五 茂木再々逮捕

 茂木進は警視庁四谷警察署の取調室で型どおりの尋問を受けた。犯行現場の映像がある。どう弁解しても暴行の罪から逃れようがない。

「痴漢の後は、警官に対する暴行だ。録画もある。弁解の余地は無い。留置しとけ」

 取調官の指示で、茂木は留置された。

 茂木は痴漢の現行犯で逮捕され、裁判が行われるまでの期間保釈されていたが、今回の警官に対する暴行で再留置されて、また保釈された。

 まだ、警察と検察内に茂木のような者が存在している証だった。



 十二月七日、火曜日、午前七時。

 茂木が保釈された翌朝。

 茂木は、杉並区梅里一丁目の自宅を出て、新高円寺から東京メトロ丸ノ内線池袋行に乗った。公用車を使わない時に茂木がいつも霞ヶ関で下車して警視庁へ通勤していた地下鉄だ。茂木は小柄で小太りだ。髪は長髪で薄い。ジーンズにスニーカー、Tシャツの上にセーター、ジャンパーを着ている。

 茂木は四谷三丁目で東京メトロ丸ノ内線から降りて徒歩で四谷警察署に着くと、三島が出てくるのを待った。

 三島は警部で生活安全課の係長だ。現場にも顔を出すので名を知られている。



 十二月七日、火曜日、午前八時。

 私服の三島が相棒の安藤由香刑事と共に四谷警察署から出てきた。茂木は跡をつけた。

 三島は安藤刑事と四谷三丁目から東京メトロ丸ノ内線池袋行の四両目に乗った。茂木は三島の跡をつけて同じ車両に乗った。

 三島と安藤刑事の担当地域は四谷一丁目だ。三島は現場責任者として現場の刑事たちを指揮して命令を発する立場にあり、常時、無線で連絡を取っている。

 四両目後部ドアから乗車した三島は中央部へ移動した。安藤刑事は前部ドアから乗車してドア近くに待機している。

 茂木は三島警部から離れて後部ドアから乗車して、移動する三島を追った。


 電車が四ッ谷駅に近づいた。三島は中央のドア付近に居る。茂木が三島の背後に近づき、ジャンパーのポケットに入れた右手でポケットのナイフを三島の背に突き刺した。

 やった!と茂木は思った。だが、ポケットの中の手に、ナイフが三島の身体に食い込んだ感覚が伝わって来ない。ナイフの先端が何かに突き当たってる。

 しまった!防刃ベストだ!

 三島がふりかえった。同時に三島の拳が茂木の顎を打ち砕いた。

「茂木!殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

 その場に倒れた茂木の手が背中にまわされて手錠をかけられた。



 十二月七日、火曜日、正午。

 霧島は自宅で茂木の犯行をニュースで知った。

「なんだ、あのバカ!連続して何をしてるんだ!

 公用車で通勤していればいいものを、スケベ心を出して電車に乗るからヘマをした。

 クビになっても、またバカをしやがって!

 余計な事を喋らなければいいが・・・」

 霧島はおちつかなかった。


 数日後。茂木はまた保釈された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る