第26話 カエル、街へ行く

あれから、少し気まずい空気の中、俺は草が刈られているゾーンに落ちていたポーチを拾い、ハルキに連絡していた。


「ということで、平伏の黄原の調査は一段落したよ。まだ奥地の調査はできていないが、代わりに意思疎通のできる種族と交流を持つことができた」


平伏の黄原で起こった一連の出来事はハルキも端末を通して聞いていたはずだ。詳しく説明する必要はないが、一応報告の義務はあると判断した。


「お疲れ様。とりあえず、一度戻ってくると良い。流石に疲れただろう。奥地の調査はまたの機会でも良いさ」


「分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ」


俺は通話を切ろうとするが、ハルキに止められた。


「そうそう!こっちに戻ってくるときに1人、喋ることの出来るカエルくんを連れてきてくれないか?」


「喋れるカエル…」


通信は周囲にも聞こえている。

長老は頷き、隊長が手を挙げていた。


「分かった、1人連れて行く。だけど、どうして?」


「草原の安全が確保さえれたんだ。折角の縁を無駄にするわけにはいかないだろう?」


つまり、カエルたちと交流を深め、場合によっては特産品のやりとりなんかを期待しているわけだ。


「ちゃっかりしているな」


「長とは、そういうものゲロ」


長老が頷きながら言う。

なるほど、見た目はただのデカいカエルだが、しっかりと集落のまとめ役だというわけだ。


「じゃあ、今度こそ切るぞ」


「はい。気をつけて帰ってくるんだよ」


俺はハルキとの通信を切断した。


「レイア、そっちはどうだ?」


「こっちも大丈夫よ」


レイアには、獣の解体をお願いしていた。

ハウストマックの胃袋には、ある程度大きなものは入るが、あまりにも大きすぎるものは吸い込んでくれない。

だいたいイメージ的には、入り口の2~3倍くらいまでしかスッと入っていかない。


だが、あの獣は転生者に匹敵する力を持った獣だった。もしかしたら強い骸具が出来るかもしれない。

ハルキからは、一部を調査団に納めれば後は好きにして良いと了承済みだ。

レイアから獣を死体を収納した胃袋を受け取り、俺たちは街へと歩みを進める。

恐らく、放電に耐えることができた今の俺ならば、落雷には耐えられると思うが、念のため隊長に油をかけて貰う。

幸い、帰りは何事もなく街にたどり着くことができた。


「すごいゲロ!これが街ゲロね!」


テンションが上がっている体長を抑えながら、今後の予定についてレイアと話し合うことにした。


「隊長を本部に連れて行くから、レイアはブーギーたちに素材を届けてくれないか?」


「構わないけれど、骸具を使うのは貴方でしょう?直接要望を伝えなくて良いのかしら」


「もちろん後から俺も行くけど、先に持って行って貰った方があの姉弟も素材を調べる時間がゆっくりできていいかなと思って」


「そう。じゃあ、そっちは任されたわ」


胃袋を受け取ったレイアは、さっさと職人区の方へ言ってしまう。


「まだケンカ中ゲロ?」


その背中を見送りながら、隊長が心配そうに言う。


「別にケンカではないさ。ただ、認識の違いかな…」


「早く仲直りするゲロ。怖いゲロ」


「そこかよ」


俺は隊長とそんな話をしながら本部へ向かった。

完全に人型ではない種族は珍しいらしく、警備担当の団員は獣だと勘違いしていた。


「失礼ゲロ!人間!失礼ゲコ!」


「ごめんごめん、悪気は無かったと思うから…」


隊長をなだめながら本部を歩く。

ハルキの前で止まったので、隊長は少し不思議そうにしていたが、いつもどおり急に現れたハルキを見て驚いていた。


「木の獣ゲコォ!」


お前も十分失礼じゃないか。


「ははは、ごめんね。初対面の人にはついやっちゃうんだ」


悪趣味だ。


「よく来てくれたね、アフラ族の隊長。調査団一同、歓迎させてもらおう」


「こちらも、よろしく頼むゲロ」


こうして、早速各種族の代表たちの真面目な話し合いが始まったが、俺は邪魔しないように黙って見ていた。

決まった内容としては、だいたいこんな感じだ。

人間は、カエルたちにオリーブを定期的に供給すること。

その見返りに、カエルたちは平伏の黄原の調査を進めること。また定期的に平原の特産品を納めること。


さらに1つ興味深い条件があり、それはカエルの集落にハルキの枝を植えるというものだった。

ハルキの枝は、葉の骸具(俺たちの端末)と同じように通信機能があるらしい。それに加えて、一度植えてしまうと枝は持ち運び不可能な代わりに、設置した付近の地形などを把握する力があるらしい。前にハルキに見せられた黒い部分が多い地図の、白い部分は枝の効果範囲という意味だったとか。つまり、ハルキの枝の効果範囲外が未踏区域ということになる。

今までは落雷のため枝を設置することは出来なかったが、集落内であれば彼らの家の方が背が高いため雷で破損することはないので、設置することが叶ったというわけだ。


「まるで登頂を示すフラッグみたいだ」


「それに近いものはあるね。いずれは、この世界全域に僕の分身を植えたいと思っているよ!」


「全知具合に磨きがかかるな」


「楽しみだね。はい」


「お?」


地面から1本根っこが突き出してくる。


「それが僕の枝だ。引き抜いて、彼らの集落に植えてきてくれ」


「え、俺が?」


「当たり前じゃないか。彼らの身体では草木を植えるのは難しそうだろう?」


確かにカエルの形で植樹は難しいかもしれない。


「でも確か、油の成る木を育てていたんだよな?」


「生えているものに油かけてただけゲロ」


「そうですか…。分かった、んじゃ今度行ってくるよ」


「早めがいいな。今日とか明日とか」


「今日は勘弁してくれ。明日行くから」


カエルの集落までは結構かかる。徒歩だからというのはあるが、平気で数時間コーズだ。

レイアと一度話しておきたかったんだが、彼女はブーギーの店で待っているだろうか。性格上、さっさと帰っている気がする。

間が開くと、どんどん話しにくくなるんだよなあ。気が重い。


「何か不都合があったかな?」


「いや、構いませんよ司令官殿」


気遣ってくれたハルキに俺はそう返事をして、地面から生えた枝を引き抜いた。


「隊長はこれからどうするんだ?」


「折角ならこの街を見て回りたいゲロ」


「そうかい、だったら調査団の人間を着けるよ。少し待っててくれ」


ハルキは少し黙り込み、その後だれかと話し始めた。恐らく、調査団の誰かの端末に直接連絡したのだろう。


「じゃあ、俺はここで失礼するよ。人間の街を楽しんでくれ」


「明日には戻るゲロ。また集落で会うゲロよ」


「おう」


俺は話し中のハルキに軽く頭を下げて、本部を後にした。

急いでブーギーの店に行かないと、レイアが帰ってしまう。

俺は早足で職人区へ向かうのだった。

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