうにまぶたを閉じる綾。うとうとして微睡まどろむ。俺ももう眠い。明日も綾と同じ時間を過ごし、生活していく。大切な妹を幸せにする為に。

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