第13話 GW中の出来事 混み合う場所

「うわ……これはすごい人混みですね……」

「そうねぇ……まさかここまでとは」

「狙い目の場所かと思っていたのに……残念です」


 GWも終わりに差し掛かり、俺と会長と連ちゃんは、とある場所へとお出かけしていた。


 その場所は俺達が住んでいる場所から、電車を乗り継いで1時間弱といった所。

 日差しは暖かいとはいえ、5月では海もそんなに混んでいないだろうという予想は外れちまったな……。

 見渡す限りの人、人、人だ……砂浜はレジャーシートを敷いた人達でいっぱいだね。

 学生っぽい集団やら、カップルやら、家族連れやら、一人やら……よくもまぁこんなに集まったもんだね。


 俺達はそんな沢山の人達の様子を見てがっかりとしつつも、砂浜に空いている隙間を見つけて、レジャーシートを敷いて荷物を置き、そして準備を……。


「っと早速こっちにきそうだ、会長に連ちゃん、連携モードにチェックは入れてますか?」

「勿論よ! 今日はいっぱい稼ぐわよジャン君! レンちゃん!」

「頑張ります!」


 俺達がレジャーシートの上で飲み物なんかを準備しながらそう意気込むと、丁度そこに海の中から現れた大量の魔物の集団が砂浜に向けて移動してくる。


 ……。


 そうして、一瞬で景色が変わった。

 そう、俺達は接近してきた魔物と麻雀卓を囲んでいる。

 俺は自分の左右にいる会長と連ちゃんを確認しながら。


「連携モードは大丈夫そうですね二人共」

「ええ、三人対一人だと獲得ポイントも分割になるとはいえ、安全を考えたらこの方がいいものね」

「自分一人の時に、見た目が怖い魔物三匹に囲まれると怖いです……」


 ちなみに起家である魔物のマーメイドは空中に向けて視線を泳がせているので、いまだに一枚目の牌が切られていない。

 しばらくしたらマーメイドの持ち時間がなくなって自動で牌が切られるだろう……でもこのマーメイドの様子だと……。

 俺は対面に座るマーメイドの様子をじっくり観察しながら警戒する。


 なぜなら、あの視線の泳がせ方は――


「ちょっとジャン君! いくら美人のマーメイドとはいえ、胸を凝視し過ぎじゃないかしら?」

「ジャン先輩……私やお姉ちゃんがいるのに……」

 待て待て待て!


「いやいやいや、俺が見てるのはマーメイドの顔ですってば! あのマーメイドの視線の泳がせ方は……たぶん自分だけに見える画面で麻雀のルールを確認している物だと思うんです」

 昔対戦したダークエルフの黒騎士もあんな様子を見せた後に、ちゃんと麻雀をプレイして来たんだよな……これだから知性ある魔物は怖いんだよ。


 ……って……うわぁ……会長に言われたので意識をちょっと下に移してみると、貝殻の水着を装着した二つのビーチボールが、マーメイドが身じろぎするたびにポヨンポヨンしていた……。


 今回は俺が主体の謎麻雀なので、倒した魔物のカードは俺の物になるんだよなぁ……獲得ポイントは分割だけども。

 会長がカードゲームを主体にしているから、同盟員である俺にもカードゲームが遊べる訳で、ありがたい話だよな。


 なんにせよこれは、ビーチボールカード獲得のためにも頑張らねば!


「会長と連ちゃんと俺の三人で連携すれば、負ける事はないと思うので、頑張って一杯倒しましょう!」

「……ジャン君は、なぜ急にやる気一杯になったのかしら……昨日私が誘った時は面倒くさそうにしていたのに……」

「ジャン先輩は、お出かけよりそれぞれの家からのネット対戦でゲームしませんかって言ってたもんね?」


 そんな昔の事は忘れました。


「だって、急に昨日の夜に会長から『近くの海で魔物の大量発生注意報が出たから行きましょう!』なんて言われたらびっくりするだろう?」


 この謎メニューでの買い物なんだが、武器とかは買えないんだけど、魔物の発生を天気予報みたいに事前に知る事の出来る魔道具的な物が買えるらしいんだよね。

 だから政府からそういった注意報が出されたりするんだけど……魔物を倒したい人達からすれば、丁度良いレジャー先って事だったんだろうねぇ……。

 夏なら兎も角、五月のこの浜辺にこんなに沢山の人がいるのは初めて見たわ。


「やっぱり水着を着てくるべきだったわね……恋人の水着姿があればジャン君も浮気な目を他に向ける事もなかったでしょうに……」

「ジャン先輩はお姉ちゃんの恋人ではないけれど、それは一理あるねお姉ちゃん! ジャン先輩が私の水着姿を望むなら、私も頑張ります!」


 いやいやいや……。


「会長に連ちゃん、5月に水着は駄目ですってば……海水温って数か月単位で気温に追いつくって話ですし、つまり、今の海水温は2月や3月の気温並みって事ですからね?」


 この時期の海に入ったら最悪心臓麻痺を起こすからね?


「え? 水着になったからって海に入るとは限らないわよねぇ? というか下手に海に入っちゃうと日焼け止めとかが落ちちゃうし?」

「お姉ちゃんの言う通りですよジャン先輩、水着で水の中に入るのは室内プールの時くらいですよ?」


 あれ? ……俺の水着に対する考え方がおかしいのか?


「水着って水に入るための衣服ですよね……俺が間違っているのか?」

「馬鹿ねぇジャン君、お友達と遊びに行く時とかならそういう認識だけど、ジャン君と一緒の時は……恋人に見せるための物になるのよ?」

「ジャン先輩はお姉ちゃんの恋人ではないけれど、見せるためという意見には私も賛成です」


 ……最近連ちゃんが、会長の恋人発言を否定してくれるので、俺が一々否定しなくてもよくなって楽ではあるのだが……。

 それを言った後の連ちゃんと会長がしばらく無言で見つめ合う時間が……ちょっと怖い俺がいます。


 パシッ。

 その時マーメイドが一枚目の牌を切った音が響いた。


「始まりますね、会長に連ちゃん、油断しちゃだめですからね?」

「大丈夫よジャン君、私達には通しサインもあるのだし」

「通し? 所でジャン先輩、会話をしながら麻雀が出来ちゃうのってずるいと――」

「××××××××××!」


「……? ……!!」

「……! ……!?」

「……? ……!!!」

 マーメイドが何かを言った瞬間。

 ……俺達は一切の声が出せなくなった。


 ゴブリンやドラゴンが叫び声なんかをあげる事はよくあるが、知性ある魔物なんかは時たまよくわからない音の羅列を出す事もあって、たぶん魔物の言葉なんだろうとは思っていたのだけど……。

 ……俺の左右にいる会長と連ちゃんも口をパクパクさせているから……。

 って、謎メニューにログが出てる。


 いつもなら獲得ポイントやらが出ているそこには……。


 マーメイドが『サイレンス』の魔法を使用。

 状態異常、沈黙にかかりました。


 てな感じのメッセージログが残っていた。


 うわぁ……会長と連携してカードゲームで魔物を倒した時に、攻撃魔法とかを使って来る個体とかはいたから、こういう事も予想はしていたけど……ついに出会ってしまったかぁ。


「……!」


 む? 下家の会長が自分の肩を叩いたり手をグーチョキパーにしたり、俺にウインクしたり投げキッスしてきたりしていた……。

 ああ。ジェスチャー系の通しサインか、えーと、役牌アンコっているからフォローよろしくってか。


「……」

 了解という意味を籠めて、俺は会長に投げキッスを返しておいた。


「……!! ……!?」

 ……すると、上家の連ちゃんが、何故か俺に対してセクシーなモデルポーズを見せてきたり、ウインクや投げキッスしてくる……。


 ん?

 いや……連ちゃんは通しサイン知らないだろう?

 えーと……あっ……。

 ……ああ……会長に対抗しているのか……。

 いつまでたっても連ちゃんのセクシーポーズが終わりそうにないし、俺からの反応がないからなのか、ちょっと泣きそうな表情を見せてきた連ちゃんが可哀想なので。


「……」

 チュッと連ちゃんに対して投げキッスを返しておいた。


「……!!!!!」

 すると今度は会長が通しサインにない動きをしてきて……。


 ……もしかして……連ちゃんに対抗しているのか?

 何してんだか……。

 連ちゃんならまだしも、胸を強調するセクシーポーズは、会長には似合っていないでしょうに。


 スレンダーでお淑やか美人っぽい外見の会長はもっとこう、清楚を前面に押し出したポーズじゃないと……会長は自分の事を分かっていないなぁ……これはこの麻雀に決着がついたら教えてあげないとな。


 ……。

 ……。

 ――


 ちなみに、消費型の状態異常回復アイテムも持っていたが、購入ポイントがかなり高いので、それを温存しつつでも、問題なくマーメイドに勝利する事が出来た。

 普通にリーチとかをしてくる分、ゴブリンよりは強敵だが、俺達は初期点数がアホみたいな数字だからね……負ける訳がないんだよなぁ……。


 まぁ魔物も少しずつ強くなってきているし、そのうちこちらのアドバンテージを打ち消す能力持ちの魔物とかが出て来る可能性はあるから、油断はしないようにこれからも三人で連携はしていく予定だ。


 そして、その日は大量に海から湧いてくる魔物と麻雀で対戦をしまくり、ゲットした点棒をポイントに変換した俺達は、ニコニコ笑顔で帰宅の途につく。


 ただ、マーメイドと戦えたのは最初の一体だけで、それ以外は魚のマンボウに人間の手足が生えたような……半魚人? みたいのと延々と戦う事になったのは残念だったね。


 だってさぁ……浜辺にいた若い男共がマーメイドが出現すると突撃していくんだもの……。

 こういう魔物の狩場では定点狩りにして、あんまり動き回らないのがマナーとなっているんだけどねぇ……思春期な男の子達にはそんな事言っても仕方ないよね……。


 そして帰りがけの電車内での雑談中に会長が『ジャン君の部屋で、今日出来なかった私のセクシーなハイレグ水着の鑑賞会をしてあげるから、無駄脂肪のカードを私に預けなさい』とか言い出して……。

 マーメイドカードを死守したい俺は、どちらもお断りしたのだが……。


 横から連ちゃんが『お姉ちゃん! ジャン先輩はブラジリアンビキニとかの方が好きに決まっているでしょう!』なんて言い出してさ……。

 俺はそれがどんな水着か知らなかったので、携帯端末で水着画像を調べていたら……。

 俺のその行為を見ていた会長が『そうなの? ジャン君?』と真剣な表情で質問してくるので……ここで嘘を言うのはさすがの俺にも出来なくて……。


『嫌いではありません』

 と答えるしかなかった……。


 その後、俺は会長と連ちゃんに放っておかれ、電車内で寂しく座る事になる。


 隣に座っている二人が、GWの最後の二日間に間に合わせるべく、水着が買えるショップか即日配送が出来るお店がないかを携帯端末で調べながら相談しているのが……ちょっと心配になる俺がいます。


 えっと、二人はなんで明後日の予定を俺の部屋に変更しているの?

 その日は伸び伸びになっていた動物園に行く予定だったよね?

 ゾウさんとかキリンさん可愛いよ? 俺と一緒に見にいきませんか?

 そしてなんでその日に俺の親がいるかを聞いてくるの!?


 ……うちの親はGWの終わりまで地方のゲームイベントに泊りがけで行っているのだけど……これは言わない方がいいのだろうか?


 そうだ! 話の流れを逸らしてみよう!


「あ、そうだ会長、俺が大量にゲットした半魚人カードはいりませんか?」

「いらないわ!」

 くっ……無駄に素早いお断りをされた。


 ……そんなこんなで俺と会長と連ちゃんは、傍から見るとイチャイチャとしたやり取りをしながら家へと帰るのであった。





 ◇◇◇

 後書き

 また★が増えていたので、新たな麻雀好きがいたようです。

 という事で新たな一話を投下しました。

 ◇◇◇


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