四 茂木再逮捕

 数日後。十二月一日、水曜日、午前八時。

 東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅で、三島と安藤由香刑事は、車両の前部ドアと後部ドアの二手に分れて四ッ谷経由各停池袋行に乗った。


 三島が車両の中央へ移動すると、監察官で警視だった茂木進が座席に座っている。三島は茂木の前に立った。

「茂木・・・、保釈されたか?」

「君、こんな所で困るじゃないか?」

 茂木は周りの目を気にしている。

 三島が大声で言う。

「痴漢の現行犯で逮捕されて、犯行現場映像がネットで流れた。

 今さら困らないだろう。ほら、有名人だ」

 三島の大声に、

「痴漢の茂木だぞ!」

 周囲の乗客が喚いている。

 どこからか卵が飛んできて茂木の頭に当たった。薄くなりかけた髪が卵の白身で濡れて皮膚にへばりつき、さらに薄く見える。


「私は監察官だ!警視だ!お前のクビなどかんたんだ!」

 額の卵の黄身と白身を拭いながら茂木が大声でそう喚いた。

「懲戒解雇された一般市民が何を言う!

 霧島課長も逮捕された!

 職権乱用。職務違反。これまでお前がしてきた痴漢行為を隠した犯人隠避でだ」

 三島は、スマホにファイルした霧島課長の逮捕映像を茂木に見せた。


 茂木が座席から立ちあがった。両手で三島の襟を掴んで引っぱった。

「くそっ、全てお前のせいだ。お前のせいで、キャリアが丸潰れだ!」

「罪を犯して懲戒免職になったのは、お前の責任だ!

 手を放せ!お前は一般人だ!警官に手を出すな!」

 三島はそう言うが、茂木の手を振り払おうとはしない。

「なんだと!?」

 茂木がいきり立った。

「その弛んだ身体で、私に何かできると思ってんのか?」

 三島は冷静に茂木を睨んだ。

「くそっ!」

 茂木が右手を放して後ろへ引いた。左手で三島の上着の襟を握ったまま、右拳で三島の左頬を殴った。

 三島はすぐさま小手返しで、上着の襟を掴んでいる茂木の左手首を拘束し、そのまま茂木をその場にねじ伏せた。

「茂木進!暴行の現行犯で逮捕する!」

 周囲の乗客が一斉にスマホで動画を撮っている。動画はただちにネットに流れている。この暴行を握り潰す権力は、この茂木には無い。


 三島は安藤由香刑事と共に、茂木を四谷警察署四谷見附交番へ連行し、四谷警察署へ連絡した。

「生活安全課の三島だ。警察官暴行の現行犯で茂木進を逮捕した。

 パトカーをまわせ!」

「出払ってます」

「私は係長の三島警部だ。早くパトカーをまわせ。お前の姓名と階級を言え!」

 これではパワハラだ。犯罪を犯した上司たちと同じだ・・・。

 三島はそう思った。

「巡査の高田です。最寄りのパトカーをまわしました。三分で到着します」

「ありがとう。助かります。済まなかった。言い過ぎた」

 三島は威圧的に言い過ぎた事を詫びた。

「気にしないください。係長の功績は存じています。我々の誇りです」

「ありがとう。本当に済まなかった」


 パトカーが到着した。

「警察官暴行の現行犯だ。これが証拠だ」

 三島は顔をパトカーの警官に向け、殴られた怪我を見せた。すぐさま警官は怪我を録画した。

「それに、犯行現場の録画を目撃者のスマホから署に転送した。ネットにも流れてる。確認してくれ」

 四谷警察署 四谷見附交番周囲の群集が、YouTubeだと喚いている。

「わかりました。私は巡査部長の只野です。こっちは巡査の橋下です。

 連行します」

 パトカーは茂木を連行して四谷見附交番から走り去った。


 パトカーの後部座席で茂木は、

『なんとかしてあの三島を消してやろう』

 と思った。

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