第14話 GW明けの登校日

 GWも終わり久しぶりの学校、ゴールデンウィークロスになっている学友達を窓際一番後ろの席から眺めつつも、休日明けから普通の授業が始まる。


 ファンタジーがリアルを侵食しても日々の生活はほとんど変わらないのだから、人間というのは逞しいというか楽観的というか。

 何にせよ謎の魔物の攻撃を受けつつ、それをゲーム能力で対処するという、よく分からない世界になっても、俺の今までの生活が変わる事はない。


 ……。


「ないと思っていたんだけどなぁ……」

「どうしたんです急に……何かあったんですか? ジャン先輩?」

 テーブルを挟んで目の前に座る制服姿のれんちゃんから心配そうな声がかかる。


 ここは生徒会室の一画。

 来客用のソファーとテーブルがある場所で連ちゃんとお昼ご飯を食べている。


 今日の俺のお昼ご飯は登校中にコンビニに寄って買ってきた総菜パンと飲み物で、連ちゃんはお母さんに作って貰っているというお弁当である。


 俺はガーリック明太フランスパンを咀嚼しながら連ちゃんの質問に答える。

 ちなみにパンの方は……小さいフランスパンの裂け目部分にたっぷり塗られた明太ガーリックバターが超美味い逸品だ。


「もぐもぐ……いやな、ゴールデンウィークが終わって久しぶりに登校してきたら、また新たな俺に関する噂が広まっていたみたいでさぁ……もぐもぐ」

「ジャン先輩の噂というと、お姉ちゃんと恋人だっていう、あの間違った噂の事ですよね? それとエ……エッチが上手いとかなんとかも……」

 連ちゃんは途中で恥ずかしくなったのか、頬を少し赤くしながら俺の噂の話をしてくる。


「そうそうそれ……まぁそれも全部嘘っぱちなんだが、今朝から周りの内緒になっていない内緒話とかから漏れ聞こえてくる所によるとだな、俺は会長と連ちゃん二人を両手にはべらして遊び歩くハーレム野郎という事になっていたんだ」

「私とお姉ちゃんをはべらすですか?」


「……この間浜辺に遊びに行った時や、ゲーム大会や麻雀大会の時なんかも3人で一緒にいただろ? しかも二人が俺と腕を組んで歩いてたからな……そういう所をうちの学校の生徒に見られたのかもしれん」

「あ、なるほど……私とジャン先輩は恋人じゃないのに、噂っていうのは適当なものですよね」

 連ちゃんのセリフの中の、、の部分のアクセントが少し強かったのは気のせいだろうか……。


「そうだな、俺には恋人なんていないのに、噂ってのは適当だよな」

 俺は次の総菜パンである、オニオンベーコンチーズブレッドを袋から取り出しながら恋人はいないと断言する。


 会長も連ちゃんも同じ同盟員という間柄だしさ。

 恋人ってのはちゃんと愛の告白をして、それから付き合うものだろう?

 だとしたら俺と会長は恋人じゃないよな。


「……」

 連ちゃんは何故か無言になり、俺をジッと見つめてきた。


「急に無言になってどした? 連ちゃん?」

 俺が食べているオニオンベーコンチーズブレットが食べたいのかな?

 まだ口をつけてない部分をちぎって連ちゃんの前に差し出してみた。

 はい、あーん?


「あーん、パクッもぐもぐ……別にパンが食べたくてジャン先輩を見ていた訳ではありません……もぐもぐ……」

「そうなの?」

 ……じゃぁなんで差し出したパンを食べたんだろうか……俺の貴重なカロリーだったのに。


「ええ、恋人がいないと言っているのに、水着のファッションショーを自宅で女性にやらせるジャン先輩は、妙な噂が出ても仕方ないなーと思ってしまいまして」

「待って!? あれは俺がやらせた訳じゃないよねぇ!?」

 GW最終日に行われた会長と連ちゃんによる『水着ファッションショーイン俺の家』の事だよねそれ。

 予定も何もかもを二人に決められた俺の部屋に、何故かハイレグ水着を着た会長と、ブラジリアンビキニを着た連ちゃんが出没したんだよねぇ?

 本当に不思議な現象だったよなぁあれは、家の中でする恰好じゃないよね……。


「あの日は、お姉ちゃんがどうしてもって言うから私も付き合わざるを得なかったんです」

「連ちゃんもノリノリで六種類くらいの水着を披露してくれたよね?」


「あれは……ジャン先輩のために水着を選んでいたらどれにしたらよいか迷ってしまいまして……ちなみにジャン先輩はどの水着が良かったですか?」

「ん? そりゃもう三番目の黒い奴だな、セクシーかつキュートで素晴らしかった」


「分かりました、次からはあの路線で攻めていきますねジャン先輩」

「ああ、ありがとう連ちゃん」


 ……。


「って違う違う、あの日の二人のおかげで、俺は後で大変だったんだからね?」

 そう、二人の『水着ファッションショーイン俺の家』開催のせいですごい困った事になったんだよな……。


「あれですか、お義母さんとお義父さんと水着姿の私達がばったり出会ってしまったせいですか?」

「そうだな……」

 そうなんだよなぁ……母さんと父さんが一日早く家に帰ってきてさ。

 ほら、会長と連ちゃんは水着に着替える必要があるから、俺は基本的に廊下にいたんだけど、家に帰ってきた両親が三階まで俺の様子を見に来た時に、俺の部屋から廊下に出てきてファッションモデルポーズを取っている水着姿の会長と連ちゃんと鉢合わせしちゃってな……。


 あの時は時間が止まったかのように五人とも一分くらい動かなくなったっけか……。

 そりゃ思考停止するわな。


「私はお義母さんとお義父さんに挨拶が出来てよかったです……お姉ちゃんは嬉しさ半分悲しさ半分だったみたいですけどね」

「あれ? 会長もうちの両親に会えて嬉しそうにしていたけど……悲しいの?」

 俺の両親と挨拶がしたいとか前から言ってたんだけどな。

 何が悲しかったんだろ?


「お姉ちゃんは……ジャン先輩のご両親が旅行中で留守なのを聞いて、例の……あれを……使うチャンスだと、その……思っていたようです……」

「例のあれ?」

 なんの事だろ? 連ちゃんが何か言い淀んでいるのだが……。


 んーと……俺の両親がいると使えない?

 いないと使える……あ……会長が前に買ってきて俺の部屋に置いていったあれか……。


 ってか会長はあの日にあれを使う気だったのかよ……エロエロ性と会長め……。


「私はそういう事をするのは早いと思っているんですよ? そういうのはもっと私と一緒にお出かけとかしてからですよね? ジャン先輩?」

 まるで連ちゃんと俺が、将来的にそういう事をすることが決まっているかのように聞こえるのは俺の気のせいだろうか。


 俺は肯定も否定も出来ず。

 コンビニの袋から新たな総菜パンである、コーンマヨパンを取り出してかぶりつくのであった。


 もぐもぐ。


 連ちゃんは特に何かを追求してくる事もなく……しばらくすると、自分のお弁当に入っていた卵焼きを箸で掴みながら俺に『ジャン先輩アーン』と言いながら差し出してきた。


 さっき何も答えなかった事で少し罪悪感を覚えていた俺は、それを素直に食べる事しかできない。


「あーん――」

 ガチャガチャ! ドパンッ! 生徒会室の扉が勢いよく開いた。

「あ、やっぱりもう先に食べてるし! って何を恋人みたいにアーンとかしているのよ! ジャン君! レンちゃん! 私を待っていてくれれもいいでしょうに!」


 先生に用事で呼び出されていた会長が生徒会室に戻ってきたようで。

 今日のお昼ご飯は騒がしくなりそうだなと思う俺であった。


 もぐもぐ……連ちゃんのお母さんの作る卵焼き、うっま……。







 ◇◇◇

 後書き

 なんかものすごい久しぶりに★の評価が入っていたんですよね、半年ぶりくらい?

 なので新たなる麻雀好き同志のために一話投下しておきます。

 ……あれ? 麻雀? 麻雀していないな……。


 会長のペッタンセクシーハイレグ水着の絵柄が麻雀牌だった事にしましょう。

 うん、そうしよう。

 ◇◇◇

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