第7話 ステータスカードの発見
フィオナは、自分自身が不思議な感覚に陥っているのに気がついた。
私の目の前で、自分のステータスカードを探す、ユリウスという男。この人と話していると、なぜだか、私自身も驚くような「素の自分」が出てしまう感じがある。あの悲惨な事件以降、あまり本心を出さずに生きてきたのに・・・。
この人は、『インペリアル・エイプ』を一撃で討ち取れる実力の持ち主でありながら、その正体はよく分からない。最初は、どこかの国の有名な「ウィザード」だと思った。それも、初級魔法で『インペリアル・エイプ』を倒せるのだから、英雄級の人物だろうと。
ただ、国家の最高戦力と謳われる「ウィザード」が、自分のステータスカードをなくし、それを自力で探しているなんて、あり得ない。そもそも、ステータスカードを落とすこと自体、滅多にない。ステータスカードがいかに重要な身分証か、幼少期から耳が痛いほど、何度も聞かされるのだから。
一方で、ステータスカードが盗まれるという事件は、年に数十回ある。しかし、ユリウスの言動から盗難というよりは、何かの拍子でなくしたというのが正しいはずだ。そんな人物が、まさか「ウィザード」な訳がない。
ユリウスが何者なのか、少し興味が湧いてきた。私がステータスカードを探すのを手伝うと言い出したのも、それが理由である。
決して、もう少し話してみたいとか、一緒にいると楽しそうとか、そういう理由ではない・・・。たぶん・・・。・・・ほんの少しぐらいはあるかもしれない・・・。いや、ないかも・・・。
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俺たちは『インペリアル・エイプ』の死骸がある場所から離れ、ステータスカードの捜索を開始した。説明書には、簡単に「周囲3㎞以内」と書いてあったが、どう考えてもその距離はおかしい。せめて、1㎞以内とかにするだろ。
・・・転生直後の人間に対する扱いじゃないだろ!!あのアホ女神相手に裁判起こしたら、絶対勝てると思う!!
そんなことを考えながら、俺は鬱蒼とした森林で黙々とステータスカードを探した。フィオナも親切に一生懸命見つけようとしてくれている。
・・・だがしかし、俺は先程の問題発言を忘れてはいないぞ。濡れ衣で逮捕とかになったら、絶対に責任取らせるからな。俺は絶対に容赦しないぞ。
そんなこんなで、15分ぐらい経った頃、フィオナが突然大きな声をあげた。
「あっ、あった!たぶん、あれじゃない?どう?」
俺はすぐに振り向き、フィオナが高く指差す方向を見る。そこには、銀色にキラキラと輝く長方形の小さなカードのような物が、大きな鳥の巣に雑に置かれてあった。カードの大きさは、生前で言うと車の免許証ぐらいだろうか。ステータスカードの実物を見たことがない俺には判別できないが、この世界の住人であるフィオナが言うのだから、間違いない。
「おぉ!確かに、俺のステータスカードかもしれないな。ありがとう、フィオナ。マジで助かったよ!」
「どういたしまして。ただし、このお礼は少し高くつくけどいい?」
フィオナは不敵な笑みを浮かべながら、ステータスカード発見の報酬を婉曲的に要求してきた。彼女の脳裏には、何か高価なものが思い浮かんでいるのかもしれない。
・・・クソ、俺の純粋な感謝を返せ!!なかなか良い性格してやがる。
思ったよりも早く見つかり安堵したが、鳥の巣がある場所が少し厄介だ。
「思ったよりも高いな。」
枝葉が多く重なっている一本の太い広葉樹に直径約10m程度の巨大な鳥の巣が形成されている。だが、巣は地上から5m前後ぐらいのところにあり、容易に手に入る状況ではない。
「ジャンプしたところで、全然届かないしな。」
俺のヤクルトジャンプでは、到底届くはずもない。どうしたものかと必死に悩んでいると、フィオナが「そういえば・・・。」と俺に聞いてきた。
「ユリウスって、風属性魔法は使えないの?」
「えっ?風属性魔法?」
「確か、風属性魔法には、浮遊系の魔法があるでしょ。私は、適性がないから使えないけど・・・。」
へぇ~、風属性魔法が使えると空を飛ぶことができるのか!!ただ、ステータスカードをいまだに見てない俺は、何が使用可能の魔法で、何が使用不可の魔法か一切分からないんだよな。火属性魔法は確実に使えるけど。
「う~ん、使えるかもしれないし、使えないかもしれない・・・。」
「えっ、どういうこと?さっきの戦闘だけで、もう魔力量が底をついたの?」
なるほど、この世界には魔力量というものもあるのか。今のフィオナの言い方だと、魔力量がゼロになれば、魔法は使えなくなるんだな。一応、あとで例の説明書でも確認しておこう。でも、残念。魔力量とかじゃなくて、そもそも使用可能なのかどうかが、分からないんだな。
でも、こうして会話することで、色々と情報収集していくのが良いのかもしれないな。
「んー、そういうわけじゃないんだけど・・・。」
まぁ、とりあえずやってみますか。使えなかったときは、そのとき考えよう。挑戦あるのみ。
「その浮遊系の魔法の名前って、分かる?」
「あぁー、名前が分からなかったのね。浮遊系には色々あるけど、自分の体を浮かす場合は確か、『ヴォルフライト』だったと思う。」
「了解」
俺はフィオナの言われた通りに、風属性魔法を使用した。
「ヴォルフライト!」
詠唱した瞬間、俺の体は急に地面から離れていき、フワッと宙に浮いた。おぉ、何かジェットコースターに乗ったときの感覚に似ているな。具体的には、ジェットコースターの頂上から急降下するときの浮遊感に近いのかもしれない。
「難なく成功して良かった。でも、『ヴォルフライト』は中級魔法に属するから、そこまで使える人がいないんだけど・・・。さすがね。」
フィオナは宙を舞う俺を見て、羨ましいそうに言った。風属性魔法が使えるのが良いのか、それとも中級魔法が使えるのが良いのか・・・。その表情からはうまく読み取れなかった。
「教えてくれてありがとう。それじゃあ、さっさと取ってくる。」
俺は飛行高度を少しずつ上げていき、大きい鳥の巣の正面で停止した。
・・・ううん、なかなかコントロールが難しいな。また後で練習しよう。
銀灰色に近い輝きを放つステータスカードをしっかり右手で掴み、そのまま右ポケットにしまった。
鳥の巣には、案の定というべきか、大きな卵が1つあった。鉛白な卵殻に朱色の斑点がいくつもある、独特な物だった。
「さて、それじゃあ下降しますか。」
ステータスカードの回収という第一の目的を何とか達成した俺は、安堵感と達成感で満たされていた。しかし、垂直にゆっくりと下降しようとした瞬間、急に空が暗くなった。俺は、大きな雲が通過しているのかと思い、何気なく空を見上げた。だが・・・。
「おいおい、嘘だろ・・・。」
俺の眼前では、両翼を思いっきり広げた、巨大な怪鳥が上空に佇んでいた。
黄土色の滑らかな胴体、薄い藤色の大きな両翼、オリーブ色の鋭利な嘴、紅に染まった丸い目。そして、巨大な図体。「怪鳥」と呼ぶにふさわしい大型モンスターが上空で俺たちを睨みつけている。生前の世界であれば、翼竜のプテラノドンに近い容姿と言える。
・・・えっ、何ここ?ジュラシック・ワールドの世界なの?
「あれは・・・業魔種の『プテロフォリンクス』!?」
地上からフィオナが大きな声で叫んだ。
ん、業魔種?・・・ってことは、閻魔種とはまた違う魔獣ってことか。どっちが強いんだろ。大きさから推測すると、目の前のコイツの方が『インペリアル・エイプ』よりも、かなりヤバそうなんだが。
「フィオナ、この『プテロフォリンクス』っていう魔獣は、結構強いのか?」
地上のフィオナに聞こえるよう、少し大きめの声で問いかけた。
「業魔種だから閻魔種よりも劣るけど、『プテロフォリンクス』は雷属性以外の魔法が一切効かないの。それに、物理攻撃にも強力な耐性があると言われているわ。というか、ユリウスって魔獣のこと全然知らないんだ・・・。少し世間知らずすぎない?」
「あはは・・・。」
呆れながら答えるフィオナに、俺は苦笑するしかない。だって、転生直後ですもの・・・。というか、雷属性以外無効?物理攻撃耐性あり?何それ、さっきの『インペリアル・エイプ』より手強いじゃん。全然劣ってないじゃん。
フィオナの説明を聞く限り、閻魔種は業魔種よりも強敵なんだろうけど、眼前に佇む『プテロフォリンクス』にそれが適用されるのかは、議論の余地があるな。
「ところで、何で急に出現したんだ?さっきまで、こんな巨大な魔獣がいる気配なんてなかったぞ。」
ステータスカードを捜索・発見しているときから、大型魔獣の気配なんて一切感じなかった。それがなぜ突然現れたのか。
「その大きな巣は、『プテロフォリンクス』の巣なのかも。巣の危険を感じ取って、大急ぎで帰ってきたと思うわ。私、そんな巣初めて見たから、全然分からなかったけど。」
俺の疑問に、フィオナは落ち着いた態度で答える。こんな巨大な怪鳥を目の前にして、よくもまぁ、そんな涼しい顔してられるな。肝が据わりすぎだろ・・・。
「おい、フィオナ。お前なんでそんなに冷静なんだ?」
「えっ?だって、ユリウスが自分のステータスカードを取るために『プテロフォリンクス』の巣をつついて、こうなったんだから、その責任はユリウスがとるべきでしょ?それに私は雷属性魔法が使えないし。『インペリアル・エイプ』を一撃で倒したユリウスなら、大丈夫だと思うよ。だから、あとはよろしくね!ちゃんとその辺で戦いを見てるから!」
フィオナは美少女に相応しい満面の笑みでそう言い残すと、サッと森林の中に消えていった。
・・・コイツ!!完全に俺一人で戦わせる気だ!!クソ、あとで、覚えておけよ!
こうして、俺はただ一人、『プテロフォリンクス』と対峙することになった。そういえば、俺って雷属性の魔法使えるのか?もし、使えなかったら洒落にならないよな・・・。うん、一応、確認しておくか。
俺はついさっきしまったステータスカードを、右ポケットから出そうとしたが、そのときめちゃくちゃ嫌な予感がし、素早く空中で後ろに下がった。すると、後方に移動する前に俺の左右に生えていた大木がスパっと真っ二つに切り裂かれた。
「あっぶね・・・。もう少しで上半身と下半身が分離するところだった・・・。というか、コイツの翼って、切れ味抜群の日本刀なの?もう完全に閻魔種を超えてるだろ?」
『プテロフォリンクス』の両翼から繰り出された横薙ぎの攻撃を何とか躱した俺は、隙を見てステータスカードを一瞥した。
えーと、使用可能魔法欄には・・・火、水、土、雷、風、闇、光の全7属性が書かれているな。よし、雷属性の魔法は使えると・・・。
「・・・えっ、全7属性!?」
俺は思わず二度見した。えっ、何、どういうこと?転生ドッキリ?
7属性全部使えるとは思いもしなかった。もしかして、転生特典なのだろうか。もう一度、その辺もよく説明書を読む必要があるな。まぁ、これで雷属性魔法が使えると、はっきりした。
「さて、それじゃあ、そろそろ俺も攻撃に移ろうかな。」
『プテロフォリンクス』は鋭利な嘴や尖鋭な爪を駆使しながら、ここら一体の木々を薙ぎ倒していく。一撃でも当たれば、即死だろう。たとえ、かすったとしても致命傷は避けられないと思う。
『プテロフォリンクス』の怒濤の攻撃を何とか空中で避けながら、俺は雷属性魔法を使用するタイミングを窺っていた。
戦闘開始から5分ぐらい経過すると、徐々に『プテロフォリンクス』の攻撃に勢いがなくなってきた。俺の狙い通り、疲労が蓄積したためであろう。『プテロフォリンクス』は「グヴォアァー!!!」と咆哮すると、両翼を大きく広げ、俺に向かって一直線に突進してきた。犀利な嘴で俺の体ごとを貫通させる魂胆なのだろう。
「でも、それは最悪手だな。」
『プテロフォリンクス』は、怒りと疲れで冷静さを欠いたようだ。俺は宙で一回転するように『プテロフォリンクス』の嘴タックルを避け、その背後を奪った。そして、間髪入れずに、草原で説明書を見たときに覚えた、雷属性の初級魔法を唱えた。ただ、もちろん、魔法の威力が怖いので、軽めのイメージで詠唱した。
「サンダーショット!!!」
魔法名を唱えたのと同時に、雷鳴轟く黒い積乱雲が『プテロフォリンクス』の頭上に現れた。『プテロフォリンクス』は雷雲に気づき、すぐに逃走しようとしたが、雷光の速さから逃れることなど、不可能だった。
ゴロゴロと鳴り響く積乱雲から落ちた数多の雷霆が『プテロフォリンクス』に全て直撃した。その後、黒煙に包まれた『プテロフォリンクス』は焦げ臭いにおいを放ちながら、地面に落下していった。
・・・えっ、本当にこれって初級魔法なのか?何か、この世界の魔法はよく分からないな・・・。
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