第31話 謎の場所
メーシィの食堂で相良先輩から調査団に関する不満…というか、皆の意見を聞いたその日の夜。
俺は樋口さんに言われた通り、談話室で現代物資の配給を受けていた。
「なるほど、これは確かに喜ばれる」
配られたのはカップ麺や缶詰などの懐かしの味。
あとは、有料で漫画雑誌やゲームなどが販売されていた。ちなみに、ゲームは充電ができないので、充電済のバッテリー数個とセットで販売だ。これでも数日のプレイで充電はなくなってしまうと思うが、どうしてもゲームがやりたい人からすれば嬉しいらしい。
「うぉお!ポコモン対戦すんぞ!」
「待てよ、追加されたポコモン育ててからにしようぜ」
「そんなことしてたら充電なくなるだろ!」
「ジャンピオンの最新刊割り勘な」
「先に読ませてくれ!」
まるで子供のような会話が繰り広げられている。
何も知らなければ微笑ましいと思ったかもしれないが、昼間の相良先輩の話が思い出される。
無理やりこの世界に送り込まれなければ、ゲームだって漫画だって好きなだけ読めただろう。
もしも志願してこの世界に来たわけじゃなければ、この配給は砂漠の中のオアシスのように感じるのではないだろうか。
「いや、考えすぎか。いかんいかん」
俺は無料で配られた保存食の他、レイアが喜びそうな小物や、メーシィが喜びそうな調味料などを買う。もしかしたら市場で出回っているかもしれないが、そのときはそのときだ。
ブーギーには…とりあえず、懐中時計を買った。時計が喜ばれるかは分からないが、機械じかけのものなら仕事の役には立つだろう。
そして、何故かハルキにもプレゼントを買ってしまった。司令官であれば、ある程度物資を好きにできるのかもしれないが、平伏の黄原では彼のおかげで助かった。りんごをプレゼントすることにした。完全に見た目のイメージからだが。
こんなに大盤振る舞いできたのには理由がある。
なんと、給料日も今日だったのだ。
配給日に合わせて給料日とは嫌らしい気がするが、元の世界の品物が買えないことのないようにという配慮だと信じよう。
さて、肝心の給料だが、平伏の黄原の功績が認められたのか、手取りで50万円ほど貰えた。結構多いのではないだろうか。新人の基本給が20万円で、ボーナスで40万円。諸々引かれて50万円。
税金はないが、給料からある程度、共通施設の維持費が引かれる。病院や、寮などの、だ。
寮での食事代は別途支払うので、この中には含まれていない。
なにより、なんだなんだメーシィのところで食べることが多い俺は、寮は殆ど寝るだけの場所になっていった。
命がけで調査したのに、50万円!?とはならない。なぜなら、確かに命がけではあったが、レイアがいなければ雷で死んでいたし、カエルを見つけたのはレイアだし、羊を倒したのもレイア、俺がやったことといえば、簡単な作戦を立てたことと、羊の食事を妨害したことだけだ。悲しいほど脇役だ。
そうそう、だから俺はハルキに、レイアの分の給料もお願いしていた。いくら調査団に入っていないからと言って、俺と調査しているのに無給は酷い。
なんとか頼んだところ、基本給は出ないが、俺と同じようにボーナスは出してもらえることになった。
ただ、何故か俺が渡すことになった。
ハルキからは、
「僕から渡したら絶対に受け取らないだろうし、調査団にも絶対来ないだろうからね」
とのこと。
貰った袋の中身は見ていないが、結構重たかった。
まさか千円玉が大量に入っているなんてことはないだろうから、きちんとレイアの働きは評価されているのだろう。
閑話休題。
配給日を終え、皆一同に浮足立って部屋に帰っていき、どことなく寮全体が賑やかな感じだ。
他の団員といたため、声はかけられなかったが、樋口さんもビールを買っていた。これから飲み会なのだろう。
かくいう俺は1人だった。本当に友達がいない。
元の世界では礼亜と仲良くしていたから友達がいないのだと思っていた。もしかしたら大きな勘違いだったかもしれない。
俺は部屋に戻って、1人悲しく掲示板を眺めたあとに就寝することにした。
灯りを消して、布団に潜るが、どこからか楽しげな声が聞こえる。
木造建築だ。あまり壁は厚くないのだろう。
眠りにつくまでの間に、今日あったことを思い返していた。
非人道的な機関。不満を持ちつつも調査団に残る人々。そして、機関への復讐を目論む組織。
レイアの家で割り切った通り、俺のスタンスは変わらない。
元の世界に帰る方法を探す。
もし帰る方法が見つかれば、世界間のやりとりに人命が失われることもなくなるし、望まずにこの世界にやってきた人たちは帰ることができるようになる。
ただ、機関への復讐を望む人たちについては…どうしようもない。もしかしたらこの先、刃を交えることもあるのだろうか。
境遇を考えると、復讐の理由にも納得が行くし、俺から見ても機関が悪い。
だが、今の俺は機関の組織である調査団の一員だ。
いずれその時がくれば、嫌でも戦うことになるだろう。
今考えなくてもいい。そのときになったら考えよう。
そんなことを考えながら、俺はいつの間にか眠りに就いていた。
§
夜。
俺は物音で目を覚ました。
木製の床の上で誰かが歩いているような、ギシギシとした音がする。
一瞬廊下かと思ったが、違う。これは俺の部屋の中からしている音だ。
足音が近づいてきているのが分かる。
泥棒であれば寝たフリをしていたほうがいいのだろうか。
それとも、起きて取り押さえるか。
ハルキの端末はプライベートモードにしているため、助けは期待できない。
…よし。犯人を取り押さえよう。
意を決して目を開く。
「えっ」
目の前に広がっていたのは、一面を覆い尽くす真っ赤な光景だった。
自分が食べられたと気がついたのは、頭を飲み込まれ、足までが生ぬるい感触に包まれてからだった。
どこまでも飲み込まれ、身体はどんどん前に進んでいく。
こんなに大きな生物が俺の部屋にいたのか?それを疑問に思う余裕があるほど、長い時間飲み込まれていた。
急に目の前に光が差す。
「くっ…」
眩しくて目がくらんだ瞬間、俺の身体は放り出された。
今までが食道だとしたら、胃か!?
慌てて目を開き、立ち上がるとそこは予想に反して、豪華なホールのような場所だった。
「は…?」
辺りを見渡すも、俺が出てきたような穴は見つからない。
それどころか、食われたはずなのに、どう見ても体内には見えなかった。
天井にはシャンデリア。床には真っ赤な絨毯が敷かれ、壁には蝋燭で灯りが灯っている。
カーテンで仕切られたステージが設置されており、今から演奏会が始まると言われてもおかしくない。
「どうなってるんだ…」
窓は扉はなく、どこから入ってきたのか察することも出来ない。
「いて!」
声がして振り向くと、いつの間にか知らない男が尻もちをついたような形で後ろに座っていた。
さっきまでいなかったはずだ。
「お、人がいる。ここどこー?」
すごい軽く話しかけられた。いや話しかけるなというわけではないが、軽すぎてびっくりした。
一応、目上かもしれないので敬語は使っておく。心のなかでは軽そうな男と呼ぶ。
「分かりません。俺もここに来たばかりで」
「あ、そーなの。んじゃ俺と一緒ね」
軽そうな男はそう言って立ち上がると、おもむろにステージの方へ歩いていく。そしてカーテンに手をかけたかと思うと、一気に開けた。
「なんもねーじゃん」
「なんと不用意な…」
シャッとカーテンを戻した軽そうな男は、初めにいた場所に戻って座り込む。
「俺さ、部屋で寝てたはずなんだけど、起きたらこんなでさー」
「調査団の先輩ですか?」
「あ、そうそう。俺調査団」
ヘラヘラと笑いながら自分を指差す彼を見て、色々な人間が調査団にいるものだとある意味関心した。
そして、またドスンという音がする。
もしかして、また人が増えたか?
そう思って振り向くと、やはりそこには新しい人物が座っていた。
「………」
その人物は、シーツを被った姿で、怯えるように丸まっている。顔も身体も見えないので、どのような人物か察することはできない。
ただ、辺りを見回すわけでもなく、俺の方を見つめているような気がした。俺のことを知っているのだろうか。
「あの、あなたも部屋で寝ているところを襲われてここに?」
俺が話しかけると、相変わらずシーツに包まったまま、彼?彼女?は頷いた。
人見知りか、事情があるのか…。
とりあえずツッコまないでおくことにした。
「君さー、なんで布団被ってるの!?」
ツッコまないでおいたんだけどなぁ…。
軽そうな男が話しかけても、シーツの人はそちらを見向きもせず、こちらを見ている。
何度か話しかけても無視をされた軽そうな男は、不貞腐れたように部屋の隅に歩いていった。
「うわぁあ!!」
ドスン。
目の前に、急に新しい男が現れた。これで俺を含めて4人目だ。
「お、新しい人!君も部屋で寝てたの?」
相手をしてくれそうな人を見つけて嬉しそうに話かける軽そうな男。
それに対して、新しく現れたメガネをかけた男は困惑しているようだった。
「は、はい。俺も部屋で寝てたはずで……あの、ここは?」
「それが分かんねーのよ。とりあえず自己紹介でもすっか?」
メガネをかけた男が立ち上がったタイミングで、カーテンが急に開く。
音に反応してそちらを見た俺たち4人だったが、視線の先には仮面をつけた男が立っていた。
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