コンティニュー?



■コンティニュー?



 キルコの誕生日から1か月が経った。

 この部屋で誕生日パーティーをしたのがなんだかすごい前の話みたいで懐かしい。


 ネットで散々騒ぎになった聖剣神話の集団バグ事件。動画や写真など、誰1人として証拠を残せなかった。

 そのため今では、テレビ画面にかじりついて魔物と闘っていたであろうプレイヤーたちも、「あれは幻だったのでは」と思い始める始末だ。


 アタシが現世に戻ってきた後、アタシや、他のプレイヤーたちが見ている前で聖神世界は壊れた。魔王城が崩壊し始めたと思ったら、世界の全てがクシャクシャに収縮していった。


 そして、真っ暗に。


 2時間悩んで、ゲーム機の電源を落とし、再起動した。


 しかし、真っ暗だった。

 聖剣神話1は、もうどこにも無かった。


「たまには帰ってきなよ。君の部屋に」


 アタシがあまりにキルコの部屋に入り浸るものだから、ワタベは呆れ返っていた。


「ゲームの話だろ?」

「ゲームは消えない」


 キルコの部屋を探ると、クッキーの缶に大事そうにしまわれた四月一日瑠姫子の戸籍の写しが見つかった。


「ひとんちを散らかすなよ。せめてゴミは捨てろって」

「ゴミは消えない」

「君が捨てないからな」


 昔みたいだ。友達をなくし、何もする気が起きなかった。

 友達を救えるような人に憧れて、ふと思い出して、やり尽くした聖神をプレイして、やべこを育てた。もうやべこにも会えない。


 日にちは過ぎる。

 ためしにもう一度、聖神を起動してみた。

 やっぱり真っ暗だ。次の展開がない。


「キルコ・デ・ラ・ジィータク・シュタイン。どこいったの」


 キルコはデラ贅沢がしたいん。


 何度思い返してもふざけた名前だ。


「やべこ」

「なにワタベ」

「次に進まなきゃ」


 ワタベは、何年か前と同じセリフを言った。

 心霊体験で友達をなくした時、引きこもったアタシに言ったセリフ。


 次に進まなきゃ。


「あ」


 アタシは勢いよく立ち上がった。


「続きだ」


 ふと、思いついて、カセットをとりかえた。

 聖剣神話1から、聖剣神話2へ。

 起動すると、おなじみのタイトル画面。



 はじめから

 つづきから



 2つの選択。

 はじめからにしたら、聖剣神話1を終えたキルコがいるかもしれない。

 いや? ちょっと待って? 違う。

 アタシは『つづきから』を選んだ。

 そうだ。あの時セーブした。もしかしたら、もしかしたら――――。


 王冠を隠した精霊の渓谷から画面は始まった。


 しかし、キルコはいなかった。

 玉座に置いた王冠すらもない。


 ドット絵の勇者パーティがその場で足踏みし続け、精霊たちがその場で羽ばたき続けている。


 じゃあ、やっぱり、

「はじめから……かな」


 電源ボタンに手を伸ばしかけ、止まった。


 待って!


「…………キルコ?」


 画面を凝視していると、ドット絵のキルコが走ってきた。続いて、金髪のおねえさんと、闇黒三美神。


 体に衝撃があって、後ろに転がる。


「やっとコンティニューしてくれた! メル、遅いよ!」


 キルコがアタシの上に乗っかって喋った。


「うそ? キルコなの?」

「うん、久しぶり!」


 キルコは笑った後に慌ててアタシの上からどいた。


「み、みんな無事だよ」


 照れたキルコが可愛すぎて、1ヶ月ぶりの採寸をする。

 ぎゅーっと抱きしめる。


「やめてよメル」

「ゴメンゴメン! で、みんなって?」


 キルコの後ろから金髪の美人のおねえさんが顔を出す。


「はじめましてぇ~。わたし、女神のパルフェと申しますぅ。メルさん、お話はかねがね」


 え、女神様?

 それから闇黒三美神。


「たくよぉ。なんでさっさと2を起動しないかねぇ」

「1か月も待たせてくれましたね……」

「向こうでともだち100人できたよっ」


 テレビ画面には、ぞろぞろと勇者たちが現れた。


「勇者たちはみんな向こうにいるよ。ボクたちの国もつくったりしちゃってたり」

「なんで2にいるのよ。なんではやく帰ってこなかったの?」

「帰る?」キルコは嬉しそうに笑った。「壊れた聖神世界の中で、みんなを現世に送ったつもりが失敗しててね。そのまま女神様とさまよっていたら、これ」

「王冠?」 


 キルコは王冠を頭からとって、アタシに見せる。


「ゴートマが王冠が不完全と言ってたのは、2の世界に隠してセーブしちゃったからなんだ」

「そうなんだ」

「でね、力尽きて疲れきったボクとパルフェさんは、この王冠……お父さんの声に呼ばれて、2の世界にたどりつけたんだよ。お父さんがいなかったら、ボクらはずっと何もない世界にいたと思う。ボクにもお父さんがいてよかった」

「女神様の力でなんとかならなかったの?」

 そう聞くと、パルフェという女神様ははにかんだ。

「わたしも一応は女神ですが、瑠姫子さんと土井さんを転送したりとか、なんやかんやーで神様の力を使い切っちゃいましてね。もう今ではただの綺麗なおねえさんなんですよ~」


 こつん、と頭を自らたたく女神様。


「転送?」

「わたしが管理していた世界です。今じゃきっと、先輩か誰かが異常に気付いて管理業務を代わっているでしょうね~」

「パルフェさんはどうするんですか?」

「ですから、もうただの綺麗なおねえさんです~」

「はぁ……」


 どんどん拾いもんしてきちゃうな、キルコったら。


「なぁ、話すのはなんか食いながらにしねぇか?」

「腹が減っては戦いはできません……」

「もう戦いはいやだよっ」

「ご飯ならわたしに任せてください。わたしすごいもの持ってるんですよ~!」


 パルフェさんはクレカを掲げて見せた。


「このカードがあれば、1ヶ月のうちいくらお買い物しても、月々に払う金額が同じなんですよ~!」

「いやそれ……」


 リボ払いの沼にハマってるじゃん。


「なんだそれすげぇ!」

「どこで入手できるのですか…………」

「わたしも欲しいなっ!」


 愉快な仲間たちだ。


「アタシもそれ持ってるから、今日はアタシが奢るよ。みんなで美味しいもの食べに行こ」


 楽しい夏だった。

 みんなでぞろぞろと部屋を出ていく。


「どうしたの、メル?」

「ん? いや、なんでもないよ」

「そう? ならいいんだ。メルが元気でいてくれたら。あそうだ。ゲーム消してなかったね」


 キルコがゲームのコントローラーを握り、そして悲鳴を上げた。


「どうしたの!?」


 みんなで部屋に戻ると、キルコの上にセクシーな体つきの女性が覆いかぶさっていた。


「見つけたわよ! キルコ・デ・ラ・ジィータク・シュタイン!」


 赤紫のロングヘアをかき分けて伸びる漆黒の双角。深紅のドレスはスリット入りで、白く長い脚が艶かしい。これは、まさか……。


「えっと、あなたはもしかして……?」


「アタシは貴方よ! キルコ・デ・ラ・ジィータク・シュタイン! 聖剣神話2のラスボス! 気高き女王様よ! でもね、今は違うの! ただの綺麗なおねえさんなの! なんでだと思う!?」


「な、なんででしょう……」


「貴方が正真正銘の魔王様になっちゃったからよ! 本来ストーリー上はアタシが女王様だったのに! どうしてくれんのよ! 責任とってよ! もーー!」


 年上美人にギャン泣きされ、顔面蒼白のキルコ。


 女神様や三美神たちは、なんだそんなことかと外に出ていく。


「なぁそのカードどこで手に入るんだよ」

「日本の大統領は国民に配布すべき……」

「ねぇねぇそれってお洋服にも使えるのっ?」

「全てを手に入れることができますよ~」


 すごーい! と階段を降りていく。


「メルー……助けて」


「これは新たなる2がある予感ね」


「キルコのバカー!」


「勘弁してください……」


 とりあえずギャン泣き女王を魔王から引き離す。


「どうしたらいいのかなぁ……」キルコが苦笑い。


「やるしかないでしょ」


「なにをさ」


「決まってるじゃない」


 アタシはゲーム機の電源を切って、テレビを消した。


「みんなの『つづきから』をね」





――――――おしまい


貴重なお時間を割き、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。


『追放魔王のコンティニュー』

この後、別作品である、

『ティル・デス』

の世界へと続きます。


興味がありましたら、ぜひお読みください。


朱々

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追放魔王のコンティニュー!「コスプレの聖地で隠居していたら勇者に命を狙われるようになって困ってます」 朱々 @akiaki-summer

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