5-12 Reach Out To My Dream!
そして、始まったことがもう一つ。
土曜日の早朝。あたしは起きてすぐにスポーツウェアに着替える。
「じゃあパパ、行ってくるね」
「ああ、頑張って」
「うん、朝ご飯お願い!」
ママにも手を合わせたところでチャイムが鳴る、仁輔だ。
「よう」
「おはよ、今日からよろしく」
「きっちりやるからな」
一緒にマンションを出る。あたしの体力トレーニングの一環として始めた朝ランニングである。あたしと仁輔ではスペックが違いすぎるので、仁輔はウエイトジャケットやアンクルウエイトを付けることでバランスを取っていた。
それでは張り切って走りましょう――と駆けだしてすぐ仁輔に止められた。
「
「そっすか……」
「このまま続けてると体痛めるからな。まず頭の向きは――」
文字通り頭から足まで突っ込まれ、体より先に心が疲れてきた気分だ。とはいえ、基礎を固めないと身につきにくいのは勉強と一緒だろう。あたしがミラステの生徒に言っていることを実践できないでどうする。
……けどやっぱり疲れるし、正直もう帰りたくなってきた。
やっぱり仁輔についてきてもらって良かった、一人だったらすぐにサボっていたところだ。
それに、参加者は仁輔だけではない。
マンションから走ること5分あまり、遠目でも分かる美少女が道端で待っていた。結華梨である、こちらを見かけると駅伝選手のように跳ねながら手を振っていた。
「仁、先行け」
「ああ」
あたしはペースを落とし、水分補給しつつ前方を眺める。
結華梨は仁輔に何やら話しかけ、それから仁輔に頭を撫でられて笑っている。
……可愛くてキレそうだな? 結華梨の愛らしい上目遣いは勿論、慣れない仕草を求められて困りつつもやっぱり嬉しそうな仁輔も、尊みが爆発している。
この二人の間に入る不届き者がいるだろうか。
はい、います。あたしです。
「おはよミユカ」
「やっほ、義花バテてない?」
「まだ何とか」
「休んでても大丈夫だよ、ウチは仁くんと二人の方が嬉しいから」
「同感なんだけどそれじゃ企画倒れなんだよ」
仁輔にトレーナー役を務めてもらうのはあたしの希望だったが、二人きりというのも結華梨に悪い。それを結華梨に相談したら「ウチも一緒にやる、トレーニングするなら誰かとの方が好きだからちょうどいい」と言われたのだ。
ちなみに結華梨も筋力を鍛えたいらしく、軽めのアンクルウエイトを付けている。そこまでハンデを付けてもらわないとあたしがお荷物すぎるということ意味でもあるが……そのぶん成長で返したいところだ。
かくして。
カレシとカノジョと元カノが一緒にランニングするという、入り組んだ関係性の割に健全なルーティーンが始まった。まずは休日朝だけ、様子を見つつ平日にも増やす予定だし、ジム通いも視野に入れている。文字通り、きわめて前向きな再出発である。
「じゃ、先頭は結華梨ね」
「おう……義花は俺の前にいろ、フォームのチェックしたい」
「了解。カプに挟まる最悪な女やります」
冗談めかして答えつつ、それだけでは物足りない気がして。
「仁、ミユカ。ありがとうね、あたしのトレーニングに付き合ってくれて」
「……まあ、」
「ねえ?」
仁輔と結華梨は顔を見合わせてから、イタズラっぽく笑って。
「「友達じゃん?」」
――本当にいい友達を持ったんだな、あたし。
不覚にも泣きそうになって、頬をパチンとたたく。
そして結華梨が先頭に立ち、靴紐を確かめてから前を指す。
「じゃあ仁くん、義花、位置について」
息を整えつつ、駆け出す体勢に。ついさっき仁輔から言われたことを、一つずつ思い返す。
「用意――」
三人で一緒に走る先。今より強くなったあたしが、ちゃんと走り続けている気がした――そこに追いつくんだ、絶対に。
「ドン!!」
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