3-5 リハビリデートもCで / かつてヒーローだった俺たちよ
お盆の真ん中。あたしは
「
「そ、三人で観たい映画があるんだと」
仁輔と結華梨は何度も話しているし、同じクラスだったこともあるが、休日に学校外で会うほどの仲ではない。
「
「格闘アクションがすごいから仁も好きじゃないかって。ヒロバス、聞いたことくらいあるでしょ?」
「ああ……確かに話題だったような気も」
『ヒーローズ・ユニバース』という、ドラマ・映画・音楽を横断するプロジェクト。イケメン俳優を多数擁する事務所が中心となり、複数の世界設定から来た戦士たちが一堂に会する作品群を送り出そう……という、アメコミ映画ユニバースの後追いのような企画だ。
当初こそグダグダなシナリオや(本場に比べるとどうしても)チープな画作りから揶揄されがちだったものの、シリーズを追うごとに俳優たちの演技力やアクション表現が上達し、音楽との融合で独特な熱量を放つようになった。最近では女性キャストも増え、幅広い人気を博している……という知識はある。
「義花はあんまり好みじゃない気もするけど、イケメン興味ないし」
「本来はね。けど特撮オタクの一部が沼落ちしている流れは前からあって、それに今回は
「マジか、あの人のアクションも進化してるからなあ」
「それにアイドル百合が熱いみたいな話も聞いたから興味は出てきてる。仁は?」
「……今回の映画って戦国系なのか、聞いてたより映像すごそうだし意外といいかも」
作品自体は好感触、では顔ぶれは。
「で、仁はミユカと一緒でも平気?」
「まあ……箕輪さんからの誘いなら。あんまり上手く話せる気しないけど」
「もう顔馴染みだし大丈夫じゃない? ミユカの方からいいパス回してくれるよ、あの子はそういうの得意」
「ならいいけど」
「それにほら、カップルやる練習にはいいでしょ? 今後もそういう体でやるわけだし……ああでも、普段通りでいいからね。気負わず無理せず」
こうして、謎メンによる夏休みデートが決定した。
*
当日。
「二人ともお待たせ~!」
あたしと仁輔が来ていた待ち合わせ場所に、結華梨も到着。今日も結華梨は可愛い――のだが、休日の彼女にしては大人しい印象である。この季節だったら肩を出しにいくのが結華梨流だったはずだ。あくまでメインはあたしと仁輔ということで、あたしを食わないように気を遣ったのだろう。女心に鈍感なあたしでもそれくらいは分かったし、あたしもちゃんとコーデは工夫してきた……当社比、当社比で。
「やっほミユカ」
「いぇい……
「俺こそ、箕輪さんが誘ってくれて、」
仁輔があたしをちらっと見る、彼氏としてアリな発言かどうかを気にしているのだろうか。
「いいよ、あたしも仁とミユカには仲良くなってほしいし」
「……ん、誘ってくれて嬉しい」
えらく不器用な答え方をした仁輔に、結華梨はちょこんとお辞儀してからあたしに抱きつく。
「ね~~津嶋くんめっちゃ可愛いじゃん!」
「お、おう……同意なんだけどそんなにか?」
「そんなにだよう、癒やされるなあ」
結華梨はあたしを仁輔の横に並べると、「はいゴー!」と背中を押してきた。
いつも賑やかな結華梨だが、今日はいつにもましてテンションが高い……彼女にとっては好ましい人どうしだからだろう、あたしだってフィクションの推しカプ概念はよく分かるし。リアルでだって、中学の頃は
……やっぱり結華梨には言いにくいよな、半分別れているようなものだって。あたしが彼の母親に惚れていることなんて尚更。
こうやってカップルとして応援されていれば、実態だってそれらしくなってくるかもしれない。目指せ軟着陸。
余裕を持って映画館に到着、ポスターを眺めながら三人の趣味を共有していく。
「え、箕輪さんマコ姉さん知ってるの!?」
「うん、アクロバットとかの動画は短くてインパクトあるから伸びやすいんだよ。ウチはダンスの参考にもなるし」
「なるほどなあ……マコ姉さんはバイオレンス映画のスタントが原点だから、箕輪さんみたいな人とあんまり結びつかなくて」
「ウチはその辺よく知らないから、あんまり怖くないのでオススメ知りたい!」
仁輔と結華梨、意外と話が広がる。そうだよなあ、ジャンルはともかくレイヤーやスタンスでいえば、結華梨の趣味はあたしよりも仁輔に近い。
……などと後方彼女面でほっこりしていたあたしへ、結華梨がトコトコやってきた。
「義花、ごめんごめん」
「何が?」
「津嶋くん取っちゃった」
「……え、修羅場コントの振り?」
「いや振りだと思ってくれても良いんだけど。ほら、気にする子もいるじゃん」
「そういう女心があたしから遠いの、別に彼女になっても変わらんのよ」
「ふむふむ、なら良かった」
「それに君らが打ち解けてくれた方があたしも嬉しい、さあ存分に語り合いなさい!」
「口調が微妙にデスゲーム運営」
などと話しているうちに、ペルソナイト劇場版のポスターの前を通りかかり、結華梨が指差す。
「これ、二人も観に行ったのよね?
「
秒で訂正するオタク、あたしです。
「……
当初は完全サプライズだったが、公開から一週間の段階で大々的に告知された。俳優ファンの間でも話題だったので、特撮にあまり詳しくない結華梨も知っていたようだ。
「そうなのよ、あたしらもリアタイ直撃だったから劇場で感動しきりで。ほらこれ」
前に劇場で撮った仁輔とのツーショットを見せると、結華梨は「え、もっと見たい」と椅子に腰かける。
「双流、男女の二人であの一体に変身するんだよね?」
「そう、このポーズでね。本当は左手首にブレスレットがあるけど」
「義花がこんな、泣きながらノリノリになることあるんだ……津嶋くんも意外」
結華梨に指摘され、仁輔は照れつつも答える。
「あの話、本当に大好きだったんだよ……まだ小一でなりきりにも全力だったからさ。俺たちは双流の後輩、ペルソナイト
「半分黒歴史なネタだろ!」
即座に突っ込んだあたしと、少し遅れて思い至った結華梨。
「ああ、仁輔くんと義花だから漢字を取って仁義……親御さんの命名?」
「義花が言い出した、こいつはずっと語彙力がおかしいだろ?」
「小一でそれはビックリだよ」
よく覚えていないが、仁義という単語を見て「仁とあたしの名前がくっついてる」と気づいたらしい。正義と近い意味だと解釈して、やたらと気に入っていたのだ。正義とのニュアンスの違いは、もう少し大きくなってから知った。
あたしのネーミングはともかく、あたしたちのヒーローごっこの話は結華梨に大いにウケていた。ペルソナイト仁義のマンガを自由帳に描いて岳志さんにプレゼントした話、あたしも久しぶりに思い出した。
「ええ~~、仁義ちゃん可愛すぎるよお……タイムマシン乗って会いに行きたい」
「うん、あたしも自分にツッコミに行きたい。けど最優先で仁のジャンピング天井頭突き事件を止めないと」
「さらっと巻き込むな、じゃあ俺は義花が名乗りの台詞を落書きしたまま宿題を」
「クッソこの瞬間まで忘れてた失態なのに!」
「ええ~詳しく聞かせてお二人とも!」
という具合に、あたしと仁輔はモヤモヤを忘れて結華梨と賑やかに過ごせていた。
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