3月25日 昨日は暗かったのに、今朝は明るかった。




 再び、桜木花子へ会いに行こうとは思ったのですが。

 まさか、他にも人が居るとは。


《祥那君、君もですか》

「はい、観れば分かるなんて傲った考えだったので、確認に。先生も、なんですね」


《そうですね》


 ココは古い映画館前。

 先日、桜木花子へ私が警戒している事が伝わったせいなのか、神々の悪戯なのか、本人に会えないまま映画館へ強制送還。


『それも有りますが、負荷を避ける為ですよ』


 ソロモン神にフリーパスチケットを見せ、館内へ行こうとすると祥那君が止められた。

 対価を支払え、と。


「対価、じゃあ今までは」

『今までは桜木花子が一緒、あの子が支払いをしてくれていたんですよ。金の粒か何か、お持ちでは?』


『あまり意地悪をしたら、アレに嫌われるぞ。向こうの俺が受け取ったモノだ、お前にやる』

『甘いですねぇ』


 マーリンが手から金の粒を出すと、両手を受け皿にした祥那君の目の前に透明な鍵が現れ、吸い込んだ。

 彼だからなのか、ココだからなのか、介入の件は気にしていない様子。


『アイツは召喚者としてだけじゃ無く、俺に与えた。土蜘蛛の長にもだ』

《そうだね、一個人として受け入れてくれた》

《ふふふ、ココがあの子の映画館なのね。どうも、私はロウヒ》

『初めまして、イルマリネンだ』

『トールだ』

『俺はロキー、勢揃いだぁ、よし、第2世界は向こうだよ』


「先生」

《私達も、第2世界から観るべきなのかも知れませんね》


 1番良い席には、ロウヒ、イルマリネン、マーリン、トール。

 その後列に土蜘蛛の長、ロキ、ソロモン、その更に後ろに私達が座った。


 予告編は無し、楽しい宴会の後。

 真っ白な景色が映し出された。






 結局、昨日は暗いショナに突っ込めぬまま爆睡。

 そして下階へ。


「おはよう」

「おはようございます桜木さん」


「お、何か吹っ切れたのか、良い報告が有るのか」

「両方ですよ、ね、アレク」

「ほれ、カラクッコ」


「おほー、ちょっと冷めて良い感じ、どらどら」


 美味い、アゴに来るけど美味い。

 大容量には向かない食品、つまり嗜好品、もう扱いはスイーツレベル。


「一口頂戴」

「最初に言え、今良いとこなのに」


「んふい」

「良く噛め、良く噛むのが正式な食い方だ」

《カールラもー》

『クーロンもー』


 ストレージから盛り合わせを並べ、カラクッコを何口か味わってから、余った盛り合わせを食べる筈が。


「おい」

「良いじゃん、整理なんでしょ、俺が貰う」


「ショナの飯の方が美味いのに」

「なら似たモノを作りますね」


「いや、洋食屋さんに頼むよ、経済回さないとだし。あ、いや、食べ歩いて決めるか。クエビコさん、タルタルソース美味い店で、売り上げ下がってる店とか」

『あぁ、オモイカネから届くだろう、お前個人のモノにな』


「個人の?そんなん有るの?」

「はい、コチラです」


 スマホを受け取って直ぐにメールが届いた。

 お店の名前と住所、スーちゃんを連れて行こうか。


「スーちゃん寝てるかな」

『日本時間に合わせているが、店がまだ開いて無いだろう』


「あ、ぁあ、ちょっと外出るわ」

『また何か思い付いたな』


「大丈夫、浮島の事や」




 ハナさんに川で泳げる様にとお願いされたので、少し変えたら対価の話になってしまって。


『ぃぇ、別に、そう言うのは』

「いや、遠慮は良くない」

《ほれ、言うだけ言うてみぃ》


『お話と、涙、です』

「どっちのが良い?」


『それは、その、どちらでも、ハナは、ハナなので』

「よし、2人だけでだ、結界宜しく」

『仕方無い』

《じゃの》


 ハナは、フィンランドでイルマリネンとロウヒを仲直りさせた事を話してくれた。

 嬉しくて、切なくて、羨ましいって。


 もっと何かしたいけど、もう暫くはほっとくって。


 ポロポロと、止まらないんじゃないかと心配になる位、沢山、涙を流してくれた。


『あの、もう、充分ですから』

「ごめんね、止まらん」


『ぁあ、ごめんなさいぃ』

「すまん、ごめん、何処でもナイアスは優しいね」


『ゎたしは、涙を要求するのは、優しく無いと、思います』

「枯渇しないし、損害無いし、優しいよ」


『思い出して、感情を揺さぶられる、は、損害かと』

「嬉し涙は違うじゃない、嬉しいがいっぱいだもの」


 ハナの涙は、後悔、罪悪感、懺悔、悲しみ。

 嬉しいは、ほんの少し。


 ハナの嬉しいは、これから増えるんだろうか。




 アレは泣いた痕跡すらすっかり自身から消し去り、いつも通り浮島の端で一服している。

 全く、どうしたものか。


《どうじゃった》

『後悔、罪悪感、懺悔、悲しみ、嬉しいは、ほんの少し。これから、嬉しいは増えてくれるんでしょうか』


《増やす為に、神々や精霊が動いておる、心配するで無いよ》

『それでも、増えるか心配です』

『あぁ、ナイアスは人間を良く知っているからな』


『はい、信用ならないと、身に沁みていますので』


 異類婚姻譚。

 殆どが悲劇に終わる情愛の民話、神話。

 数々の浮名を流した精霊、ドリアードが肉愛を欲するなら、ナイアスは心の機微。

 なら風は、何を求めるのだろうか。


『風のは、何を求めるモノなんだろうか』

《ソチラとそう変わらないじゃろう、のう》


『僕は、コチラでは関わって無いんだけれど』

《堅い事を言うで無いよ、クエビコや、ソチラも呼んでやれば良い》

『あぁ、咲か、アレは、落ち着くまで遠慮するそうだ』


《そうかそうか、では花見じゃな》




「紫苑さん、後ろ」

「へ?」


 桜木さんが川を改造し終え、一服し小屋へと戻って来た。

 そしてふと、外を見ると景色が変わっていた。


 淡い桜色が沢山、色々な桜が満開になっている。


《季節感じゃ、第3世界に4つの庭が有ったじゃろ》

「なにを急にこんな」

『同じく第3と一緒だ、神々や精霊からの礼が押し寄せるぞ』


《おう、せやで。男は大丈夫なんや、男は》

「キノコ神」


《ノームや!ほれ!北欧のじゃい》

「あぁ、アンズタケに木耳的なヤツか、ありがとう。変身したら逃げるん?」


《おう、秒でトンズラじゃ!すんなよ!絶対アカンからな!おいそこの、調理法を教えるからコッチ来んかい》

「あ、はい」

「俺も手伝うよ」


《おうおう、男はええねん、男は》




 桜木様は、もう終わったからとお酒を飲み始め、立ち入り禁止を全て開放した。

 僕には見えないけれど、天使さんも来てるみたい。


「日本酒飲んでるの、何か不思議」

「杯が消えた時点で不思議なんですけど?」


「そう、見えない感じか。どれ、眼鏡はどうだろう」


「天使さんは、幽霊さん?」

「お、見えたか、声は?」


「残念ですけど」

「んー、不便、ココは無法地帯なんだし、お願い」


《私は良いのですが》

【君等がどう思うかだ】

「あ、聞こえました。改めまして、山之蜜仍です」


《宜しく》

【良い子だ、私にも怯えないとは】

「でしょ、外見を気にしない良い子なんだ」

「気にしますよ、気にした上で桜木様が好きなんです」


「はいはい、ありがとう」

《あら、中つ国の》

【神獣か、どうしていたんだ、ほう、ほう、そうか】

「聞こえるんですね」


「逆にワシは聞こえないが」

【貢ぎ物を集めていたそうだ】


「は、人間はおるまいな」

《ふふ、それは遠慮してやった、そうですよ、ふふふ》

【もう、このままお披露目会にしろ、だそうだ】


「あぁタケちゃんの盾、そうだね、ニーダベリルへ」

《了解》


 桜木様は、紫苑さんだと遠慮が無い。

 その場で服を脱ぎ、中つ国のお召し物に着替えた。


《ふふ、素敵なお召し物ですね》

「好みが既に把握されとるねん」

【その様だな、ふふ】

「シオンさんですけど、天女様みたいですね」


「髪長いし白いからなぁ、切るか」

《あぁ、ダメよもう》

《東洋に合わせて髪をね》

《ふふ、コレを使いましょう》


『この盾はおタケのだな』

『日本名で“白桜”か』

『良い名を貰ったな』


「蜜仍君、何処まで観た?」

「最後まで観ちゃいました、ほっぺにチュウも」


《あらあら》

《まぁまぁ》

《詳しく教えなさい?》


「じゃあ、対価を下さい」

『やるなぁ坊主』

『コレは貴重な話しだ』

『何かやらんとなぁ』


「上手だなぁ蜜仍君は、頑張れ」

「はい、えへへ」




 ハナが折角の魔道具をバンバン封印しておるんじゃが、我、凄い不安なんじゃが。


《のぅ、盾位は良いじゃろう?》

『そうは思うがだな』


《人間が、どう思うかじゃな、面倒じゃのう》

『そう言うな、ショナ坊に尋ねてやれ』


《仕方無いのぅ。これ、ショナ坊、おタケの白い盾もイカンのかぇ?》

「え」

《は、盾もアカンのかも知れんの?アホちゃう?アホ過ぎひん?平和ボケ過ぎひん?知能落ち過ぎちゃうん?》


「いえ、あの、人間の判断に全て委ねるとの事でして」

「女でもそう思うのかよ、ノームは」

《そらそやろ、中身一緒なんやもん。あんな、女の姿っちゅうんは、毒蛙の外見ともう一緒なんよ。クッサイ毒花でもええけど、まぁ、そう見えてる感じやねん》


「あぁ、じゃあ今はどうなんだ?」

《さくらんぼの木が満開な感じやね、これから実を付けて、美味なるっちゅう感じや、眺めて嗅いで。大昔はな、どっちも同じに見えとったんやけど、自己防衛の呪い、人間で言うトラウマやね、見え方、感じ方が変わってしもてん》

《それはそれは、貴重なお話しをありがとうございます》


《あの子もなぁ、そうなんやろ。同族の匂いっちゅうんは分かるねん》

《なんじゃ、そうアレに話せば良いモノを》


《無理や、自律型の補食しに来る毒持ちの食虫植物やぞ》

《あぁ、それは恐ろしいですね》

《なんか、我の悪口も入っておらんか?》


《お前は別にええねん、親戚みたいなもんやし、クッサイ花程度や》

《本格的な悪口じゃな?》


「サクラの呪いは、1つだけなのか?」

《それはマジでトップシークレットや、個人情報やし》

《ですね、さ、下処理を進めましょう》

「先生まですみません、ありがとうございます」


「向こうに混ざれば良いのに」

《現実でも、人間は少ない方が良いんですよ》


 ハナの事を良く頭でっかちと言うておったが、ココの人間の方がよっぽど頭でっかちじゃった。

 コレは、本当に苦戦するかも知れん。




 またドリアードが煩く言いたそうな顔をして来た。

 ただでさえ、もう土蜘蛛が居て煩いのに。


《のうマーリン、浮島に来ぬのか?》

『まだ良い』

《まだて、まだ大勢は嫌いか》


『寂しがったら、だからその時に行く』


《ほう、小狡い作戦じゃのぅ》

『好きに言え』


 現実とドリームランドの狭間、要。

 そこにハナは俺を置いてくれた。


 そして土蜘蛛の長も。

 周りを取り囲むのが蜘蛛の糸、ココの蜘蛛の神と共にドリームランドを守っている。


《あはー、お前は行けるのに行かない、ワシは行けないが行きたい。どうしてくれる》

『俺に言うな』


《それなー》

《1歩もイカンのか?》


《イカンのよぉ、なぁ、ワシが寂しがってると伝えてくれんか?》

《対価はなんじゃ?》


《初対面した時のマーリンの驚いた顔だ》

《承ろう、ハナやー》


『バカが』

《君は良く待てるなぁ》


『ココに、時間は関係無いからな』

《それでも、寂しさは有るだろう?》




 キノコの下拵えも済んだので、先生やアレクとご挨拶に。

 そしてドリアードが急に呆けたかと思うと、桜木さんによじ登った。


《土蜘蛛がワシも行きたいー、じゃと》

「あぁ、ショナや。土蜘蛛族を開放しないとテロ起こすって言ったら、どうなる?」


「へ、あ、えーっと、交渉役はどうします?」

「先生と天使さん。どう思うよソロモンさん」

『そうですね、それで宜しいかと』

【なら私が行こう】

《でしたら、私も本当に行ってきましょうかね》

「なら俺が送るわ、省庁で良いか?」


《いえ、国連へお願いします》

「先生、マジで国連に用事?」


《はい、大丈夫ですよ、脅しに行くだけなので》

【ふふふ、私も用事が有るんだ、またなハナ】

「いや冗談、例え話で」

《大丈夫、天使も冗談は言えるんですよ》


「そう?」

《おうおう、イチャイチャすな、良いからはよ食えやオラ》

「桜木様は猫舌なんです」


《はん!酒で流し込まんかい!》

「そこは味わわせろやい」


 桜木さんが酔い潰れ、お昼寝を始めると、神々や精霊は泉や空へと帰って行った。

 そして蜜仍君は、ただジッと紫苑さんの姿を見ている。


「蜜仍君、どうしたんですか?」

「手を縫い合わせれば、一緒に行けませんかね?」


「桜木さんが何処かに行く心配ですか?」

「触れてるだけじゃダメなんですよ、だから、どうしたら良いのかなって」


「触れる?第3世界ですか?」

「まだ観て無いんですね」


「はい、今日は第2世界を観終えたばかりで」

「妖精さんの顔、見れました?」


「僕に似てると思ったんですけど」

「ですね、おマヌケさんで、死んで悲しませるなんて、最悪ですよ」


「すみません」

「別にショナさんが、感情の方は、大丈夫でしたか?」


「はい、完全にカットされてますけど」

「なら、アレはきっと、繭の時だけだったのかも知れませんね。全部観せるつもりで、心を開いて待っててくれたのに」


 それなのに僕が拒絶した、資料以上の情報は沢山得られたけれど。

 繭の時に観ていたら、もっと知れたかも知れないのに。


 知って、何になるんだろうか。

 僕はどうしたいのか。




 ショナ坊と入れ違いで起きおってからに、なんと上手くイカン子達じゃろうか。


「頭痛が痛いよ蜜仍君」

「桜木様、お水を」


「おう、ショナもコレ、酔い潰れたん?」

「ドリームランドだそうです、マーリンにお返しを考えるって」


「お返し?」


『金の粒をやった』

「あぁ、すんません、ありがとう」

「ふふ、僕お片付けしてきますから、ゆっくりしててくださいね」


「すまん、ありがとう」

『映画館前で意地悪されていた、ソロモンに』


「あぁ、ショナを苛めて良いのはワシだけじゃよ」


『無視されてるな』

「困るわマジで。ねぇマーリン、コッチ来て、ココで横になって」


『それで』

「拝む、眼福眼福」


『俺の顔は、見えて無い筈だが』

「そこは妄想力よ」


『バカだ』

「そうですよぅ」


『治してくれ』

「治せるでしょ」


『アレは俺じゃない、ティターニアとニュクスだ。俺は夢と結界だけだから』

「治して良いの?良くも悪くも思い出でしょうよ」


『もう要らない、本だけで充分だ』

「持ってんのかい」


『出て直ぐに、ドリアードから初版を貰った』

「えっぐ、怒っておこうか?」


『いやいい。だからもう、治して欲しい』


 ハナがマーリンの顔に触れて直ぐ、ケロイドが剥がれ落ち、キメの細かい肌が現れた。

 やっと、元に戻ってくれたんじゃな。


 もう、我、どう礼を尽くせば良いんじゃろうか。




 マーリンの城でのんびりしていると、ドリアードが突然泣き始めた。

 大粒の涙が、ポロポロと。


《おうおう、どうしたドリアード》

《マーリンの、顔が、なおっでの、いま、ハナがぁ》


《そうかそうか、良かった良かった、お祝いせんとな》

《あぁぁぁぁ》


《よしよし》


 ハナはまだ、この世界の為に何かをし続け、この世界の為にと考え続けてくれている。

 もう、恩ならとっくのとうに、マサコの縁を切った時点で等価は成立し、逆に余っていると言うのに。


 どう、この世界と人間は返す気なんだろうか。


《ぅう、すまんの、ナイスおっぱいじゃったよ、土蜘蛛や》

《あはは、なぁドリアード、どう返すつもりなんだ?》


《お主はどうするつもりなんじゃ?》

《質問を質問で、まぁ良い。そうだな、蜜仍だけでは足りぬよな、取り敢えずは美味いメシしか浮かばんが》


《お主自身はダメなんじゃろか》

《ワシはね、本当に食べてしまうから。あの身柱と同じく、相手の命と引き換えなんだ》


《逆の性別なら良かろう?》

《コチラがヤッて死ぬとか可哀想だろうに》


《じゃったら、両性じゃとどうなるんじゃ?向こうの先生がおったじゃろ》

《あぁ、そこまでは試した事は無いが。それは多分、相手の性別によるだろうね》


《それも、両性なら、どうなるんじゃ?》


《んー、確かに、どうなるんだろうか》




 ロキを連れ、ミーミルの泉に来たんじゃが。

 まぁ、実に不機嫌じゃ。


 両性の召喚者と、両性の土蜘蛛が番えばどうなるか。

 その質問をすると既に知り、その答えも知っておる筈。


《久しぶりじゃのー》

『やっほー』

《帰れ、下らない質問をしに来たのは知ってるんだ》


《で、どうなるんじゃ?》

《対価は》

『俺の予想はねぇ、先に受精した方が命を落とす。かなぁ』


《チッ》

『なるほどねぇ』

《答えておらんから対価無し、実に卑怯な抜け道じゃな》


『ミーミルが正直なのが前提だからね、じゃ、もう俺も行こうかなぁ』

《もう少し、マーリンに時間をくれんかの》


『しょうがないなぁ、対価は?』

《我の体で》


『いらない』

《きぇー!》




 ドリアードが急に憤慨し始めた、覚醒世界で何か有ったらしいが。

 便利だな、個体が複数有ると言うのは。


《どうした?》

《ロキに対価にと体を差し出したら、断られたんじゃぁああ》


《あぁ、真面目だよねぇ、意外に》

《あまり噂をして来られては困るんじゃが》


《なら、場所を変えようかね》

《じゃの》


 マーリンの家の戸を開き、湯の郷へ。

 もう神々が好き勝手に雑魚寝だ風呂だと楽しんでいるが、コレがハナの負担にならんと言うのだから驚きだ。


《普通は、逆だろうに》

《良い意味で単純じゃと知っておるのじゃよ、人の方が遥かに複雑じゃと》


《そうして幸いにも、我々は複雑なモノとは縁が無い》

《じゃの、コレは良い縁じゃ》


《だがなぁ、やはり人里に居るからかも知れんが》

《人と関わって欲しい、か、我儘じゃのぅ》

『魔王は、そうは思って居らんかったんじゃよなぁ』


《シバッカルか。それでもだ、その願いはクエビコに捻じ伏せられただろう?なぁ?》

『良い世界であるのが前提だ、マサコの事がある迄は、な』

『じゃの、事情が変わった、顕になったとも言えるのう』

《そうじゃなぁ、はぁ、良い湯じゃ》




 マーリンの顔を治した後も、ずっと眺めている。

 ショナとの組み合わせは実に素晴らしい。


【おい、昼飯にと連絡が来てるんだが、俺とスーちゃんに】

「お、スーちゃん呼びか」


【で、どうするんだ、準備終わってるんだが】

「リズちゃんを呼ぶつもり無かったんだが、ご家族は?」


【四六時中はしんどい、気分転換位は良いだろう】

「しょうがないにゃぁ。すまんねマーリン、もう好きに出入りして良いからね、ワシの部屋も良ければどうぞ」

『分かった』


「じゃ、行くか。あ、準備しないと」

「ですね、あ、カツラは有るんですよね?」


「おう。カールラ、クーロン、蜜仍君、おいで」

「やった」




 ショナ坊、無茶じゃろ。

 夢魔に狸寝入りはバレると言うのに。


『起きれない事情が有るのか』


「すみません」

『全部、観て来たのか』


「はい」

《真っ赤じゃ、ふふふ、最後の帰還を観たか》

『初坊め』

『だけじゃ無さそうだクエビコ、知恵熱だろう。情報量が多過ぎたんだ』


「スクナ様、じゃあ、先生も」

《アレは大丈夫じゃよ、ほれ》


《真っ赤に、大丈夫ですか?》

『知恵熱、情報量が多過ぎた』

「すみません」


《それだけなら良いんですけど、取り敢えずミーシャさんを起こして交代しましょう》

「はい」


『アレの、何が良いんだろうか』

《そこが、人間の面白い所じゃよ》




 ネイハムに起こされた、そしてショナも、真っ赤。

 風邪では無く、桜木様みたいな知恵熱らしい。


《桜木花子には》

「このまま知らせないでおこうかと」

「うん、最悪は酔い潰れた事にする」


「はい、ありがとうございます」

「うん、寝なさい」


「はい」


《面倒見は良いんですよね》

「も、お世話が好きの何がオカシイ」


《はいはい、少し外で話しましょう》


「何を聞きたい、ネイハムは」

《もう、別に大丈夫ですよ》


「じゃあ、桜木様を理解してくれた?」

《そう、言って良いんでしょうかね》


「桜木様が帰って来たら、答え合わせをすれば良い」

《話すのを面倒くさがる方ですよ?》


「私の、観せる事は出来ない?」

《良いのかミーシャや、ふふ、何もかもがバレてしまうぞ?》


「良い、桜木様はそんな事で私を嫌わない」

《随分な自信じゃな》


「全く嫌われ無いなんて無理、でも桜木様はきっと、嫌なら観ないをしてくれる」

《どうして、そこまでするんです?》


「ネイハムは、どうしてそこまで心配する?神様も精霊も見守ってくれてるのに」




 桜木は実に美味そうに食う。

 まぁ、実際に美味いんだが。


「うめぇ」

「お前、もう何でも美味いタイムだろ」

「空腹は最高の調味料よね」


「おう、なんか、このメンツ」

「大家族感か?」

「それ!グループ支援だっけ、ココのシステム」


「だな、今日はお前んちで寝るか」

「来る気満々じゃん」

「桜が満開なんでしょ?」


「飲んで寝て起きたわ」

「クッソ」

「良いなぁ、後もう少し」


「俺は、もう、もう成長しまくりてぇ」

「何よ、好きな人でも出来たか」

「みたい、国連の女の人」


「おいくつか」


「25」

「20年のチートはなぁ」

「ご両親の事も有るしねぇ」

「あの、変化ではダメなんですか?」


「それ、許されるのか?」

「好きな人と一緒に居るのに、誰に許可を得るべきなんですか?」

「蜜仍君、素敵」

「変化の許可な、それはお相手じゃね?」


「後は魔法か魔道具か」

「リズちゃんノリノリやん」

「後でウチに来ます?」

「良いのかなぁ、目を付けられない?」


「ソッチに肩身の狭い思いはさせたくないし、なら鍛冶神か」

「臍ピアスで良いか?」


「いや、お前には必要だろ」

「予備」


「それでもだ、神様に」

「あぁ、そこに許可が必要だな」


「お前はどうすんだよ」

「もう、このままで良くない?」

「ね、あ、両方はダメなの?面白そうじゃない」


「スーちゃんが今日のぶっ飛び優勝者。両方なぁ、ハードルバカ高くなるやん?」

「それ位は軽々と超える人と一緒になって欲しいんだけど」


「トップアスリートも引く高さやで」

「なら条件教えてよ、全部」

「イケメン、優しい、以外な」

「これって女子会みたいですね」


「なー、経済力は、どうすべきなんだろ。金の事、まだ知らないし」

「フリーターはダメだ、定職に」

「アーティストはどうなるのよ」

「職人さんとかどうなんですか?」


「ぐぬぬ」

「君がぐぬぬってどうすんのよ」

「ついでにヒモがダメな理由を教えて?」

「良いと思うんですけどね、お料理だけでも大変でしょうし」


「「あぁ」」

「ね?」

「なら職業、家政婦さんとかどうでしょう?身元はハッキリしてますし」


「お金さえ有れば専業主夫を囲う、良いな」

「私も、お願いしたいなぁ」

「俺もそろそろ料理をするべきか」

「早い方が楽ですよ」


 そうして2軒目に。

 俺らはデザート、カールラ、クーロン、シオンはまたエビフライとハンバーグのセット。


「どんだけだよ」

「タルタルソースが重要やねん、うめぇ」

「一口頂戴ぃー」

「僕もー」

《はい、どうぞ》

『はい』


「お前ら、まぁ、蜜仍は良いんだが。順応性高いよな」

「リズちゃんもどうぞ。良く曲がらず生きてると思うよ、ズルっこ幾らでも出来るのに真面目に相談するし、ちゃんと向き合おうとしたり。真面目、真面目な人が良い、程好く」

「真面目も種類が有るものねぇ」

「かっちりキッチリは無理ですよね?」


「だな、秒単位のスケジュールとか潔癖は無理だな」

「先生の顔でもか?」


「んー、無理」

「良かったぁ、どこまで顔面至上主義なのか心配してたの」

「な、少しはマトモで安心した」

「自称我儘ですもんね」


「おう」


 もう満腹なので3軒目に行く前に省庁に戻して貰い、5軒目が終わるまで自習。

 アイツ、結構拘り強いんだよな。




 さっきから虚栄心が五月蝿い。

 俺は忙しいのに。


【ちょっと、元魔王、アレク、聞こえてるんでしょ】

「まだ国連」


【なに、なにしたのよ】

「なんもして無い、俺は」


【は、じゃあ】

「いや、それも違う、また後でな」


【ちょ】


 先生と天使が本当に、土蜘蛛族の交渉をした。

 サクラの封印された魔道具と、言伝の事も。


 困った国連は天使とストレージの使える俺をココに置いたまま、ずっと会議を続けている。

 事務員か何かには監視されてるし、早く帰りたいのに苛々する。


「何を、どう揉めてんのかね」

【そうですね、お伺いしても?】


『あ、えっと』

「そんな禁止用語ばっか飛び交ってんの?何がダメなワケ?クソ下らねぇ話で先延ばしにしてんじゃねぇんだよな?」


『いや、その』

「聞かせろよ、どう揉めてるか。なんなら打開案出してやるんだし」

【そうですね、生き物の時間は有限ですからね、行きましょう】


 俺を即死させた天使は意外と融通が利く。

 もし本当に浮かれて俺を殺しただけなら、それもそれで結構ヤバいと思うんだが。

 もっと大きな問題は、人間だ。


「お邪魔しますが、何で揉めてんの?」

【端的に、お話し頂けますか】




 3軒目の洋食屋。

 うん、美味い。


「遅いねぇ、アレク」

【ちょっとハナ】


「へい、どした」

【今、何してんのよ】


「エビフライとハンバーグのセット食ってるが」

【あら、そう、なら良いの】


「何、何よ」

【誕生日の事、もう、突っ込まないで頂戴】


「なら良いんだけど」

【アンタって気難しいじゃない?拘りも強いし、逃げる手段豊富だし】


「元候補だし」

【な、まだ気にしてるのね】


「情報垂れ流したせいでフィンランド出禁、腕はまだ」

【ほらー、拘り強いじゃない】


「今もな、エビフライとタルタルソースが美味い店を食べ歩きしてる」

【好きねぇ、今日の予定はソレだけ?】


「後は花見、ウチで皆で見るんだわ」

【あら、行っても良いかしら】


「勿論よ、食い終わったら迎えに行くお」

【ありがとう、待ってるわ】


 3軒目を食べ終え、カールラとクーロンを4軒目に向かわせ、虚栄心を迎えに行く。


 お店には何も無い、あ、ワシが預かってたんだっけか。


「ごめん、何も無いままじゃん、なぜ言わなかったのよ」

「まだ開けるつもり無かったし、人間の事で忙しくて、皆のもよ。余波が心配だから」


「じゃあ、浮島に居たら良いじゃない」

「移民に自治区の人間に、私達まで世話をかけたく無いのよ」


「移民も自治区も、もう関わらん。全て、人間の判断に任せるが、大罪は別、ワシ個人の事だし」

「線引、難しいでしょ」


「まぁ、でも親友だし」

「もう、ふふふ、どこまでも甘えちゃいそう」


「ダメ人間製造機らしいね」

「本当、シオンならハグし放題なんてズルいじゃない」


「妊娠の心配が無いからね」

「ふふ、させる心配も無いのね」


「確かめる?」

「そうねぇ」

【主】

【お食事が出来上がったのですが】


「あら、4軒目のメシ来ちゃった、浮島に先に送るよ?」

「じゃあ、お願いするわね」




 シオンだと全然違うじゃないアノ子。

 ヤバいわ。


「危なかったわちょっと、何よアレ」

《ふふふ、シオンにクラっときおったか》

『誑し込める灯台か、実に厄介だな』

『ねー、マーリンまで誑し込んでさ、ほら、部屋に』


「凄いご尊顔じゃないの、何よあの可愛さ」

《じゃろう、やっとじゃ、やっとな》

『どうどう、親心を子供は分からないらしいからねぇ』


「ロキ神は、どちらの意味で召し上げる気なのかしら」

『秘密、ヘルの服だけじゃ対価が足りないよ』


「はぁ、マジで厄介まみれじゃない、あの子」

《じゃの、来てくれて助かったぞぃ》

『ウブ2号が知恵熱を出してな』

『第3までは見たらしいんだけど、感情の伝播はもう無いみたい』


「それ、どうせショナ君だけじゃないの」

《どうじゃろなぁ、くふふふ》

『こう差が分かれば気付きそうなモノを』

『気付きたく無い、気付いて欲しく無いんだろうねぇ』


「それだけ、大事なのよね」

『うん、だから期限が1年なのは正しいと思うんだ。1年掛けろ、掛かるって事かなって』

『ただな、人間側の方向性が良くない』

《眠りに付かせる案も有るらしいんじゃよ、そうなれば》


「本当に死んじゃうじゃない」


『なのでな、他を見倣わせて貰おうと思う』

《我々がストライキを起こすんじゃよ》

「は」

『で、大罪もどうかなって☆』


「そんな事したら」

『サクラちゃんは新しい軸なんだよ、ココの新しい軸』

《もう神々が次々に眠りに付いておるでな、いずれ人間も気付くじゃろうが》

『あの怠惰や憤怒が眠りに付いた方が、伝播は早いだろう。とな』

【ご一緒に如何ですか】


「アナタは」

【死の天使】

『で、交渉役は俺☆』

『だけでは不安なのでな』

《お主もどうじゃ?》


「ちょっと、お腹が痛くなりそうな案件なんだけれど」

《人間以外には相談して構わんよ?》


「人間以外しか相談出来る相手が居ないって、知っての事よね?」

《じゃの》


「はぁ、大罪まで巻き込むなんて」

『アレは勘が良いんでな』

《しかも叩き起こせる術があるしのぅ》

『他に良い案有る?最悪はまた洗脳しただのなんだのケチが付くと思うんだけど』


「少し、考えさせて頂戴」

『勿論☆』




 4軒目。

 全然美味い。


「うめぇ、ココが1番かも知れん」

《ふふ、毎回言ってらっしゃいますよ》

『そうですね、ふふ』




 お腹が痛くなりそうなのにならない、不老の対価ねコレ。

 モヤモヤしているとアレクが帰って来たし、八つ当たりしてやろうかと思ったのにゲッソリしちゃって。

 可哀想だから普通に接してあげましょうかしらね。


「ただいま」

「あら、お疲れ様。アンタは何をあげるの?誕生日」


「コレ、繭の時に買った。ちゃんと設置する前にゴタゴタしたから」

「良いわね、引き籠もりにピッタリじゃない」


「ショナは」

「靴よ」


「どんだけ無力化したいんだよ」

「あら、機嫌悪いじゃない」


「下らない会議に無駄な時間割かれた」

「神々や精霊は同席して無いの?」


「死の天使は俺と行ったけど、少なくとも、今日は居なかった」

「クエビコ様、何故なのかしら」


『尊重をな、していたつもりだったんだが』


「そう、ちょっと怠惰の所に行きたいんだけど」

「おう」


 怠惰的には付き合ってらんないのと、自主性だのなんだので不介入だったらしいんだけれど。

 良いのかしらね、あの子もハナも追い詰めてるのだし。


「で、どう思うワケ?」

『マサコの件があったんだ、譲り過ぎてたのかも知れん。身柱の居た世界を、見倣うべきかも知れないな』

「なぁ、死の天使はどう思う」

【そうですね、姿を消し、聞かせて頂きましたが。ミカちゃんに来て頂く必要が有るかも知れませんね】


『プッ、Tシャツ、用意させんとな』

「マサコと一緒に居たのは違うのか?」

【アレはウリエルです】


「何で居ないんだ?」

【人間の畏怖が強過ぎるので、ナイーブなんですよ】

「あら、ハナにピッタリね」


【後は主とミカエル次第】

「あのボロボロの場所にか?」

「あ、良い事思い付いたのだけれど」

『不穏だなおい』




 5軒目は持ち帰りが出来るらしい。


「持ち帰りやってんですね」

《ええ、もう落ち着きましたけど、家で最後の晩餐にって。あの黒い星は、やっぱり影響しましたから》


 どこも美味しかったのだが、支援的には4軒目のお店だろうか。

 受けてくれるかが問題だが。


 浮島に帰り一服していると、ミーシャが横に座って来た。


 煙いだろうに。


「おかえりなさい」

「ただいま、活動早くない?」


「ショナが酔い潰れたままです」

「あぁ、大丈夫なのかね」


「はい」

「煙いでしょう」


「風上だから大丈夫です」

「寒い?」


「いいえ、本当に居るのか確認です。他に行かれたく無い」

「あぁ、大丈夫、あくまでも生きる為の実験だから」


「ごめんなさい、ロクでもない世界で」

「いや、民間人で嫌な思いして無いから大丈夫。完璧な世界って、きっとデストピアだし」


「蜜仍とも練習しました、あの近接戦闘型」

「マジかよ、実践的にどうなの?」


「新しいは良いと思います、予測され難いですし」

「優秀、有能だ」


「お料理は出来ません」

「お菓子は?」


「少し」

「じゃあ優秀だ、迎えに行ってくる」


「はい」




 早食い馬鹿野郎が迎えに来た。

 まだ食えそうだなコイツ。


「おまた」


「おかえりなさーい」

「コレ、計測器3号だ」

「おぉ、4段階か」


「ただ、どっちかになる、だから花子の方のだ」

「あぁ、ありがと」

「じゃ、行きましょ」


 浮島は満開の桜で溢れて、ピクニックにはピッタリで。

 懸念してた、見逃す事なんて桜木には無いんだと気付かされた。


「凄いな」

「全種類有りそぅぅう」

《じゃよ、全部じゃ》

「マジで全部だったか、ありがとう」


「あーぁ、飲みてぇなぁ畜生が」

「ね、魔道具無いのかなぁ?」

「有るんだなぁコレが」


「貸して、利くか私が試すわ」

「おう、それは普通に譲るわ」

「はい、どうぞ」


「はぁー、美味しく感じなぃいいい」

「まぁ、まだ成長途中だしな」

「コレはどうよ」


「コレは美味しい」

「蜂蜜酒だ、溢れそうなら言っておくれ」

「予想するか」


「頭痛はマジ無理よ」

「いきなり吐かれたらウケるんだけど」

「普通に腹痛だな」


 正解は頭痛と耳鳴りだった。

 耳鳴り、した事無いな。


「ふぅ、マジで今後は気を付けないと、マジキツいわ」

「移民用に計測器を量産すべきじゃね?」

「おう、だからスーちゃんに試作機付けさせてたんだが」


「鳴らなかったのよねぇ」

「ちょっと違うんかね」

「だな、報告するわ」


《主、黒山羊がお呼びです》

「どう、まぁ良いか、はい」


《メェ~》

「あぁ、周波数的に違うから、もっと幅を広げろって。うん、エルフとか精霊系にって」

「おう」


「で、最近どうなのよ」

《メェ~》


「お婆さんが?何で」

《メェ~》


「ほう、スーちゃん、お婆さんも夢見なの?」

「そうなのよ、他の土地じゃ夢がボヤけるから孤島が良いんだって、聞かなくて」


「あぁ、浮島の管理人にどうかね、浮島なら何処でもボヤけ無いと思うけど」

《メェ~》


「賛成らしいけど、人間次第よなぁ。浮島の受け取りですら揉めてんのに」

「ね、もう再現してあるの?」


「まだやで」

「無茶しない様に見張らないと、お泊り決定ね」

「だな」


 そうなんだよな、桜木が良かれと思ってやった事は失敗して無いのに。

 どうして人間は悩んで。


 いや、利己的な人間が、まだ居るのか?


「で、計測器どうだって?」

「既読は付いた、多分もう改造に入ってるんだろ」

「助かる、死なないけどマジ死活問題だもの」


「まぁ、待ちましょうかね。ロキー、子守り手伝ってー」


『あいよー』


 俺は紫苑に、スーちゃんはロキに抱えられ桜の匂いを嗅いでいく。


 記念にもなるし、1枚撮っては感想を書いていく。

 全種類だしな、中々出来ない貴重な体験。




「桜木さん、楽しそうですね」

『君は起きて大丈夫なんだろうか』


「なんとか、熱は下がったので」

『一気に詰め込むと、人間はこうなるんだな』


「白雨さんは、観たんですか?」

『一通り。多分、繭が出来て直ぐに呼ばれた。ただ、一気には観て無い、感情が溢れるから』


「今も、ですか?」

『あぁ、楽しい事、嬉しい事。だから、可哀想だと思う、ココでもまた抑制されて』


「しかも、人間の良かれと思った事が、裏目に出てばかりで」

『ハナの基準に合わせないと、そうなると思うが』


「ですよね、召喚者じゃ無くて、一個人として」


 僕が拒絶したから、感情がもう伝わってこないのかも。

 最初から観てたら、まだ感じ取れて、一緒に花見が出来たのかも知れないのに。




 転生者の子と、サクラちゃんことシオンちゃんと一緒にお花見していると、虚栄心とアレクが来た。

 人間疲れした元魔王、面白いなぁ。


「あら、子守り?」

「おう、お出掛けしてたん?」


「そうよ、プレゼント選びしてたのよ」

「もう渡したいんだけど」

「そこは足並み揃えろよ」


「本当よね、それとロキ神が1番心配だわ」

「あぁ、分かる」

『なんで?ちゃんとしたのだよ?』


「いやぁ、予想つく?スーちゃん」

「無理だわ」

「神々の、ちゃんと、が分からん」

「合法なのよね?」

『勿論☆』


 目端に、窓辺に佇むショナ君が見えた。

 泣きそうな顔して、白雨君が何か言ったんだろうか、それとも、羨ましいのかなぁ。




 ショナが合流しないまま、皆で夜桜鑑賞会へ。

 優雅過ぎる。


「贅沢やんねぇ」

「露天風呂に花見に最高かよ」

「お月様が見えたらなぁ」


「雷電は雨雲呼んじゃうからなぁ」

《居ったじゃろ、向こうで知り合ったイケメンが》


「ウルトゥヌスさん?まだ挨拶して無いんじゃが」

『もう挨拶なんぞする気も無いだろう、咲にもだ』


「まぁ、申し訳無いけど、人間の」

《ならずっと、雨を降らせ続けようか》

『ココにも意地悪な神様が居るんだね』


「ウルトゥヌスさんに、咲雷神?」

《そうだよ、さきさくか好きに呼べば良いよ》

『ウーちゃんと呼ばれてたらしいんだけど』


「あ、沈んだ」

「コレ、良い反応なのかな」

『シオンちゃん、嬉しいんだよねぇ?』


「なんだ、泣いてんのか」

「え、もー」

『お、スーちゃんに、虚栄心も貰い泣きかな?』

「私、こういうの弱いから嫌いなのに」


《嫌だっただろうか?》

「嫌では無いけど」

『重ねられるのは慣れてるし、僕らには悪い事じゃ無いから、大丈夫』

『神々や精霊にも、多様性と言うモノがある』

《その幅を広げるのが、余所からの自分達の情報なんじゃよ》

「そう、なら、新たな自分の一面を認識する。で、合ってるかしら?」


《じゃの、可能性が増えるでな》

「でも、心配が増えるでしょう、人間の」

『させておけ、それも人間が選ぶ事だ』

《規制される前に来たんだ》

『来てくれなさそうだったから』


「すんません」

《気にしいだ》

『お月様、出すから待ってて』




 桜木はそこで初めて、ちゃんと思い出話を聞かせてくれた。

 咲雷神がイオンの匂いを嗅ぐのがそっくりだとか、向こうのウルトゥヌスはもっと気が強いだとか。


 ロキは結局はそう変わらなくて、ヘル神を大事にしないといけないだとか。


 ちゃんと、楽しそうに話してくれた。


 それから料理上手のリタの話。

 マティアスの話、ロウヒの話も。


 消化出来ないままに、やっとココまで帰って来たらしい。

 今やっと、消化する時間なんだよな。




 シオンちゃん、まだ言えない事が多いみたいだ。

 ワンコやせいちゃんの話が出ないんだし、もうちょっと押さないとダメかも。


 湯上がりに皆で夜のピクニックを開催中に、今度はニュクスやヒュプノスが来た。

 ドリアードを見ると、向こうもそう思ったらしい。


 転生者ちゃん達は小屋へ。

 ココでもお勉強したりなんだりで、真面目。


 ショナ君は、戻るタイミング失っちゃって。




 今度は桜木の所に月読神とアマテラス神がやって来たので、スーちゃん達とハンヘ戻った。

 秒で爆睡したスーちゃんをミーシャに任せ、俺は虚栄心達と話し合いへ。


「さっきの話、人間の会議の件。利己的で罰を恐れる、悪い人間が居るんだろ」


『おぉ、気付いたか』

「さっきな。何で会議が難航してんのか、それはアイツを恐れているから。その理由を単純に考えたら、悪い事をしてたり、利己的な人間の意志や思想が絡んでるんじゃ無いのかってな」

「そうね、ココまで拗れたのって、あの自治区だけのせいか確認出来てもは無いモノね」


『だが、それに気付けたのはアレクと天使が介入したからだ』

「人間だけじゃ腐っちまうんだな、クソが」

「まぁ、変なのが混ざる事も有るわよ、数が多いんだから、しょうがないわ」


「いやだ、排除したい」

「じゃ、後は先生にご相談なさいな」

《じゃの、情報共有はココまでじゃ》

「俺は?」

『お前もだアレク』


 桜木への直接的な支援以外、過度な介入になると、大昔の取り決めが邪魔を。

 昔の人間は性善説で決めたんだろうが、もう歪みがココまで大きいなら、変えるしか無いだろコレ。




 桜木花子と神々の宴を見ていると、部屋のドアがノックされた。

 アレク君にリズさん。

 どうやらリズさんも、歪みに気付いたそうで。


《それで私に》

「おう、もうマジで国家転覆を考えるなコレは」


《アナタだけで出来ます?》

「そこなんだよぉ、どうしても桜木ありきで考えちまう。俺らだけで何とかしないといけないのに」


《桜木花子ならどうするか考える事自体は、悪い事では無いかと。摸倣因子、オリジナルに拘る必要は》

「あ!そっか、先生も観たんだよな、どうだった?」


《模倣の模倣、良いと思いますよ。アレは情報拡散が上手く無かったので握りつぶされたんでしょうし、そして神々も精霊も居なかった》

「ココには居るし、拡散はもっと上手く出来る。そっか、魔法は何でも出来るしな、神様も精霊も天使さんも居るんだし」


《どうです?方向性は見えましたか?》

「アレク、協力してくれよ」

「良いけど、何処に行くんだよ」


「フィンランドだ」




 月読さんとアマテラスさんと飲んでいると、アレクとリズちゃんが宴の席へ。

 ちょっと深刻そうだが、そこは無視。


「サクラ、買い物に行ってくる」

「おう、気を付けて行ってらっしゃい」

「おう」


《おチビさんも一緒で大丈夫なの?》

「もう、自己責任って事で良いかなって」

『肝が座ってるわね』


「なんか、皆が其々に企んでる気がするけれど、悪い事じゃ無いなら目を瞑ろうかと。気を使わせてしまってるから、こうなんだろうし」

《あらあら違うわよ》

『そうそう、良かれと思って、よ』


「月読さんに言われると心配になるわぁ」

『ふふふ、それもブラフかも知れないし』

《そうじゃ無いかも知れないわね、ふふふ》


『おう、楽しそうにしやがって』

「スサノオさんまで、ありがとうございます」


『おう、肉無いか肉』


「馬レバーとかどうでしょう」

『食う』

《もう、ごめんなさいね》

『ふふふ、異界の酒に異界の肉、そして異界の種』


《灯台で》

『種の運び手』

『それな、俺は、転移は呪いじゃ無いかと思うんだが』

「まさかの呪い?」


『そうね、アナタに真の家族が出来て、転移が起こってる可能性も有るのよね』

《ノエル、身柱かワンコちゃんか》

『お前、家族は嫌いだろ』


《正確には、嫌いになった、よね》

「まぁ、0のは本格的に嫌いにはなれましたけど」

『ほれな』

『呪いはね、他人が掛けるだけじゃ無いのよ』


「自分に、自分で掛けてる可能性は考えましたけど。転移する程じゃ」

『そうか?色恋沙汰すら忌避してるって小耳に挟んだがな』

《恋愛は家族へ繋がる道の1つ》

『それから逃げ続ければ、今度はまた違う世界へ飛ばされるかも知れないわね』


「えー」

《ふふ、例えば、よ》

『流石に帰還確定後に転移した者は居ないわ』

『ただな、稀の宝庫だろお前は』


「あー、もうイヤやー、助けてキノコ神」

《おま、こんな緊張する場に呼ぶぅ?!》


「えぇやん、白百合さんもどうぞ」

『妾も、コレは緊張してしまうのだが』


「ふふ、女媧さんは呼んじゃダメなんだろうか」

《大丈夫よ、ね?》

『そうよ、待ってたのよね?』


《別に、評判とかあるから気にして無いわよ》


《ツンデレやん、自分》

「な、ツンデレやんな」

『おい、キノコ食わせろ。対決だ』


『まぁ、賑やかね』

『ふふ、初めまして、西のキノコ神』

《おうおうおう、もうヤケや!》

「どうぞ、七輪どすー」




 実に賑やかで、素晴らしい宴じゃった。


 暫くしてシオンがウトウトし始めると、神々が元の場所へと帰って行き。

 やっとショナ坊が迎えに来たのじゃが、うん、ジェラシー盛り盛りじゃな。


 おぉ!しかも頬に触れて。

 溜め息も、ふむ、良い傾向じゃのぅ。


「紫苑さん、外で寝るなら設定の変更を」


「お、おう、すまん」

「それと、紫苑の戸籍の件で連絡が有りました」


「おう、はい」

「お名前は、鈴藤紫苑で、宜しいでしょうか」


「ちょっと、考えさせて欲しい。設定は変えるから、寝て大丈夫よ」

「はい」


 くふふふ、嘘まで言うか。

 大進歩じゃ。




 昨今の、我のマインドパレスは大盛況。

 まぁ、相変わらず神々と精霊だけじゃが。


『あの反応をどう思うんじゃ?』

《ハナの反応を試しおったな、初いのぅ》


『喜んでる場合か』

《どう転ぶかじゃろ、なぁ土蜘蛛や》

《そうだな、どう転ぶか楽しみだねぇ、マーリンや》

『そう引っ掻き回すなドリアード』


《我は何もしとらんよぅ》

『シバッカルか』

『我も違うぞぃ』


『ならソロモ』

『私も違いますよ、アレは彼自身の変化の兆し。我々こそ、歯車で潤滑剤で触媒なんですよ』

《じゃな、支え合い、反応し合っとるんじゃよ》

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