第28話 広がる世界

翌日、明け方頃に寮を出発した俺は、早速カエルの集落の向かった。

往復10時間コースなので、早めに行かないと夕方どころか夜になってしまう。

幸い、平伏の黄原は昼夜関係ないので、太陽が低いからといって暗いなどということもない。


唯一の不安として、カエルの油無しで雷に打たれるのは初めてだったため、そこだけは緊張した。

俺の雷に対する耐性はかなりのものだと自負している。

結果、雷に打たれても、ほどほど痛いが、我慢できないほどではないという結果だった。安心。


よくよく考えると、この行動もレイアに無断で行っているので、バレたらまた怒られるのだろうか。そもそも、普段なら出かける前に声をかけるはずだ。


「俺が避けてどーするよ…」


自己嫌悪に陥りながら、カエルの集落までの長い道のりを歩み始めた。

早く出たおかげで、昼頃には集落にたどり着くことができた。


集落に入った瞬間、沢山のカエルにもみくちゃにされたが、俺がオリーブをもっていないと分かると一斉に散っていった。現金すぎる。

帰りのこともあるので、さっさと枝を設置して帰ることにする。


「うん、バッチリだね。地図を見てくれ」


ハルキに言われて、端末を除くと、東側にしか広がっていなかった調査済み地域が、西側にも広がった。


「うーん、この瞬間が堪らないね」


しみじみとしているハルキを見て、俺も少し達成感というか、やり遂げた実感のようなものを感じることができた。


「じゃ、帰るよ」


「もう行くゲロ?」


長老は引き留めてくれるが、このあとの予定もある。


「また来るよ」


そう言って俺は、集落を後にした。

街に戻ってこれたのは丁度夕方だった。


「よし、良い時間だ」


早速ブーギーの店を向かうこととする。

もしまだできあがっていなかったら、隣の食堂で時間を潰せば良い。

そう考えながら、ブーギーの店をのぞき込んでみると、カウンターに伏せて眠っている店主がいた。


「寝とる」


徹夜で作業していてくれたのだろうか。完全に顔が腕に埋まっているため、表情を伺うことはできない。

まあ、もう一つの顔はかなり強い主張をしているが。


「寝ていると…光が漏れないのか…」


普段は後頭部の顔から、良く言えばほんのり、悪く言えばおどろおどろしい光が漏れている。

しかし、今は、全く発光していなかった。ただただ、黒い穴が広がっている。

頭部の直径など大したことはないはずなのに、後頭部にある落ちくぼんだ眼孔の奥には何も見えない。


「シャワーとか、どうするんだろ。水入ったりしないのかな…」


「…ちょっと、流石に見過ぎじゃない?」


「おわあ!」


自分でも気づかないうちに、かなり熱心に見つめてしまっていたようだ。

いつの間にか目を覚ましていたブーギーに声をかけられて、思わず飛び上がってしまった。


「お、起きてたんだな」


「さっきね起きた。というか、バッチリ目が合ってたでしょ」


目が合ってた…?ブーギーは完全に突っ伏していたはずだが…。


「ま、アタシと紳弥の仲だから許すけど、あんまり見ちゃだめだよ」


「ごめん」


素直に謝ると、彼女は、よろしい!と頷いて、背伸びをしながら立ち上がった。


「じゃ、持ってくる。待ってて」


そう言って彼女は店の奥に引っ込み、すぐに出てくる。

流石に手で持ちきれなかったのか、台車で運んできたようだ。


「ケンサキイカの剣と、例の骸具ね」


台車の上には、見慣れた白い剣と、白いマント、そして15cmくらいの角が置いてある。


「まずこれ、剣ね」


「ありがとう」


俺は先に手渡された剣を早速腰に差した。うむ、落ち着く。


「それで、これは…獣の角とマントね。てか、ケモノケモノって不便なんだけど、名前ないの?」


名前…。確かヤギだったと言っていたから…。


「ヤギガスパークだ」


「ホント?今考えなかった?」


会心の名前だと思ったが、疑われてしまった。

まあ、今考えたのだが。


「まあいいわ。それでその角だけど、見た目はただの角だけど、蓄電機能と、放電機能を搭載しているわ」


「おお、それはつまりあの放電攻撃が使えるようになるのか」


「まあ、見たことないから、あのとか言われても分かんないけど多分そう。あとは、出力の調整も握り具合で帰られるよ」


「すごいな!じゃあ、剣に電気を流したりできるのか」


「あー、まあ、出来なくも無いけど、その剣は骨から作ってるから微妙かなあ…」


そういえばケンサキイカの甲骨で作られた剣だとか言われていた気がする。


「そうなると、放電攻撃に使うくらいしかないのか」


「いや、そこでこれの出番よ」


そう言って彼女が広げたのは、白いマントだ。

これもヤギガスパークから作られた骸具だというが、こっちはどのような性能なのだろうか。


「これは、普通の状態だと、ただのマントなんだけど、電気を流すとボンッと毛が飛び出すわ」


つまりこれも生前の能力を忠実に再現しているというわけだ。


「さっきの角で、ゆっくり電気を流し続ければしばらく膨らんでいると思う。逆に、放電攻撃のような急激に強い電気が流れると、一瞬だけすごい勢いで大きく膨らむわ。ベルトから出る、さっかーぼーる?みたいな感じで!」


「よく名探偵の秘密道具が分かるな」


「趣味なのよ、異世界の本を読むのが」


結構あちらの娯楽もこっちの世界に流れてきているようだ。


「んじゃあ、こっちのマントは角からの電撃がないとただのマントなんだな」


「角だって、電気を溜めないとただの角だよ」


どちらも回数制限付きだが、強力な骸具だ。


放電の火力と、羊毛の防御力は身をもって体験している。その力を使うことができれば、攻防ともにレベルアップできる。

回数制限付きな部分は、ヤギガスパークが生きているときだって重大な弱点だったので、骸具になったからといって簡単に改善されるものではないだろう。


「すごい骸具だよ、ありがとう」


俺は二つとも受けとった。

角はポーチに、マントは身につける。骸具を身につけていく度に、どんどん異世界らしさが増していくような気がする。


「それで、充電の仕方はどうするんだ?」


なんとなく察しはついているが。


「雷を当てる」


「ですよねー」


これから調査に出かける前には平伏の黄原に立ち寄る必要があるな。


§


寮に帰ってきた。

結局レイアのところには行けなかった。


「まあ…大丈夫かな…多分」


レイアだって、そんなに気にしていないと思う。

俺や周りが気にしすぎているだけだ。

今回の調査は色々あったが、2人で良くやれたと思っている。それはやはり、俺たち2人だったからこそやり遂げることができたんだ。


ずっと一緒だったんだ。たった5年間離れていただけで、俺たちの仲がどうこうなるわけないだろう。

俺はそんな根拠のない自信で不安を打ち消しながら、眠りについた。

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