第28話 お礼の品①

 俺たちは、ノグザムの大通りの一角にある、お洒落なアクセサリーショップに着いた。ノグザムはウェグザムよりも、若者向けの街といった感じで、前の世界で言えば「原宿」に近いのだろうか。まぁ、一度も行ったことないんですが・・・。


 ご機嫌なフィオナに連れられてショップの中に入ると、ネックレス、リング、イヤリング、ピアス、ブレスレットなど、キラキラした装飾品がショーケースにズラッと並べられていた。ここで俺は、フィオナに大事なことを伝えた。


 「フィオナが気に入った『ブレスレット』を、この前のお礼の品にさせてほしい。まぁ、あまり高いものは無理だけど・・・。」

 「どうして、ブレスレット限定?」

 「まぁ・・・その方が、後々良いかなって・・・。」

 「?」


 フィオナはどうして装飾品の中からブレスレットだけしか選べないのか、不思議そうだったが、その理由はまだ言えない。その他のアクセサリーでも、問題ないことにはないんだが・・・。付与のことを考えると、一番は「ブレスレット」か「リング」だろう。そして、交際もしていない異性にリングを送るのは、さすがに気持ち悪がられるので、消去法でブレスレットということになった。


 「まぁ、ブレスレットでも全然良いんだけど・・・。」


 フィオナは首を少し傾げながらも、ブレスレットコーナーに移動し、欲しい商品を鼻歌まじりに選び始めた。時間がかかりそうなので、俺もリングやネックレスコーナーなどを適当に見て回った。


・・・もう少しお金に余裕ができたら、俺も何か装飾品でも買おうかな。


 そんなことを考えていると、スキップしながらフィオナが俺の方にやってきた。


 「ブレスレット、決まったから来て。」


 少し微笑しているフィオナに嫌な予感がしたが、言われるがまま、ブレスレットコーナーに向かった。色々と試着したのだろうか、ショーケースの上には十数個のブレスレットが置かれてあった。ショーケースの奥側に立っている店員も、若干疲れているように見える。いや、どれだけ試着したんだよ・・・。


 「このブレスレットでお願い。」


 フィオナが指差したブレスレットは、シクラメンのような薄いピンク色で、シンプルなチェーンタイプのものだった。しかし、その値札を見ると、「金貨5枚」と書かれてある。


 「おい。」

 「なに?」

 「ここに、『金貨5枚』と書かれてあるの知ってるよな?字、読めるよな?」

 「もちろん。」


 ・・・フィオナさん、マジですか。まぁ、薄々そんな気はしてたけどね!!


 「あまり高いのは無理って言ったよな?」

 「でも、私へのお礼なんでしょ?まさか、お礼の品をケチるの?」


 ・・・コイツ、ここぞばかりに吹っ掛けてきやがったな!!


 「・・・はぁ。分かったよ。買えばいいんだろ、買えば。」


 結局、フィオナのゴリ押しに負け、俺は全財産のほとんどを失って、フィオナのブレスレットを購入した。先程の警察隊本部では、潜入していた「黒南風」を逮捕したことで、プロメシア連邦国の国王から褒賞金が出るかもしれないと言われた。当初、悪目立ちするのを避けたかった俺は、断固拒否する気でいたが、アルカナスキル【神奪】が取り調べの結果、国家権力に知られることになる以上、断る理由がない。それにたった今、俺の貴重な財産が一瞬で消し飛んでしまった。血の涙を流す俺の唯一の救いは、褒賞金だけなのだ。惨めだ・・・。


 フィオナは俺が見た中で一番の笑顔を見せ、かなり喜んでいた。かつてないほどの上機嫌に、若干引いている。しかし、プレゼントはただのブレスレットではない。


 俺たちは、アクセサリーショップからすぐに「幸福亭」へと帰った。道中、紙袋に入ったブレスレットを大事に抱えているフィオナが、少しだけ可愛く見えた。ほんの少しだけ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 モルガンさんの本気の晩御飯に、俺とフィオナは舌鼓を打った。食事後、俺はフィオナに「ブレスレットを貸してくれ」と頼んだ。


 「え、ユリウス、絶対に、壊さない?」

 「いや、壊すわけないだろ。」


 フィオナは目を見開き、「壊したらマジで殺す。」と視線で訴えてきた。


 ・・・いや、どれだけ信用がないんだよ。というか、俺のほとんどの財産をつぎ込んで買ったものを、俺が壊すなんて、あり得ないだろ。


 フィオナの殺気に満ちた視線を多少気にしながら、俺は手渡されたブレスレットに、魔力を付与するための魔法を唱えた。人間ではなく、物体に付与できるのかは分からないが、たぶん大丈夫だろう。


 「エーグレギウスゲーベン。」


 フィオナには見えないように、光属性の究極魔法で、唯一の魔力付与魔法である「エーグレギウスゲーベン」を小さな声で詠唱した。その瞬間、ブレスレットが白く薄っすらと輝き始めた。


 ・・・物体にも付与できそうだな。さて、ここから長丁場になるぞ。


 「あと数時間かかると思うから、また終わったら呼ぶよ。」

 「えっ、何するつもりなの?」

 「ひ・み・つ♥」

 「うわっ、キモっ。」


 ・・・どうしよう、今の一瞬で精神的に大ダメージを受けたんだけど。もう、付与するのやめようかな。


 「まぁ、ユリウスを信じているから、シャワーを浴びたり、トゥーリと話したりして時間を潰してくるけど、絶対に、本当に、間違いなく、死んでも壊さないって約束して?ね?」


 ・・・うん、全然信じてないじゃん。


 「大丈夫、絶対に、本当に、間違いなく、死んでも壊さないから。じゃあ、またあとで。」


 俺は付与に集中し始めた。フィオナは、トゥーリとシャワーを浴びに出掛けていったようだ。そして、だいたい3時間くらいが経過しようとしたとき、ついに付与が完了した。


 「よっしゃーー!!おーい、フィオナ!!終わったぞーー!!」


 フィオナがいる2階の部屋に聞こえるよう、俺は大きな声でフィオナを呼んだ。すると、フィオナは急いで階段を降り、俺が座っている席まで猛ダッシュでやってきた。


 「あぁ、良かった、壊れてない!!」


 ・・・開口一番がそれって、どれだけ、そのブレスレット気に入ってるんだよ!


 「で、3時間も何をしたの?」

 「着けたら、分かるよ。」

 「?」


 フィオナは首を傾げながらも、おもむろにブレスレットを右手に着けた。着用した瞬間、フィオナは絶句していた。


 ・・・うんうん、ナイスリアクション!!


 「どう、着けた感想は?」

 「ユ、ユリウス、まさか、このブレスレットに、付与魔法を使用したの・・・?」

 「もちろん。」

 「ってことは、このブレスレットに付与されているのって・・・」


 顔を若干引きつらせながら、フィオナは恐る恐るという感じで、聞いてきた。


 「まごうことなき、この俺の魔力ですが、何か?」


 「嘘でしょーーーーーー!!!!!!!!」


 「幸福亭」の外まで、フィオナの声は響き渡った。モルガンさんやトゥーリが何事かと思って、食堂に飛び出てきたため、事情を丁寧に説明した。何とか誤解は解けたが・・・。


 「ユリウスさんが犯罪者にでもなったのかと思いました・・・。」


 ・・・おい、トゥーリ、しばくぞ。

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