第9話 ステータスカードの確認
森林を抜けると、そこは城郭都市であった・・・。
某ノーベル文学賞作家の小説の冒頭部分のような表現になってしまったが、実際に鬱然とした森林を抜けた先には、大きな城郭都市が広がっていた。
白鷺城を彷彿とされる乳白色の巨大な城が都市の中央に建っており、その周囲には大小様々な家屋ないし建築物が一つの大きな街を形成している。また、城と街を鉛色の城壁が円形にぐるりと囲み、威厳のある雰囲気を醸し出している。日本ではなく、中世ヨーロッパの城郭都市に近い感じだ。
「ここがレミントンか・・・。」
俺は城郭都市の佇まいに思わず声を漏らした。
「ユリウス、レミントンに来るのは初めてなの?」
「・・・えっ、ああ。初めてだよ。」
フィオナに急に話しかけられ、少し驚いたが、城郭都市から自分の方に何とか意識を取り戻した。
「へぇ~。じゃあ、あの城壁の中はもっと凄いから、絶対に腰を抜かさないでね。」
・・・えっ、なにその予告。めっちゃ楽しみなんですけど。
フィオナ曰く、レミントンはリヴァディーア州の州都に次ぐ、大都市らしい。なるほど、あんなにドデカイ城が建っているわけだ。
レミントンの城壁に近づいていくと、巨大な門の前に長い行列ができているのが見えた。注意深く観察すると、武装した兵士が検問をしているようだ。商人や冒険者たち、その他通行人はステータスカードを提示し、許可が降りれば城壁の中へと進んでいた。
俺たちは行列の一番後ろに並び、順番が来るまで適当に話しながら待っていた。「第二の都市」というだけあって、多くの人々の行き来があるのだろう。予想よりも長い時間待つことになった。
俺は、その待ち時間を有効活用することにした。ただ、待っているだけなのは非常に勿体ない。異世界に来たばっかりなのだから、常に情報収集しなければ!
フィオナと会話しつつ、俺はアホ女神からもらった説明書を読んだ。フィオナには、「その本は何?」と突っ込まれたが、「異世界転生のときにもらった、この世界の説明書です!」なんて言えるわけもなく、「ふ、ふつうの魔法に関する本だよ。」と適当に嘘をついた。
フィオナは「へぇ~、ユリウスも魔法書を読むんだ。なかなか真面目なところもあるのね。」と言い、感心しているようだった。そして、俺はこの世界にも一応、書物があるということが分かり、安心した。
説明書を読みながら、徐々に前に進んでいったが、ここで俺は一気に冷や汗をかいた。
・・・やばい!!ステータスカードを見られると、俺の異常な魔力量や変なスキルがバレてしまう!!ここまで悠長に説明書を読んでいた自分を、ぶん殴ってやりたい!!
俺は素早くポケットからステータスカードを出し、そこに書かれてある内容を確認した。
<ステータスカード>
本名:ユリウス
家名:なし
年齢:20歳
使用可能魔法:火、水、土、雷、風、闇、光
職業:無職
住所:不定
とりあえずここまで確認したけど、住所不定無職って、何か辛いな・・・。まぁ、転生した直後だから仕方ないけど。というか、本名は「佐藤優紀」じゃなくて、「ユリウス」なんだな。俺がついさっき、咄嗟に名乗ったのに登録されているってことは・・・。えっ、どういうこと?・・・
本名のところはよく分からないが、考えると余計に悩みそうなので、アホ女神の仕業ということにしよう。それで・・・家名の欄があるということは、この世界にも苗字に似たものがあるんだな。家名を名乗るのかどうかは、よく分からないな・・・。
「なぁ、フィオナの家名って何だ?」
「はぁ?馬鹿にしてるの?家名なんて、貴族しか持っていないでしょ?私が貴族にも見えるわけ?」
なるほど、家名は貴族にしか存在しないのか。ということは、平民は家名がないから、本名を名乗ると。ただ、貴族は本名と家名を基本的に名乗るってことだな。
ただ、俺の不用意な発言で、フィオナの怒りを買ってしまったようだ・・・。ここはしっかりと謝罪しないと。
「いや、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。俺は家名がないけど、フィオナならあるのかなって・・・。」
「はぁ・・・。まぁ、ユリウスが世間知らずなのは、だいたい分かったから、許してあげる。」
「本当にごめん、ありがとう。」
フィオナの優しさに救われたな・・・。ありがたい。
・・・さて、いよいよ魔力量の欄を見るか。俺の魔力量は・・・えっ!?
「な、なぁ、フィオナ・・・。魔力量の平均ってどれくらいなんだ?」
「えっ、そんなことも知らないの!?ここまでの世間知らずとは・・・。」
「あはは・・・。」
「まぁ、いいわ。もう慣れてきたし。魔力量は個人差が大きいけど、だいたい5000ぐらいが平均と言われているわ。ウィザードだと、幅はあるけど、1万~5万ぐらいね」
・・・これは、もしかしたら、俺消されるかもな・・・。
「な、なるほど・・・。ち、ちなみに、魔力量の上限はいくら?」
「えっ?う~ん・・・魔力量に上限はないらしいけど、現在の最高魔力量保持者は、ルキフェール神聖国の国家首席魔法師ロイ・アダムズ卿で、確か20万だったと思う。真偽は分からないって言われているけど・・・。でも、人類史上最高の魔力量保持者なら、ユリウスも当然知っているんじゃない?」
・・・知るわけないでしょ!まだこの世界の常識は、俺にとって未知の知識なんだから!!
「え、えーと、も、もちろん、知っているよ!あの有名なあの人物でしょ!・・・ね!」
「さすがに、ユリウスもこの人物は知っているのね。そう、数万年前の人魔戦争において魔王を討伐した伝説の勇者!伝承によると、彼の魔力量は1000万近くあったと言われているから、それが上限くらいだと思う。」
・・・よし、何とか誤魔化せた!っていうか、数万年前には魔王とか勇者がいたのか。異世界って感じがするな。また自分でも調べてみよう。・・・だがしかし、そんなことよりも、やばいことになっている。
「でも、どうしてわざわざそんなことを聞くの?」
「えっ!?いや、ちょっと気になっただけ・・・。」
「そういえば、ユリウスの魔力量は凄かったわね。どれぐらいの魔力量なの?」
・・・ギクッ!!それは聞かないでおくれよ~。それでめちゃくちゃ焦ってるんだから・・・。
俺は、自分のステータスカードに書かれた魔力量を見て、鳥肌が立った。
<ステータスカード>
魔力量:187,000,000(1億8700万)
スキル:神奪(アルカナ)
・・・いや、これはおかしいって!!!!!!何かのバグじゃないとおかしいって!!!!!!!もう伝説の勇者を簡単に超えちゃってるじゃん!!!!!!!人外確定というか、俺がもう魔王じゃん!!!!!!!!!
俺は、自分の魔力量が予想以上に狂っていることに絶望した。こんなことがバレたら、目立つどころの騒ぎではない・・・。魔王がいない現在、危険分子として存在ごと抹消されるのがオチだろう。
「お、俺の魔力量・・・?7、7000くらいかな・・・。」
正直に言えるわけがない。俺は平均より少し高めに設定した嘘の魔力量を教えた。
「はぁ・・・。そんな明らかな嘘つかなくていいのに。どう考えても、1万以上はあるでしょ?」
まぁ、確かに、フィオナのエクリプススキル【魔力感知】で見てもらったとき、フィオナは「ウィザードではないか?」と疑っていたもんな・・・。ここは、「ウィザード」ということにしておくか・・・。
「やっぱりバレたか・・・。実は、4万だよ。」
「ほら!・・・う~ん、でももっとある気がするんだけど・・・。」
「ソ、ソンナコトハ、ナイヨ・・・。」
「何で急にカタコトなの?っていうか、やっぱり『ウィザード』だったのね!」
これ以上喋ると、ボロが出そうだ・・・。この辺で魔力量の話は切り上げよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます