第48話 どうして戦争なんて始められましたの?


 ベイジーシン市に近づくにつれ、街道にはアンデッド避けを施された死体をときおり見かけました。

 装備ははぎ取られておりますが、みな成人男性ですので、おそらく村を攻めにきた兵隊さまでしょう。

 おくちに聖なるパンをつめられて首を斬られ、目を縫われております。


 壊れた馬車、折れた武器、それらに混ざってあきらかに農民の恰好をした死体も見かけます。

 お悲しいですが、よくある生産基盤破壊戦術ですわ。


 市壁が見える距離に近づきますと、空気に緊張感が漂ってきました。 

 風に混ざった煙の臭いと、死体の匂い。

 畑は無人で雑草の芽が伸び放題です。


 門は閉まって市壁の上は無人です。貧民街のある方向からは煙が立ち上って、濃厚な死の臭いを感じます。


 無用な戦闘は避けたいですが門は閉まっております。蛮族の首都から脱出した方法でゆきましょう。

 あのときは市壁にほど近い建物の、壁と壁を交互に蹴って壁を越えました。

 このベイジーシン市を囲む市壁は近くに建物はありませんが、三角形にせり出した城塔があります。

 壁に対して120度ほどの角度がついておりますが、利用できますわ。


「あそこを蹴って上に行きましょう。あとはそのまま飛び降りてしまえばいいですわ」

「私たち、どんどん人間離れしてしてきましたぁ」

「鍛錬の結果ですわ」


 幸い、どなたも傷つけずに壁を越えられました。

 そのまま建物に紛れて貧民街に入ります。途中でみかけた戦闘では、双方とも弓矢での射撃の応酬を行っているだけで、白兵戦は行われておりません。


 壁を挟んで内と外から撃ちあっているだけです。

 わたくしたちが貧民街に到着しますと、ましな装備を付けた冒険者風のかたに囲まれました。


「まあ、グローニーさまではありませんか? お久しぶりですわ」

「あんたか……」


 わたくしを迷宮から街に案内してくださり、村の保全を手掛けてくださった冒険者のかたと、バリケードの近くでお会いしました。


「あんたたちは何かやらかすと思っていたが、やっぱりだ」

「わたくしも驚いておりますわ。そのお話し合いをするためにここに参りました。通してくださいまして?」

「ああ。あんたたちの仕事を受けたせいで俺たちまで賛同者だと疑われた。はやく解決してくれ」

「もちろんですわ」

 

 グローニーさまにベルナールさまのいる場所まで案内されました。

 大きな救済宿があった場所で、平服のベルナールさまがわたくしたちを迎えました。


「あっ……おかえりなさい。アテンノルンさま、メルクルディさま」

「お久しぶりですわ」

「ベルナール、おまえ何しているのですかぁ!」

「あの……不義を見過ごせませんでした。ほんとはもっとはやく終わるはずでしたが、うまくいかないですね」

「やる前に考えるですぅ」

「そのとき正解だと思った行動をしただけです。何もせずに運命を受け入れられません。それに、メルクルディさまはその場にいなかったじゃないですか」

「う……」


 ベルナールさまは以前のおびえたような喋りかたは消えて、自信をもっていらっしゃいます。

 村を指導する責任感が、たった数ヶ月で強く育てたのです。

 メルクルディさまは反論されて少々口ごもりました。


「現状をお聞かせください」

「はい。じつは最初の襲撃で全部うまくいって、混乱せずに終わると思ってました。今から考えると甘い考えでしたが、この街で布教していたぼくたちは、祈りの救いで貧しい人たちから喜ばれました。生きる楽しみがないひと、絶望していたひと、悲しみに打ちひしがれたひと、空腹に嘆いていたひと、罪の意識にさいなまれていたひと──すべての苦痛と悲しみを祈りによって取り除いて、明日も生きていたいと思えるように神さまの教えを広めました」


 真剣な目が語り掛けてきます。


「貧民街から広まった信仰は、商人さんのなかにも手助けしてくれる人が出てきました。食糧を融通してくれて、身体の飢えも満たせるようになりました。名代さんの館に努めているひとにも信者ができました。フィリーエリさまの信仰は、もっと高い地位にいる騎士のひとまで賛同してくれました。そのひとは広い土地を任されている騎士のピンカーさんです。この領域の軍事力の四分の一を担っているかたが教義を受け入れてくれて、祈りの救いを求めてくれました」


「でも名代リアンさんは、ぼくたちの宗教を邪教だと決めつけて、信仰を取り上げようとしました。そのうえ村のそばの森まで、直轄地として召し上げました。抗議する前に決められて、森は立ち入り禁止になりました。そのときアテンノルンさまは森の奥に行っていました。何もしていないのに、犯罪者です。ぼくは許せませんでした。正しい人が正しくない人に貶められるなんて耐えられませんでした。だから力で、武力を使って平等を取り戻そうとしたんです」

「そのお心遣い、ありがたく存じます」


 ベルナールさまの純粋な視線は、罪の意識を呼び起こさせます。 

 ベルナールさまのなかでわたくしのイメージは聖者に匹敵する高評価です。俗物ですのに、信頼しきって、戦争まで起こされました。


「館にいるひとたちを倒せば、うまく行くはずだったんです。ぼくたちは名代リアンさんの一族が確実にそろう狩猟祭の前日に、館に暗殺者を送り込みました。それに合わせてピンカーさまも武装蜂起して館を攻めてもらいました。うまくいけば支配者を取り除いて、ぼくたちがなり替われるはずでしたけど、リアンさんと腹心の部下の半分が生き残ってしまいました。あのひとたちは館を奪い返して立てこもってます。ピンカーさまの手勢が館を包囲してますけど、救出にきた騎士軍が街の外から包囲して、ギルドのひとたちも敵に協力してここを攻めてます。現状はこうです」


「ベルナールさまは落としどころは──どのような決着をお望みでして?」

「不実に抵抗するために戦ってます。だから、もとの状態に戻ってくれるんだったらそれでいいです」

「ここまでやってしまいましたら、一時的な休戦はできても、名代さまの心に根を張った恨みは深いと存じます。将来抑止し続けなければなりませんし、潜在的な敵は今のうちに排除するのがよろしいかと存じます」


「そ、そうですね……こちらにもっと戦力があったら、そうすべきでした。でも今は、準備していた武器も食料もつきかけてます。本部神殿にも増援を頼みましたけど、まだ返事が来てません」

「おまえ援軍を呼んだのですぅ?」

「はい。第一使途さまに使い魔ファミリアで手紙を送りました。信仰の危機なので聖戦を望みました」


「はぁ~~~? おまえ思慮が足りないにもほどがあるですぅ。準備に何か月かかると思っているのですかぁ? もし来てくれてもそのときはもう終わっていますぅ」

「ご、ごめんなさい……そ、そのときは、そ、そこまで考えてませんでした……」

「そのあたりでいいですわ。やってしまったからには、最後までやり通しましょう。わたくしもご助力いたします。ひとまず館を攻め落とし、リアンさまの一族の排除が先決です。わたくしがやりますわ。そのあとはベルナールさまが外の騎士軍に都市の支配を宣言なさいませ。支配層が明確に変わったと理解できれば、戦もおさまりますわ」


「わ、わかりました。外にいる戦力は騎士ルトワックさんを筆頭に2000人の軍隊です。ピンカーさんによればルクワットさんは富に貪欲なひとですから、お金さえよければきっと賛同してくれます」

「分かりやすいかたは好ましいですわ。では少々お待ちください。蛮地で覚えた精霊魔法を、名代さまに味わっていただきます」


「や、やっぱりアテンノルンさまはぼくを導いてくれます……!」

「おまえ勘違いするなですぅ。おまえの失態の肩代わりをしてくれてるだけですぅ」

「では処分してきますの。館がなくなっても構いませんこと?」

「は、はい。解決するならいっぱいやってください……」

「承りましたわ。メルクルディさまゆきましょう」

「いつも一緒ですぅ」


 館の見える場所まで行くと、暗黒神の信徒である騎士ピンカーさまが出迎えてくださいました。

 いかにも騎士さまらしいたくましいおかたですが、ナイーブそうなご表情が、このおかたの生きづらさを物語っております。

 騎士ではなく絵画などをお描きになっているおすがたが似合うおだやかな雰囲気です。


「ベルナールさまから遣わされた精霊使いのアテンノルンですわ」

「ああ……よくきてくれた。敵の護りは固いが突破できないほどじゃない。われらに安らぎを与えてくださる暗黒神の加護があれば、信仰にかけて平穏を取り戻して見せる」

「もちろんですわ。ご助力させていただきます。建物内で失われてはお困りになる人やモノはありまして?」

「ない。……残念だが」

 

 飲みこんだお言葉の先は、悲痛な表情でお語りくださいました。このかたにとって、名代さまやその取り巻きのかたに、良い思い出がないのですわ。

 恥をかかされるタイプのかたですもの。わたくしにはわかります。


「ご安心ください。わたくしがすべて消し去って差し上げます」


 館が視界に入る位置に立ちます。多頭竜ハイドラと戦った時と違い、安全な場所で、透き通った気持ちで精霊魔法を使えるなんて、清々しいですわ。

 

 深呼吸して、視界の中心に敵の館を捉えます。なかにいるかたたちにはお気の毒ですが、建物だけを取り払うすべを持ちませんので、ご容赦ください。


「──闇滅抹ダークオブリテレイション


 精霊さまのお力が、館の中心で暗黒点となって顕現し、館の壁を球形にえぐり取りました。

 重い黒球が周囲の存在すべてを吸い込み始めます。


「何だこの魔法は」


 ピンカーさまのお声が聞こえますわ。

 空気が吸い寄せられてマントがはためきます。


 闇の中心に向けて壁が崩れてゆきます。

 石材に混ざって椅子や絨毯、棚といった家具が、そして悲鳴を上げる人間が吸い込まれ、谷底に突き落としたときのように、叫び声がエコーして遠ざかります。

 

 意識を暗黒球の操作に集中して現象を前に進めました。

 もう少々奥に進めれば館全体を攻撃できます。

 両手をかざして不可知の力場を操作して、心のなかでぶよぶよとした何かを押す感触がありました。


 館の中心にまで暗黒が移動し、柱を飲み込み、壁を砕き、天井を崩落させます。

 狂おしい軋みをあげ、館が崩落しました。

 高い塔の窓から飛び出したひとが、手をばたつかせながら空中で軌道を変え、闇に吸い込まれました。

 必死にこちらに向かって走って来られた人も、背中を引っ張られて絶叫し、吸い込まれた瞬間、悲鳴がぷつりと途切れて消えました。


 大人も子供も平等に、七色の悲鳴を上げながら吸い込まれて、この世から消えてゆきます。


 館の中心にある城塔が崩落したとき、上層階から華美な衣装をまとった、この街の支配階級のかたたちが吸いだされました。

 名代さまのお姿はわかりませんが、村の権利書をいただいたときに見かけた官吏のかたがいらっしゃいました。

 空中で手足をばたつかせてわたくしと目が合い、後悔とも悲哀とも判断しにくいご表情のまま、黒い闇に消えました。


 暗黒球は体積が減少して小さくなり、やがて黒い点となってそのまま消滅しました。

 破壊的な吸収がおわると、あとにはクレーターに削り取られた館の残骸だけが残りました。 


「……ふぅ」


 魔力が減った虚脱感で身体が重いですわ。

 それに、たくさんの人間を殺めてしまいました。

 敵対しなければともに建設的な未来を作ってゆけたかもしれませんのに、損失で心が痛いですの。


「わたくし、人を殺してしまいましたわ……」

「なんと初めてだったか。辛い役をさせてしまったな……」とピンカーさま。お優しいですわ。


「いままでたくさんやっていますぅ。この人たちに思い入れが特別にあったのですかぁ?」

「いえ、特にありませんわ」

「悪い冗談ですぅ。生き残りを探しに行きますぅ?」

「この破壊痕を見るに、しばらくのあいだ近寄っては危険だと存じます」


 かろうじて外壁の一部が残っておりますが、いつ崩れ出すかわかりません。


「あとはピンカーさまの軍にお任せいたしましょう。瓦礫を撤去する技能を持ったかたもいらっしゃいまして?」

「ああ……ああ。すさまじい力だな……」

「精霊さまのご加護のおかげです」

「すばらしい……何と美しい力か……──いや、神も勝利を喜ばれるだろう」

「それは何よりですわ」


 支配階層は消滅しました。あとは外の騎士軍です。

 こちらはあまり傷つけたくありません。


「ピンカーさま、ひとまずあなたさまが名代さまに変わって支配権を確立なさってはいかがでして? お外のルクワットさまには、先ほど始末した名代さまや、その取り巻きのかたたちが持ってらっしゃる土地や財産をお分けすれば、きっとご理解いただけますわ」

「俺は……こんな家業が嫌だから反乱に参加したのに、まだやらなくてはならないのか?」

「あくまで今だけですわ。事が収まったらどなたかに役目をお任せして、ご隠居なさって、自由に生きればよろしいかと存じます」


「信じていいのだな?」

「暗黒神フィリーエリさまを信奉なされるなら、祈りの効果は平等に訪れますわ。そうですわよね、メルクルディさま?」

「はいですぅ。今だけ役目をはたしてくれれば、あとはいつまでも祈りの平穏にひたれますぅ」

「……よし。交渉は任せておけ。ルトワックは凶暴な男だが富には目ざとい。徴税官の財産をくれてやればこちらにつくだろう」

「お話がまとまらなかったときは、わたくしをお呼びくださいませ」

「ああ……それも含めて交渉する。頼もしいかぎりだ」


 去り際に聞こえてしまったお声には、人外に対する畏怖が混ざった諦観を感じてしまいました。

 ピンカーさまの軍が交渉に向かうために集結し始めました。

 武装した人間が何十人、何百人と規則正しく並ぶおすがたは、大規模な演劇に似た高揚を感じずにはいられません。

 

 その一部ではなく、それを外から指揮するお立場のピンカーさまならば、抑止力としての重要性を把握していらっしゃるはずです。

 交渉がうまくまとまる予感がしてきました。


 その日の夕方に交渉が始まり、夜にはルトワックさまの軍は引き上げ準備をはじめました。

 名代リアンさまにかわりピンカーさまが都市の支配者と認められました。

 暗黒神の信仰も認められ、貧民街では歓声があがりました。


 これでやっと治安と経済が元に戻ります。

 周辺の村々とベイジーシン市が暗黒神の影響力が強い地域になりましたので、下世話な考えかたをいたしますと、わたくしの安全圏も広がりましたわ。


 ピンカーさまの市内にある邸宅に集まったわたくしたちは、ベルナールさまから感謝のお言葉をいただき、ピンカーさまのご子息──まだ5にも満たない幼子からの婚約を打診されてお断りし、母親の後ろに隠れた子供の腕を取って、よき信者、よき後継者におなりくださいと励ましました。


 周辺の治安を盤石のものにするために、ベルナールさまとメルクルディさまにお話します。


「わたくしはこの都市の安全をお守りするためにも、南のミンワンシン市の戦力を破壊しにまいります。放置すればこちらに向けて軍を介入させる可能性もありますわ」

「……ふ、復讐しにゆくのですか?」

「せっかく迂遠な言いかたをしましたのに、真実を開陳しないでくださいませ。街道の治安も不安定になっているでしょうし、盗賊と言ったたぐいのやからも処分いたしますわ。そのまま南下する心づもりですが、もしミンワンシン市の支配層を一掃した場合、入れ替える人材はいらっしゃいまして?」


「む、村にいるぼくの弟子たちが、教義を勉強してますから指導できます。ちょっと視野が狭いですけど、弱者のために尽くしてくれます」

「なるほど」

「あ、あの……メルクルディさまが主導的な役割をしてくれませんか?」

「まあ……!」


 たしかにメルクルディさまはお強いですし、政治的に安定しそうです。

 反対意見を汲んでくださいますし、反乱者は容赦なく殲滅します。

 最近はいつも一緒にいてくださったので、離れる発想がありませんでしたわ。


「いやですぅ」


 お話が終わりましたの。

 ご本人が拒否されているのですから、仕方ありません。


「あくまで未定の予定を考慮しただけですわ。必要になればそのつど考えても間に合うと存じます」

「そ、そうですね。あの、ほどほどにしてください。あまり……殺さないでください」

「もちろんですわ」

「私は反対ですぅ」

「まあ、どこかいけませんでして? いえ、少々考えるお時間をください」

 

 メルクルディさまはわたくしが出向くことに反対していらっしゃいます。なるほど理解いたしました。


「わたくしたちのパーティは実力を付けましたが、そのお力を知られていなければ、さらに効果的に使えるとおっしゃいたいのですわね。わたくしがあちらこちらに出向いて魔法を使えば、いつか存在を感知されて、対応されるとメルクルディさまはお考えですわ」

「……そうですぅ」


 この反応ははずれですわ。もう少々考えましょう。


「では南部の治安は、ピンカーさまとルトワックさまに任せて、わたくしたちはそのあいだにベルナールさまのお弟子さまを鍛えて、特別な部隊を編成しましょう。確実に混乱を引き起こせる方法を、わたくしたちは持っておりますわ」

「そうですぅ。この場所でできることがまだありますぅ」


 今度は意に添えたようでなによりです。


「であるならば、メルクルディさまは支配魔法で暗殺者をお作りになって、南部に送り込むおつもりですの。そして名代さまと領民のあいだに疑心暗鬼を呼び起こし、分断をはかったうえで時間を稼がれる意図だと存じます」


 さすが暗黒神に仕えていらっしゃるだけあって、社会に混乱を引き起こす効率的な方法をご存知ですわ。


「違いますぅ……そんなやり方をしたら無関係な人まで死にますよぉ。私たちが持っているアイテムで解決できますぅ」

「何かありまして?」

「ソウルクリスタルですぅ」

「わあ……それはどんな魔物から拾ったんですか?」

「こちらは新緑多頭竜ディープグリーンハイドラの──なるほど。メルクルディさまのお考えが理解できましたわ。素質を選別してからダンジョンで鍛えれば立派な戦力ですものね」

「そうですぅ……」

「このソウルクリスタルで魔物と契約できるのですから、多頭竜ハイドラを使役する魔物使いを育成して、ミンワンシン市に送り込みます。そしてここと同じように、主要施設を破壊して指導部を取り除きますの。あとは救出の名目で軍を送り込めば、首尾よく占領できますわ」

「す、すごいです!」

「ほかのソウルクリスタもそれなりの戦力になります。金剛甲亀ダイヤモンドシェル森巨人フォレストタイタン象掴鳥ロック神豹猫メガスミロドン──ダンジョンの深部にいる魔物ならば、村落程度の戦力では対抗できません。ギルドの魔道具で魔物使いの素質があるかたを選別して、魔物使役兵ビーストコマンドの部隊を作れば、少ない人数で効率的な作戦を行えますわ」


 わたくしの鞄に入っていたいくつものソウルクリスタルが、机の上で穏やかに光りました。

 ベルナールさまが緑に光る新緑多頭竜ディープグリーンハイドラのソウルクリスタルを手に持って、畏怖の視線で見つめておられます。


「す、すごい……こんなにソウルクリスタルがあるなんて。精霊さまに愛されているんですね」

「……」


 結局わたくしは、自分だけの力ではなく、世界に助けられて生きておりますの。

 認めるのは気に入りませんわ。

 子供ならば頬を膨らませていたでしょうが、わたくしは大人ですので、黙ってスルーいたしました。


「何か仰いまして? 選別をできるだけ急いで、1ヶ月程度で準備を終えて送り込みたいですわ。ベルナールさまの都市が心配ですもの」

「は、はい……」

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