3月26日 現実にもマーリンが居ると、嬉しいけどちょっと混乱する。

 昨日から出入りが許されたので、寝室で待っていると。

 本当にそのまま寝に来て、ふと目を覚ました。


「マーリンか、現実か」

『そう言う時は、自分の手を見れば良い』


「紫苑の手」

『だな』


「おう、トイレ行くわ」


 そうしてトイレに行き、下に降りずに小屋の屋根で一服。

 1人が1番落ち着く筈なのに、俺を排除しない。


 クラっとしたのか、そのままストレージにしまい、歯磨き。

 それからやっと布団に入る。


 以前なら従者が付き添っていたが、今はもう無い。


 妖精も、もう居ない。


『眠れるか』

「飲んで寝ると寝れんのよなぁ…ドリームランドに誰か居るかね」

『神々や精霊だけじゃよ』


「そっか、寝てる時は戻すかね。じゃあおやすみ」


 透明な鍵は強力で、触れた瞬間に深い眠りに落ちる。

 ドリームランドへ、の深い眠り。






 花子の手。

 マーリンは熟睡中。


 紫苑に変身し、下へと降りる。


「おはよう」

「おはようございます、鈴藤さん」


 凄い違和感、前も感じたこの違和感。

 なんだろ。


「夜の酒はアカンね、夜中に起きたわ」

「じゃあ、起こさない方が良かったですかね」


「いや、設定の事が有ったし大丈夫」


 計測、中域。


 普通に食事が出来るので、朝からお外でエビフライとハンバーグ弁当を食べる。

 うん、4軒目で良いかな。


「どうでした?」

「この5軒目は持ち帰りやってるし、4軒目かな」


「じゃあ、連絡しておきますね」

「よろしこ」




 昨日に続き桜木さんに、紫苑さんに意地悪をしてしまった。

 第3世界で「桜木さん」と言わせなかった事が引っ掛かり、昨夜、試してしまった。


 「鈴藤さん」と呼んでみた。

 一瞬止まった後、通常通りに。


 そして今さっきも、また止まった。

 向こうで決め、向こうで呼ばれた名前を使われたく無いなら、どうして言ってくれないんだろう。


「お店から了承頂けました」

「マジか、早いなぁ」


「向こうの都合の良い時で、とお約束しただけなので」

「そっか、細かいのはまた今度か。今日は何を食おうか、何が良いと思う?」


「お野菜は、ジュースで大丈夫でしょうし」

「さっきのは海と山のモノだしなぁ、あ、パスタか」


「クレープはどうします?」

「合間やね。うん、鈴藤で身分証お願いします」


「他の名前を、新しく考えても良いんですよ?」

「紫苑に合うの難しくね?」


「慣れてしまうと、合わない気はしますけど」

「藤堂紫苑とか綺麗過ぎっつうか」

「腐ってそうだな」

「おはよー」


「おはようスーちゃん、リズちゃん。名前から腐ってるって酷くない?実際に居たら問題ぞ?」

「すまんな、付き合いでお前の腐ったの少しな」

「私はガッツリ観ちゃった☆」


「おふぅ、ショナ」

「大丈夫です、観てませんよ」

『我ってソコはちゃんとしておるし』


「あ、悪夢まみれの時はどうしてたんよ」

『ちゃんと守ったわぃ』


「なら良いんだけど」

「お前のソレは観れ無かったな」

「私も、そんなになの?」


「だね、神々や精霊限定やね」

「僕も、ダメですかね」


「見せられた悪夢だからね、観る意味すら無いし。2人は朝食に何食いたいよ」

「和食、飲める系」

「じゃあ私も」


「へい」


 話を打ち切られてしまった。

 なら、ソロモン神はどうなのだろうか。


「あの、ソロモン神へ質問が有る場合は」

「ダメー」

『良いですよ、さ、行きましょうか』


「あー、言う事を聞いてくれなぃー」

「どんまいよ」

「お茶無いか?」




 実に面白い事になっていて、私は充分楽しいんですけれど。

 このお坊ちゃんはちょっと、注意が必要かも知れませんね。


『悪夢の内容を話す事は出来ませんよ』

「観る為の抜け道をお願いします」


『対価は何を?』


「いえ、その答えでもう充分です。抜け道が有るって事ですから」

『上手になりましたね』


「はい、皆様のお陰です」

『もう良いですかね、凄い睨まれてる気がするので』


「はい、ありがとうございました」


 こなれてくれたのは良いんですが、あまり捻れてしまわれても面白く無いので、少し手伝いましょうかね。


「ショナ」

「何の成果も得られませんでした」

『何にでも対価は必要ですからね、差し出せるモノが無いと、交渉にすらなりませんから』

「難しいよなぁ」

「髪の毛はダメなんですか?」


『良いで』

「ダメー」

「桜木さんは、髪は対価にはしませんでしたよ」


「そうなの?」

「1回切ったらもっすごい落ち込まれた」

「ローブの素材にってな、綿が有るのにバカなんだよ」


「それ、最初から観たいんだけど」

「最初は病院とメシばっかやぞ?」

「それから神獣の卵な」

《えへ》

『えへへ』


「殻ってどうなっとるん?」

「魔道具の材料になった」


「ほぇー」

「ねぇ、観ちゃダメ?」


「対価は?」

「この体じゃダメ?」


「スーちゃん、髄まで百合でらっしゃるか」

「コレって百合になるのかなぁ?」

「紫苑なら、トランスモノの薔薇になるらしい」


「それで良いのか?」

「んー、んー、ハナの方で」


「えー、紫苑なら飲んだわー」

「えー」

「どっちもえーだわ、朝からアホか」


「夜なら良いのか」

「俺とスーちゃんは未成年だ」

「あ、遊園地行きましょうよ」


「なんで急に?」

「今日じゃ無くても良いから、子供は値引き有るじゃない、身軽だし」

「俺がまだ乗れん」


「そこは魔道具でズルっこしようや、エンキさんエンキさん」

『良い景色だ』

「お、あ、今日は違うんです、マジで」


『そう心配するな。それにこの景色だ、少し位は良いだろう』

「お酒もどうぞ、おツマミも」


『あぁ、頂こう』


 この子の父親的、祖父的存在。

 私よりも古い神。


『ソロモンと申します』

『おう、面白い事を企んでるいるそうだな』


『お気に召しますかどうか』

『あぁ、気に入った、アレには良い薬になるだろう』


『宜しいのでしょうか』

『アレがお前を受け入れたんだ、遠慮する事は無い』


『はい、ありがとうございます』




 桜木の恩人、恩神、エンキ神。

 ソロモン神が頭を下げてる、何の話なんだろうか。


「ソロモンさんが畏まってるの、初めて見たかも」

「エンキ神の方が古いそうですから」

「一応、年功序列が有るんだな」

「あ、終わったみたい、聞かなくて良いの?」


「だね、付いて行こか?」

「大丈夫、行ってくる」


 体の事だけじゃない、世界と桜木と人間の事。

 変えるには、良くするには神々や精霊の力が必要なんだが。


『その女に断られたら、魔道具は返すんだぞ、使用は週に7時間だけだ。それと、その案には賛成だ、より良い世界を目指すのは基本中の基本。問題は言い出しっぺ、誰が先に行動するかが重要なんだ』


「へ、あ、はい……桜木は、ずっとこんな事を、して、考えてたんですよね」

『あぁ、もうな、癖だろう。あの時に便利な通信機が有れば、魔法が有れば、誰かが居たら。そう過去を修正し続けたからこそ、ココへ来て妄想では無いのかと恐れた。だが現実と認めた瞬間に、それがそのまま未来へ向かった』


「それであの」

『灯台サイズの誘蛾灯、封印するには死ぬ以外には無い。ただ、その大きな灯台を覆える程の愛が有れば、別だがな』


「それは」

『そう、ソロモンはある意味では正しい』


「はぁ、後は」

『人間側は、人なりに頑張るしかあるまい』


「桜木は」

『ふふ、アレにはココまではしておらんから心配するな、コレはちょっとしたイタズラだ』


「はい、ありがとうございました」




 リズちゃんが心配で、紫苑ハナと窓に齧り付いていたんだけど。


「ずっと、鳩豆やったね」

「もうマシンガンよね、驚きっぱなしで。お帰り」


「はぁ、疲れた」

「いや、どうだったか言えし」


「週7時間まで、断られたら即返品」

「よし、臍出せ」


「痛覚切ってくれよ、マジで」

「は、我儘じゃね」


「は」

「対価だ」


「っ分かった」

「おう、痛くしてやるからな」

「がんば」


 リズちゃんは見事に耐えて、おヘソに穴が開いた。


 そして今度は鍛冶神達と紫苑ハナが会話して、泉から魔道具が飛び出して来た。


「お前、コレの対価は」

「無い無い、君が鍛冶神達にどうなったか報告するだけだって」


「な、あ、うん、それはする」


 温泉に行き、帰って来ると普通に格好良い男の子に変身してしまっていた。

 羨ましいけど、まだそこまで好きになれる人が居ないのに望むのって、きっと、不敬だし。


「どや」

「名前どうするん」

「元の名前は?」


貴好きよし

「似合わんなぁ」

「ね、もう少し高みを目指す感じでも良いんじゃ無い?」


「急に言われても」

「多国籍とかどうよ、ワシのみたいな」

「ノア、とか」


「じゃあそれで良い」

「なん、適当な」

「紫苑は、何で鈴藤にしたの?」


「最初は鈴木とか田中かなって思ったんだけど、ホイホイ反応するのも面倒だし、乖離してると覚えられなさそうで、じゃあ藤も紫だからイケるかなって」

「シオンありきなのね」


「花子の名前で誂われたから、名前を変えるならシオンとかって。どっちでも良さそうじゃん、男でも女でも」

「あー、トイレの?」


「それと桜が相まってね、名前は可愛いのにって、うっせぇわっつの」

「チーちゃんチビチビうんこたれ」

「きよしこの夜にマジで来んのかよ」


「クリスマス限定?」

「あぁ、もうあの曲が嫌いで、大嫌いだわ」

「ショナ君は無さそうだけど」


「兄で良いなら、しょうがないショナはしょうも無い子」

「あのお兄ちゃんに何が有ったのよ」


「味付けをミスした時に、言い訳をしてしまって」

「あぁ、しょうがないじゃんか、と」

「逆ギレに誂いね、やるわね」

「なぁ、見たんだろ?」


「似て無いんだわ、不思議」

「兄は母似なので」


「え、母ちゃんが濃いのか」

「はい、どちらかと言えばそうかと」


「へー、俺、コレ、どっちなんだろ」

「パパでは無さそう」

「ですね」

「へー」


「大丈夫かなぁ」

「はよ、今から行きなさい」


「えー、いやぁ」

「ショナ付いて行きんさい」

「はい」


 紫苑が送り出して暫くすると、通信機で何かを話し始めた。

 そうして直ぐに、空間が開いたんだけど。


「ダメ、だった?」

「女しか、ダメらしい」

「おーぅ、おー、マジか、甘いのヤケ食いするか?」


「いや、もう良い。ありがとう、返す」

「着替えるついでに風呂にでも行ったら良いさね」


「おう」

「ショナかスーちゃん」


「ショナ君、良いか」

「あ、はい」




 人の失恋に、転生者の方の失恋に立ち会ってしまった。


「リサーチすべきだったと思うか?」


「リサーチして、真実が出てくるかは別ですし、時間は有限ですし」

「女でかぁ、そこまでじゃ無いんだよなぁ」


「まだ、怖いですか?」

「クッソ怖いわ、ピアスは一時的だったけどな。慢性的な、内臓の痛みは種類が違うからな」


「まだ、そうなると決まったワケでは」

「な、ビビりなんだよ。スーちゃんも、初めてが怖いからあんな事を言っただけで、半分は本気じゃ無いと思うぞ」


「半分は本気なんですね」

「世間話だが、失敗して暫くダメになる奴も居るって、向こうで聞いたんだが」


「ココでも、そうらしいですね」


「失敗を失敗と知ってるから、失敗が怖い。もう既に基盤が出来てるし、失敗、落胆させたく無いって、だから河瀬もビビって、俺もスーちゃんもビビって。凄いよな、桜木は」


「そうですね、恐れて何かをしないなんて想像も出来ませんし」

「まだ神聖視中かよ、恐れを出さないだけで、しない選択肢はちゃんと有るんだぞ、アイツにも」


「例えば」

『あまり長湯しない方が良い、変化後は不安定だから』

「あ、はい、ありがとうございますスクナヒコ様」


 桜木さんが、恐れてしない事。




「スーちゃんは何も良いの?」

「ココに居れるだけでも充分だから」


「ワシが言うのもなんだが、高望みしても良いのでは」

「するけど、神様に何かをお願いする程じゃ無いし」


「良い人が見付かります様に、位は良いでしょうよ」

「まぁ、その位は。お願いするなら11月かしら」


「先が長げぇよ、神社巡りでええやん」

「何か、頼っちゃって良いのかなーって」


「一緒に行こうか、嫌なら追い返されるだろうし」

「良いの?嫌じゃ無い?」


「それは大丈夫」


 嫌なら嫌と直ぐ言ってくれるし、後から言われるより良い。


 問題は、何処に行くかだが。




「ありがとうございました、お返しします」

「お返しするそうで。え、あぁ、はい、お受けします」


「お前、何を受けた」

「いや、貸すから好きにしろと。受け取らないと、対価を支払わせるって」

「何か押しが強くなって無い?」


 桜木さんが泉に投げ込んだピアスが戻って来た、対価無しで貸す、と。

 桜木さんが既に持っている魔道具、コレに何の意味が有るんだろうか。


「貰うより気が楽、ショナ、次は君だ」

「はい」

「え」

「マジかよ」


「マジか」

「はい」


「お臍にピアスですぞ?」

「はい、どうぞ」


 桜木さんが止まった。

 止まる規則性が分からない。


「医療行為だし、お医者様に頼もう」




 紫苑さんに何を頼まれるかと思えば、臍ピアス。

 しかも祥那君に、魔道具を借りたからだそうで。


「ハナ、コレは目に毒だわ」

「でしょ、ご理解頂けて嬉しいです」


「腐ってやがる」

「「早過ぎたんだ」」


「チッ、意気投合しやがって、クソが」

「八つ当たりだぁ」

「一緒に神社巡りして、良いご縁をお願いしましょ?」


「マジか、良いのかよ」

「おう、巡らせたる」

「ショナ君、候補地有る?」


「はい、送りますね」


 候補地選びは人に任せ、紫苑さんは祥那子ちゃんに着せる服を選んでいる。

 どうやら、ご自分は参る気が無さそうですけど。


《ご自身は参られないつもりですか?》

「え、なんでよ紫苑ハナ

「いや、一括で気に入らんと追い出されても困るんで、ワシは後日改めてですね」

「じゃあ俺は行かんぞ」


「そうよ、紫苑ハナを嫌うなら他に頼むもの」

「なんだ、他にも理由が有るなら言ってみろよ」


「御神籤引きたくなるから」

「そこ?」

「終わったんだし引きまくれば良いだろ」


「慎め、とか控えろとか言われたら、秒で引き籠もっちゃうよ?」

「あー、なるほどね」

「じゃあ俺か先生が先に見るのはどうだ、運勢が変わったら見せる」


「君等の預かりになれば、慎め、控えろって書いて有る事になるやん」

「じゃあ全部先に見て無作為に預かる」

「ココ、どうかしら。群馬県の冠稲荷神社、木瓜の花が満開みたい、どんな匂いなんだろ」




 結局、ショナの変身はお預け。

 リズちゃん、スーちゃん、コンちゃん、先生にショナも連れて神社へ。


「待ってる」

「悪縁断ちも有るそうですし、それだけでも行きましょうよ」

「ほれ」

「ほらほら」


「お邪魔します」


 静か、反応が無いのも怖いが、本堂と悪縁断ちだけ済ませ、後は見守りに徹する。

 御神籤は、もう少し状況が落ち着いたら。


 お昼。

 パスタ祭りへ。

 コレもオモイカネさんから送られたお店へ向かい、試食。


 喫茶店のパスタ、ドンピシャ。


 そうしてお昼を終え、浮島へ。


 リズちゃんとスーちゃんは桜の下で、お昼寝へ。


 一服。


《人と、思い出の共有は、まだ難しいですか》

「全部はね、人を選ぶ、スーちゃんは確実に大丈夫」


《どう、難しいんでしょう》

「思い出が上書きし合う感覚が苦手、前の世界の事を思い出して、懐かしいと思ってしまったり。それが申し訳無かったり」


《戻りたいかどうかは》


「分からん」

《ですよね、良い世界だと思って救おうと帰って来て、コレですし》


「エミールは、映画館を観たんだろうか」

《お会いになられては》


「17時で8時か、その頃に聞いてみるよ」


 それからは神獣達と戯れ、お昼寝へ。






 桜木花子に会う為に、ココへ来たのに会えない。

 それは祥那君も一緒で、会えないままにシバッカルの宮殿に居る。


『隔離じゃ。感覚を共有した事は薄々気付いておるでな、接触し、客観性を保てなくなる事を向こうが怖れておる。お主らの為じゃよ』

《説得するのは難しそうですね》

「先生は分かりますが、どうして僕も」


『記憶の共有が始まった、映画館での共有では無いが、時間や距離を埋める為の作業が始まっておる。アレクとお主の対話を、知ったんじゃよ』

「じゃあ、僕を裁定者にって話しが」

《詳しくお伺いしても》


「アレクの贖罪期間を僕が決めるのはどうかと」

『じゃの、適任じゃろうとな』


「そんな、そんな軽口をどうして」

《従者の再選定が行われる可能性が出てきましたね》

『まぁ、賢人はスーちゃんの従者になったのじゃし、ミーシャは長寿じゃから気にしておらん』


《だから、祥那君だけなのですね》

「そんな、たかが結婚の為だけに」

『ほれ軸や、たかが結婚と思っておるか、なればハナも同じになるぞぇ』


《そうですね、アナタが基準ですから》

「たかがは言い過ぎましたけど、僕なんかより」

『ハナも、そう思っておるんじゃよなぁ、私なんか。と』


「でもだって、桜木さんは召喚者で」

《アナタと同じただの人間ですよ》

『じゃよ、アレに区別はそう無い。妖精であれ神であれ、番は必要であろう。と』


《例えば淡雪ですね、なら精霊は》

《私は半身ですので除外されています》


「僕は別に」

『そこが違うんじゃよな、お主には家族が居る。じゃが、家族は居た方が良いと思うは、同じじゃね』

《家族の問題を、受け入れたのですね》


『まだ、信頼し合える強い繋がりを持った仲間、じゃ。まだそこまでじゃがな』

《アナタは、協力的なんですね》


『厄災になられては困るでな、ハナへの介入方法への変更が行われた。人々も、それを了承する』

「まだ、そんな知らせは」


『もう直ぐじゃよ、ほれ』


 祥那君の手に通信機が現れ、着信音が鳴る。

 そうして彼が画面に目を向けると、眠りについた。


《気付けば、意識を向ければ起きられる。便利ですね》

『お主は気にならんか』


《ココへの興味の方が強いので》

『明晰夢とそう変わらんよ、見知らぬ場所は処理が重いで、初心者には安定した場の提供が可能で有ると、そう示しているに過ぎぬ』


《既存の場所、地図、ですか》

『実質無限じゃよね、宇宙と一緒じゃ』


《願いが、少し違う様ですね》

『じゃよ、地球本来の神々は地球の存続を。ココはココの拡がりと継続が願いじゃ』


《衝突する事は》

『無い。ただココが滅びてもココは継続するでな、そう協力する事は無かろうが、邪魔もせんよ』


《桜木花子が死んでも》

『もう、影響は無い』


《では、何故》

『恩と言う概念も、等価交換の概念も有る。有益だからだけでは無いが、観測者には有益なんじゃよ』


《人間が認識し、始めて固定するんですね》

『そうじゃよ、第3でのマーリンはあくまでも誘導したに過ぎぬ。アレが受け入れねば、所詮は消える蜃気楼じゃ』


《そう言えば、砂漠地帯が有りましたね》

『アレもココではどうなるかは不確定、アレが有益と見なすかどうかじゃ』


《それを、人間に誘導する事は》

『可能じゃよ、アレが納得すればな』


《間違えば、危ない場所になり兼ねないんですが》

『それを無力化するのもハナじゃ』


《本人は、重要な人間になる事を避けてる筈では》

『ココは別じゃ、何でも出来ると思っておる』


《では、本当に繋がる可能性が》

『ふふふ、認識し、気付く誰かが居れば、じゃな』


《固定される。大事になりますよ》

『全ては大多数が決める事じゃろう、ふふふ』






 目覚めて直ぐ、先ずは桜木さんを確認、まだお昼寝中。

 それからタブレットを取り出し、連絡が無いか確認。

 まだ眠ってから15分も経っていない。


 まだ来てはいない。


《連絡は、有りましたか》

「あ、先生、まだです」


《あぁ、そう言う事ですか》

「どう言う事なんでしょう」


《私達が何か報告すれば、そうなるかも知れない、と。予言ですかね、アナタが起きてからも暫く話したんですが、ドリームランドの内部を認識し、報告する事で固定される可能性が有ると。桜木花子が認識し、認めれば、他の世界とすら繋がれる。大事になると起きたんですが、報告が無いとなれば》

「僕らの報告次第で、ドリームランドが他と繋がる」


《それを桜木花子に確認しても、認識され、固定されてしまう》


「憶測するしか無いんですかね」

《寧ろ、他へ移動されてしまう心配をするべきでは?道が出来上がってしまう事にもなるんですよ》


 もしそうなら、どの世界なら、桜木さんが幸せになるんだろうか。




 折角、祥那君が考えるチャンスであったのにも関わらず、タブレットへ緊急通信が入ってしまった。

 内容は桜木花子の国連への召喚状、日時は何時でもとの事。

 もう、準備が整っているとのブラフか、舐めてらっしゃるのか。


「無視、させようかと思うんですが」

《それでは、桜木花子の意に反しますよ》


「ですが、制御具を付ける事になるかも知れないんですよ」

《それも全て、桜木花子の決める事、人間が決める事。実行しても良いですけど、本当に縁を切られる可能性が出ますよ》


 祥那君が完全に止まった。

 個人の感情が関与するとフリーズする、良い兆候なんですけど、邪魔が多いのが問題で。


《仕方無いのぅ、知らせてくるでな》

「あ、待って下さい」




「今直ぐ行く」

「ですよね」


「何でハナだけ」

「何で行くんだよ、クソドMが」

「安心して貰いたい、そうじゃ無いと良い判断は出来ないでしょうよ」


「どうしてそこまですんだよ」

「召喚者だから」


 仕方無い、一時的な事だろうし。

 また何処かに飛ばされる可能性が有るかもだし、だから力は手放せないし。

 でも結構な力を持ってるんだし、うん、仕方無い。


「反対、ダメ、行っちゃダメ」

「無理、省庁行くし送るよ」


 花子へ変身し、着替えて省庁へ。

 透明な鍵でスーちゃんを脅し、ショナと国連へ。




 ドリームランドに匿われていた少女すら、裏切り、桜木さんに制御具が付いてしまった。

 それをアッサリと受け入れてしまった。


 それから告解魔法までもが掛けられ、再尋問へ。


 少女の件は、本当に桜木さんは何も知らない事が証明されたが、制御具での抑制はそのまま。


 浮島での軟禁生活が決定。

 アレクだけが、他の従者の監視の元で、桜木さんに接触する事になった。


「桜木さん」

「おう、お疲れ様」


 そう言って、桜木さんとアレク、女性の従者が浮島へと帰って行った。




 監視と世話係を任され、召喚者である筈の桜木花子様の浮島へ行く事になった。

 カールラ様、クーロン様は故郷へ。

 虚栄心様と白雨さんは、ベガスへ、其々にアレクシスさんが送る事に。


 桜木様に許されているのは公式用のタブレットだけ、外部からの通信も不可能。


 僅かに期待していた神々からの接触も無し。


「あの、何か必要なモノはアクトゥリアンを通じてお出し頂けるそうですが」


「バスローブ、着替えと、思い草、エリクサー関連」

【はい。他には良いんですか?スノードームとか】


「良い、しまえないのは嫌だから」

【はーい、では】


 そう言って、一服しに外へ。

 そのまま花見をし、眠ってしまった。


 少ししてアレクシスさんが帰って来ると、桜木様の様子を見てからコチラにやって来た。


「いつから?」

「20分前に一服し、終えた後にお昼寝へ」


「そっか、オヤツの時間に起きると思う。で、夕飯にまた来る予定なんだけど」

「はい、分かりました」


 アレクシスさんは桜木様へお布団を掛け、中央分離帯跡地へ。




「おはようございます、アクトゥリアン、オヤツ」

【はいはーい、どうぞ】

「あ、お茶を」


「いや、大丈夫です。何か協力出来る事はありますか」


「あの、精神鑑定の記録用に鑑賞して頂きたいモノが御座いまして」

「了解しました」


 集中出来無い、つまらない。

 タブレットでゲームした方がマシ、鑑賞しつつ箱庭ゲームを開始。


「あの、つまらなかったですか?」

「集中出来ずで、はい」


「では、止めますね」

「どうも」


 一服へ。

 コートを使えないのはキツいな、暫く禁煙か。


 温泉に入り、寝間着に着替え寝転ぶ。


 寒いな。


「あの、髪を乾かすのはどうしたら」

「あ、はい【ドライ】」


「ありがとうございました」


 また箱庭ゲームへ。


 コレが、一生続くのはキツいかも。


 向こうでは、どうしてたっけ。


【ゲーム、飽きちゃいました?】

「うん、塗り絵出して」




 桜木様はゴロゴロと、箱庭ゲームをしたかと思うと、塗り絵を真剣に始め、お夕飯の時間まで続け。


【お夕飯ですよー】


「刑務所ってこんなんですかね」

【かもですねー】

「あ、えっと、確かにお食事の時間は決まってますが、桜木様は外出の権利もございますし」


「なるほど、刑務所視察したいです」

【了解でーす、今日の夜中12時に向かいましょうね】


「決定事項かい」

【いえいえ、今さっき決めました】

「え、では報告を」


【もうしたから大丈夫ですよー】

「あ、はい、ありがとうございます」

「慣れて無いんですか?」


「はい、ですね。すみません、それと、お言葉は砕けて頂いても」

「善処します」


「おう、メシ、1人かよ」

「おう」


「じゃあ俺も食べる」

「用は」


「無いけど」

「元魔王が、元非公認魔王と接触して良いんですかね」

「その、はい、大丈夫です」


「サクラの方が危ないからな」

「ですよねー」

【では、アレクさんもどうぞ】


「何で盛り合わせを出すぅ」

「良いじゃん、美味いんだし」


「ダメ、実は中に洗脳する何かが」

「え」

「はいはい、凍り付かせんなよな」


「あ、やっぱり、少し不安に、ごめんね、冗談です」

「いえ、違うんです」


「アンタ、信じて無いなら向いて無いよ」

「その」

「これ、八つ当たりしない」

【大丈夫ですよ、12時間で交代になるので、どちらもご心配なく】


 それからはもう一言も話されないで、歯磨きをしてお布団へ行かれてしまいました。


 信じて無いワケでも、疑ってるワケでも無かったのに。

 あんな反応をして、傷付けてしまいました。




『強烈な冗談だったな』

《じゃの》

「ウッカリ言いました、すみませんでした」


『寝れないなら、眠らせてやろうか』

「君等は接触して良いのかね」

《何を勘違いしとるんじゃ、アレは人の理。我らへの制約は無いんじゃよ》


「じゃあ、ワシが拒絶したら」

『嫌なら帰る』


「嫌では無いが、心配してくれてるなら大丈夫」

《遠慮は可愛げが無いぞぃ》

『眠らせてやる【ゆっくり優しく、甘い…】』


《相当参っとるな、意外と不便じゃと》

『だが、介入の件は未だに定まらん』

『クエビコ神は、無理に居る必要は無いんじゃないか』


『現行法において、どれだけ召喚者が不便を強いられるのかを見定めねばならんし。コヤツの思うままを、見届けたいんだ』

《あぁ、呼んでおるな》

『行ってくる』


『にしても、見えぬからと随分とおちょくって、コレの負担になっておらんのか』

《楽しんでおったぞぃ、変人の称号は流石に欲してはおらんのじゃろう、我らには反応せぬ様に、良い訓練じゃて》

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