2-9 やがて恋に、なったらダメ / 津嶋 咲子

 義花が熟睡に入ったのを確かめてから、咲子は起き上がる。


 汗を洗い流すべく浴室へ。義花の眠りは深い、シャワーの音くらいじゃ起きないはずだ。

 軽く洗って、それからバスチェアに座り込む。


「……どうしよう、私」


 義花にキスされかけた唇に触れる。それだけで、身体の奥がじんと疼く。もうとっくに忘れていた昂ぶりが、ときめきが、ずっと燃えている。


「気持ちよく、なっちゃった」


 ――この子は恋の対象じゃない、ずっと言い聞かせてきた。

 いつか女性に恋することがあっても、この子だけは違うんだと自らに誓っていた。

 義花は仁輔と、子供どうしで結ばれるのが最善だと、疑っていなかった。


 なのに。昨日まで全部、上手くいっていたのに。


 あの子は、私が封印してきた欲と記憶を、引きずり出してしまった。


「……実穂、怒ってよ私のこと」


 私は顔向けできるだろうか、天国のあの人に。


 私は戻れるだろうか。

 あの子を娘と思えていた、今までの自分に。


 私はまた抑え込めるだろうか。

 実るはずのない、女への恋心を。

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