第27話 イルシオン作戦の完遂

 ザハールたちを倒し、ウェグザムに潜伏していた「黒南風」を捕縛することに無事成功した。アルカナスキル【神奪】は、相手の魔力量を奪い、自分の魔力量を回復させるため、ザハールとファルターを除く、他の「黒南風」構成員にも使用し、魔力量を全回復させたが、そこで非常に大きな収穫もあった。


 「えっ、魔力総量も増加してる!?」


 他の「黒南風」構成員から【神奪】で魔力を奪い、3人目のときに魔力量が全回復した。しかし、ステータスカードを見ると、それと同時に魔力総量も増えていたのだ。つまり、【神奪】は自分の魔力量を、上限があるかは分からないが、限界まで増やすことができると言える。

 

・・・うん、えげつないチートスキルだわ。


 魔力総量が増えることに越したことはないので、【神奪】をとりあえず残った全員に使用した。そして、ステータスカードを確認すると、


 魔力量:210,000,000(2億1000万)


 となっていた。どんどん人間から離れてる気がする・・・。


 一応、顔や年齢を確認するため、全員の「漆黒の仮面」を外していった。想像よりも若く、20~30代がほとんどだったが、その中に、トゥーリの鞄をひったくった金髪の男がいた。


 ・・・コイツ、「黒南風」だったのか。


 トゥーリに対する仕打ちを思い出し、ムカついたので、トゥーリの代わりに、5発ビンタしておいた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「これで、一件落着だな。」


 俺たちは、捕らえた「黒南風」連中をレミントンの警察隊本部へと突き出した。面白いことに、警察隊の人々の反応は二極化していた。片方は歓喜、もう片方は困惑といった感じだ。まぁ、戸惑っていたり、複雑そうな表情を見せたりしていた連中は、裏で「黒南風」と繋がっているのだろう。良い気味だ。


 警察隊本部から出てしばらく歩いていると、突然フィオナが立ち止まった。


 「ユリウス、聞きたいことがあるんだけど。」


 フィオナの真剣な表情に、俺は気持ちを引き締めて聞くことにした。

 「何だ、改まって?」

 「ザハールを倒したり、捕まえた後全員に使っていたスキル、あれは何?」


 ・・・まぁ、普通は気になるよな。逆の立場だったら、気になりすぎて夜しか眠れないもんな。


 冗談はさておき、フィオナの質問は至極当然だろう。相手の全魔力を奪い取ることができるなんて、非現実的すぎる。いっそ、嘘だと言ってくれた方が信じられそうだ。


 「・・・・・・・」

 「どうしても、言えない?」

 「絶対に言えないわけじゃないけど・・・まだ言う気はないかな。ごめん。」


 フィオナには申し訳ないが、転生関係の話をすることは、今の段階ではできない。もっと時間が経ち、この世界の様々な事柄を把握した上で、信頼できる人々に話したいと俺は思っている。もちろん、フィオナが信頼できないというわけではないが・・・。きっと、俺はフィオナに拒絶されるのが怖いんだろう。


 「そう、分かった。じゃあ、その時が来たら教えて。」


 俺の心情を察したのか分からないが、フィオナはそれ以上、アルカナスキル【神奪】に関して訊いてこなかった。


 「でも、あのザハールって男を、ユリウスが倒せるとは思わなかった。」

 「どういうこと?」

 「エクリプススキル【魔力感知】で、ザハールの魔力量を調べたら、5万2000だったから・・・。その上、『トリ』で、レジェンドスキルを2つ所有しているなんて・・・。絶対に勝てないと思ったんだけど。」


 フィオナは、俺をじっと見つめた。


 「まさか、ここにあの化け物を倒せる、本物の化け物がいるとは。」

 「おい、誰が本物の化け物だ!」


 ・・・フィオナは俺を人外扱いしてくる節があるな。めちゃくちゃか弱い青年だというのに。


 「それに、『幸福亭』に被害が及ばないように、まさか空中に浮かせるなんて・・・。驚きすぎて、腰を抜かしそうになったんだけど・・・。」


 そう、まさにそれが「イルシオン作戦の成功をより確実にする方法」だ。「インビジブルザラーム」で「幸福亭」を見えなくすることは容易にできるが、もし「黒南風」がそれに勘づいて、その場所を攻撃する可能性があった。そこで、俺はモルガンさんとトゥーリに説明し、「幸福亭」ごと「ヴォルフライト」で上空に浮かばせることにした。

本来、「ヴォルフライト」は飛行魔法であり、重い物体を浮かせるには相当の魔力量を消費する。だから、俺が日雇いの一番最初の依頼で見せた銅像の移動は、ヘデオンにとって、かなりの衝撃的な出来事だったらしい。しかし、俺の魔力量であれば、「幸福亭」ごと浮かせるなんて行為は朝飯前である。ただ、かなりの浮遊感だったそうで、レーガンさんとトゥーリは少し気分が悪そうにしていた・・・。めちゃくちゃ申し訳ない。


 「確実に、レーガンさんたちを守りたかったからな。」


 イルシオン作戦を遂行することができて本当に良かった。これからも、もっと頑張っていこう。


 「でも・・・その強すぎるスキルは、あまり使わない方が良いかも。」

 「え、どうして?」

 「はぁ・・・。」


 フィオナは大きく溜息を吐いた。「コイツ全然分かってないな。」って顔で、じっと俺を見てくる。


 「相手の全魔力を奪い取るスキルなんて、世界のパワーバランスを大きく変えるに決まっているのでしょ?」

 「あっ・・・。」

 「各国や色んな組織が、ユリウスを味方にしようと躍起になると思う。逆に、ユリウスを亡き者にしようとする連中も現れるかも・・・。」


 俺は、「悪目立ちしない」という肝心なことを忘れていた。アルカナスキル【神奪】が公になれば、フィオナの言う通り、俺は世界中から注目されることになる。それだけは、何としてでも避けなければならない!


 「まぁでも、あの『黒南風』たち全員、事情聴取でユリウスのスキルを白状すると思うから、すでに手遅れだと・・・・・・え、ちょっ、大丈夫!?」


 俺はショックで、その場に突っ伏した。


 ・・・ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤヴァイ、ヤヴァイ、ヤバババイ。俺は何てことをしてしまったんだ!


 「よし、究極魔法で、警察隊本部ごと、全てを消し炭にしてやろう。」

 「なに馬鹿なこと言ってるの!?ユリウスだと、本当にできるから、冗談に聞こえないんだけど!!」

 「は、離してくれ~!!お、俺の平穏なスローライフが・・・!!」

 「え、何で泣いているの!?」


 泣きながら、警察隊本部へと引き返そうとする俺を、フィオナが必死で食い止める。


 ・・・クソ~!!これじゃあ完全に、あのアホ女神の思い通りじゃねぇか!!







 フィオナに宥めてもらい、何とか落ち着きを取り戻した。ただ、「目立たないように暮らす」という生活は、諦めた方がいいのかもしれない。うん、もう無理だな。


 ・・・よし、これからは【神奪】をできるだけ封印し、ここぞというときの切り札にしよう。


 俺とフィオナは再び歩き出したが、途中でフィオナがボソッとひとりごとを言った。


 「私もユリウスみたいに強かったら、もっと『黒南風』の連中を、ボコボコのギタギタにできるのにな・・・。」


 おっと、フィオナさんはたまに、可憐な顔でえげつないことを言う。


 ・・・可愛らしい顔と声に、言葉の内容が一致してないんだよな。


 ただ、フィオナの本音でもあるのだろう。表情に少し翳りが見える。日雇い斡旋所のロビーでも言っていたが、フィオナは魔力量が少なく、初級魔法しか連続で使うことができない。それに、エクリプススキル【魔力感知】は、お世辞にも、戦闘向きとは言えない。


 ・・・魔力総量を上げられる魔法なんて、存在しないからな。


 光属性の究極魔法には、魔力を任意の対象に譲渡できるものがある。ただ、その唯一の究極魔法は、魔力の回復はできても、魔力総量を増やすことはできない。俺の魔力をフィオナに譲渡しても、結局、フィオナの魔力総量は増えないのだ。


 また、魔力の自然回復能力には当然、個人差がある。それに、自然回復能力を向上させる魔法など、この世にはない。俺の異常な回復速度は、「転生特典」という特例中の特例で与えられたもので、本来ならあり得ないものなのだ。


 ・・・魔力総量、もしくは魔力の自然回復能力を上げるアイテムなんて聞いたこともな・・・・ん、アイテム!?


 雷に打たれたような衝撃が脳内に走った。「説明書」や「魔法書」によると、魔力総量や魔力の自然回復能力を上げるアイテムは、現在存在していない。であれば、俺がその代わりになるアイテムを作れば・・・・・・。


 「これだぁーーー!!!!!!!!!」

 「うわぁぁぁぁ!!!!ちょっと急に大きな声を出さないで!!!!!」

 「グフッ・・・・・・・・・、ご、ごめん・・・・・・・。」


 最高のアイディアを閃いた瞬間、自然と大きな声が出た。だが、フィオナにとっては突然、隣の男が奇声を発したことになる。あまりにも驚いたことで、無意識に防衛反応が出たのだろう。フィオナの重たい右ストレートが俺の左脇腹にクリーンヒットした。


 ・・・おぉ、マジで痛ぇ。【瞬間加速】を使ったザハールの蹴りより、痛いんですけど。え、どういうこと?


 「で、急にどうしたの?」

 「前に言ってたお礼の件なんだけど、その品を買いたいから、どこか装飾品を売っている良い店知らない?」

 「あぁ、なるほどね。じゃあ、私の行きつけの店がノグザムにあるから、そこで何か買って。」


 お礼の話をした途端、フィオナは上機嫌になり、鼻歌まじりにアクセサリーショップまで案内してくれた。フィオナは思った以上に、自分の欲望に正直なのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る