第8話 人外宣言

 俺は静かに下降し、黒く丸焦げになった『プテロフォリンクス』を観察した。皮膚は完全に燃え尽きており、これでは剥ぎ取りなど不可能だ。  


 「やっぱり、初級魔法の威力とは思えないんだよな・・・。」


 威力を抑えたつもりだが、まさかこんな結果になるとは・・・。俺としては、雷が翼を貫通して地面に叩き落とす作戦だったのに。


 使用した初級魔法の威力の異常さに首を傾げていると、後ろから足音が聞こえてきた。おもむろに振り返ると、案の定、フィオナが戻っていた。


 「お疲れ様・・・と言いたいところだけど、ユリウスって本当に何者?さっきの『サンダーショット』、初級魔法の威力ではなかったんだけど・・・。」


 フィオナが怪訝そうな顔で俺に尋ねる。まぁ、聞きたくなるのも無理はないか。でも・・・


 「むしろ、俺が聞きたいぐらいだよ。」


 そう、俺の方が教えてほしいくらいだ。だだっ広い草原でぶっ放した、あの懐かしい「ファイアーボール」もそうだったが、俺が使う初級魔法の威力は絶対に常軌を逸している。これも転生特典なのか・・・?


 「もし、ユリウスが構わないなら、スキルを使ってもいい?」


 草原の一部を一瞬で荒地にした、苦い思い出を想起していると、フィオナが真剣な眼差しでスキル使用の許可を求めてきた。スキルと言えば、確かこの世界の全人類が獲得しているものだったな。それに、人口の約90%が2つ以上持っているんだっけ。俺はあのアホ女神の嫌がらせで、変なスキルを1つだけ与えられたが・・・。


 「全然問題ないけど、フィオナのスキルって何なの?」

 「私のスキルは、エクリプススキル【魔力感知】。」


 なるほど、名前の通り、魔力量とかを測れそうだな。っていうか、めちゃくちゃ便利そうじゃん。相手の魔力量が分かれば、実質的な強さとかも把握できるし。


 ・・・ん、エクリプス?そういえば、あのアホ女神は、俺のスキル【神奪】をアルカナスキルって言ってたよな。もしかしたら、スキルにもランクがあるのかもしれない。また、後日調べておこう。


 あとでやることが、めっちゃくちゃ多いな・・・。


 「へぇ~、じゃあそのスキルで、俺の魔力量を測定するってことか。」 

 「そういうこと。一応、魔力量はステータスカードに記載されている個人情報でもあるから、悪人以外には事前に了承を得るようにしているの。」


 ステータスカードには魔力量も載っているのか。さっきは使用可能魔法のところしかよく見てなかったから、他のところもしっかりチェックしておこう。


 「じゃあ早速、スキル【魔力感知】!」


 スキル名を唱えた瞬間、フィオナの周囲がポツポツと淡く空色に光り出した。まるで精霊や妖精たちが宙を舞っているようだ。俺はその幻想的な状況に心を奪われ、思わず見入ってしまった。しかし、スキル【魔力感知】を使い始めて数秒ぐらい経つと、フィオナの表情が一気に険しくなり、青白くなったまま、バタッとその場に倒れてしまった。


 「おい!大丈夫か!?」


 ビックリした俺は即座に駆け寄り、意識があるか確認した。突然のこと過ぎて、いまだに状況が理解できないが、スキルに何かトラブルが生じたのだろうか・・・。それとも、敵襲?


 「だ、大丈夫。ユリウスの魔力量にあてられただけ・・・。」


 良かった、貧血みたいに少しフラッとした感じか・・・・・ん?俺の魔力量!?


 「えっ、俺の魔力量のせいなの?」 

 「そう。もう少しで気絶するところだった・・・。こんな経験、生まれて初めてなんだけど。」


 えっ、何それ、こわっ!俺の魔力量ってそんなにヤバイの・・・。


 フィオナは少しふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。


 「正直、ユリウスの魔力量は、人間の域を遥かに超えていると思う。」


 おっと、いきなり人外宣言ですか。まぁ、転生者なんて、人外みたいなもんか。


 「私は今までユリウスレベルの魔力量の持ち主に出会ったことがないから、何とも言えないけど・・・。ユリウス・・・『ウィザード』でしょ?」


 フィオナの顔は少し青ざめており、かなり動揺しているのが分かった。そして、フィオナはゆっくりと呼吸を整え、俺の目を真っすぐ見て問いかけた。


 出た、また「ウィザード」という言葉。その意味がよく分からないんだよな・・・。ここで、某ピアノの買取会社のCMみたいに「そのとお~り。」って言っても良いんだが、これで変に悪目立ちするのは避けたい・・。


 うーん、何と答えるべきか悩む。「違う世界から転生してきました!」なんて言ったところで信じるわけがないしな。それに、転生者とバレれば、確実に目立ってしまう。かといって、筋の通った言い訳が出てこないんだよな・・・。


 「・・・ごめん、今はまだ答えられない。」

 「・・・・・・分かった。『インペリアル・エイプ』を倒したときも、何か特別な事情がある感じだったし。これ以上の何も聞かないわ。でも、言えるようになったら、いつか言ってほしい。」

 「分かった、ありがとう。助かるよ。」


 フィオナは意外とあっさり俺の言葉を尊重してくれた。俺が思っているよりも案外良い奴なのかもしれない。そういえば、『インペリアル・エイプ』討伐後の話し合いのときに、フィオナも俺と同じく、名前を出さないでほしいとお願いしていたな。フィオナにも何か言えない事情があるから、すんなり俺の発言を受け入れてくれたのか。


 フィオナの事情って、何だろう・・・。



 フィオナの助けもあり、俺は転生後最初の目標であったステータスカードを無事に回収できた。しかし、そのステータスカードはなぜか『プテロフォリンクス』とかいう、めちゃくちゃ怖い魔獣の巣にあった。


 ・・・うん、まぁ答えはもう分かっているんだけどね。静かに俺は、あのアホ女神に千倍返しをすると誓った。


 さて、当初の目的を達成した俺は、次なる目標を設定した。それは「衣食住の確保」である。生きていく上で必要な衣食住を何とか安定させなければ、俺に明るい未来はない。何とか、今日か明日には衣服・食料・住居の3点を獲得したいところだ。だが、せめて、今日中に住居だけは確保しないとな。野宿するには無防備すぎる・・・。

 

 「フィオナはこれからどうするんだ?」

 「とりあえず、このリヴァディーア州の都市レミントンに向かおうと思う。この森林を東に抜けるとすぐだから。ユリウスはどうするの?」



 ・・・リヴァ何とか州?都市レミ何とか?情報量が多すぎてよく聞き取れなかったけど、この近くの地名っぽいな。さっぱり分からんけど。でも、都市ってことは、まぁまぁ大きな街に違いない。よし、そこで「衣食住」を何とか手に入れるか。



 「お、俺もそのレ、レミ、レミオロメンに向かうつもりだ。」

 「レミントンでしょ?なにその名前・・・。」

 「そう、そこ!レミントン!いや、ちょっと噛んだだけだし。」

 「まぁ、それならいいけど。じゃあ、目的地が同じだし、そこまで一緒に行くのはどう?」 


 フィオナは俺の言い間違いに唖然としながらも、レミントンまで一緒に行くことを提案してくれた。こっちとしては、一切道が分からないので僥倖だ。


 「そうだな、特に断る理由もない。」 

 「それに、ユリウスといれば、変な魔獣に出くわしても安心だから。」

 「おい、俺を用心棒か何かだと思ってないか?」

 「さて、何のこと?人外のユリウスさん?」


 俺たちは軽く冗談を言い合いながら、蓊鬱たる森林を東へと抜けていった・・・。

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