最終章 この恋に仁義の花道を
F-1 Birthdayの誓い
それから、1年あまり。あたしたちはそれぞれ、高校生活の後半を送り。
励まし合いながら受験勉強に明け暮れた高校3年目の年明け、それぞれの実が結ばれ始めた。
まずは
合わせて、
仁輔と咲子さんも、1年かけて少しずつ仲直りしてきたようで。離れて暮らす前に蟠りは解けたのではと、あたしには思える。あたしが思いたいだけかもしれないけど、そこは二人を信じよう。
続いて
そして、あたしは。
*
3月半ば。あたしの誕生日、つまりママの命日。
あたしは咲子さんと、
もうママの名前と命日が刻まれている墓へ花を供え、あたしはママに話しかける。
「久しぶり、ママ。今日であたしは18歳です、今の法律だともう成人なんだよ。そしてね、」
持ってきた書類を見せる。
「医学科、受かったよ。ドクターへの第一歩、達成です……大学生活、頑張るからね」
志望通り。
……大変だったなあ、あれだけ自分の限界と向き合い続けたのは初めてだった。勉強だけでなく体力作りも続けていたから、遊ぶ時間なんて全然なかった。時間の使い方から寝具に至るまで、生活を受験仕様に改善してやっと到達した。パパもよくサポートしきってくれたものだ。
とはいえ、これで晴れてスタートである。それを誰より知ってほしいのはママだ、本当はもう知りようがないとしても。
「あたしね。今でもね、ママに会いたくてたまらないです」
18年かかっても、その寂しさが埋もれることはなかった。どんな願いも叶えられる魔法があればママの命を願う――そんな仮定に意味はないとしても、願ってしまうくらいに。
「大きくなるのを見ていてほしかった。嬉しいことも悲しいことも、ママと分け合いたかった。もし仲良くはなれなくても、あたしと離れたいって思うようなことがあったとしても……ただ、生きていてほしかった。生きていなきゃいけない人だったんだよ、ママは」
涙で言葉に詰まりそうなあたしの背を、咲子さんがさすってくれる。
その手に支えられて、誓いの言葉を声にする。
「ママは、あたしを産まなかったら、もっと長生きできたんだと思う。
けどね。あたしを産もうと決めた、あたしに会いたと願った、ママの覚悟と決意をね。間違っていたなんて誰にも言わせたくない、あたしだって思いたくない。
だから。ママみたいな無念を、あたしたちみたいな寂しさを、誰も抱えなくて済むように。命が生まれる最前線で頑張る大人に、あたしはなります。お母さんと赤ちゃんが無事に出会えるために必死に戦う、そんな人生にします。ママにも応援してもらえたら、嬉しいな」
心臓に手を当てて、今もそこに息づいているであろう想いを確かめながら。
「あたしに世界をくれてありがとう――いってきます、ママ」
そして、咲子さんに場所を譲る。咲子さんはしばらく無言で墓石を見つめてから。
「ねえ、
あたしは口を挟まない。親子のようだった人間同士が恋人になること、それを悪と言う人もいるだろう。あたしたちも足を踏み外しかけていたし、見ようによっては踏み外している。ママがどう思うかはママしか知らないし、つまりは確かめようがない。
「それでもね。あなたの娘を、私は幸せにしたい。そのことは、あなたのお腹に義花が宿った日から、ずっと変わっていません。何度も何度も今を嘆いて、運命を呪いもしたけど、やっぱり私は、義花と生きている今が好きで……義花を産もうと決めたあなたが好き」
咲子さんはあたしの手を握る、一緒に生きている温もりを確かめる。
「この子に会えたことが、私の人生で一番の幸せです。
だから、約束。あなたの産んだ女の子を、私の全部で幸せにします」
何度も、涙を呑み込みながら。
ずっと言えなかったであろう言葉を、咲子さんは墓前に手向ける。
「実穂、義花を産んでくれて本当にありがとう。
そしてね。あなたを、心から愛していました――さようなら、実穂」
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