第19話 ブーギーの実力

早速貰ったお金で新しい装備を買おうと、俺たちはブーギーの店に来ていた。

俺の今の装備は、ここで買ったイカソードと調査団で貰ったポーチ、そしてブーギーに貸して貰っているハウストマックの胃袋だ。避雷針用に買った槍は重くて俺には持てない。


そして、このイカソードが問題である。安く買ったはいいが、切れない。

レイアの家に襲撃に来た狼男にも、天使にも全く歯が立たなかった。

早速ブーギーに聞いてみることにする。


「このイカソードよりも切れる剣はないか?」


「どれくらいの切れ味を求めているかによるよ?」


この世界に来て間もないため、いまいち基準が分からない。うーん。


「天使を切れるくらいかなあ」


「ぶふっ!随分大それた目標を持ってるのね!」


真面目に言ったのだが、笑われた。


「紳弥、天使は一般的には知られていないわ。普通の住人にとっては、元の世界での天使と同じような認識よ」


「つまり架空の生き物と…。うーん、そうなるとなんと言ったらいいか…」


「そうね。転生者を切れるくらいの剣だったらどうかしら」


俺が悩んでいると、レイアがブーギーに話してくれた。

なるほど、確かに転生者を倒せるほどの威力があれば申し分ない。


「あと、できるなら身を護るような装備もあるといいわね。人間は弱いから」


剣の他にも、そんなオーダーをしてくれた。

そこまで聞いて、ブーギーは少し考えながら、店内を物色し始めた。


「デビクス族のヴァスードとかなら転生者も切れるのかなあ…うーん…」


かなり頭を悩ませながら、彼女は色々な品物を見ていく。

というか、デビクス族のヴァスードどっかで聞いたぞ。そんなすごいのかヴァスード。


「そもそも、人間って腕力がないじゃん?持てるものも限られるわよねえ。ああ、くっそ、人間のお客さんが全然来なかったせいで人間向きの装備が分かんない!人間…もっと来て…」


なにやら苦労をかけているようだ。

ふと思いついたことがあった。


「そういえばレイア、この世界に魔法はないのか?異世界っていったら魔法だろ?」


「使える種族がいてもおかしくはないのではないかしら。転生者の能力だって魔法みたいなものでしょうし」


「おお!それなら魔法を使えれば強くなれるんじゃないか!?」


「難しいと思うわよ。この世界は元の世界とそんなに法則は変わらないみたいだし。元の世界でも魔法が使える人がいるとするなら、その人はこっちでも魔法が使えるでしょうね」


「そんなあ…」


奇跡も魔法もなかった。


「でもやっぱり、強くなるならこの世界ならではのものを利用するしかないのではないかしら」


この世界ならではのものいうと、やっぱり異種族と獣だろうか。


「結局は骸具って話に落ち着いちゃうのかあ…」


獣を倒すために骸具が必要なのに、骸具がないと獣が倒せない。オンラインゲームとかでよくあることになってきた。


「骸具…ほしいな…」


「え、あんじゃん」


俺が泣いていると、戸棚に顔を突っ込んでいたブーギーがこちらを向いた。


「そのケンサキイカの剣だって骸具じゃん。試しに柄の底のところ押してみ」


言われるがままに押してみると、白かった刀身にジワリと墨が浮かんできて、刀身が黒く染まった。


「おお、すごい!これの効果は!?」


「滑る。よく燃える」


なんだか微妙な効果だった。


「何よ。ちゃんと獣の生前の特徴を受け継いでいるんだから骸具じゃない!」


「まあ、確かにそういう定義なら間違いではないな…」


がっくりする俺を尻目に、レイアは驚いていた。


「すごいわ。普通こんなに弱い獣から骸具を作ることができるなんて…」


あのクールなレイアが目を丸くして驚くとなると、相当のことなのだろうが、いまいち俺にはすごさが分からない。


「そんなにすごいのかこの剣」


「ええ。普通、獣は死んでしまえば特性を失うけれど、強い獣はそうではないものもいる。だから強い獣からしか骸具は作れないの」


「死んだ人間から作った武器に発汗機能をつけるのは無理だという話か」


「最高に気持ち悪い例えだけれど、その通りよ。それを彼女は出来ているの」


「え、もしかしてアタシ褒められてる?」


色々なところを漁っていたため、顔中煤だらけのブーギーはにへらと笑った。

「私の鍛冶は色んな種族のハイブリット、まあいわば我流だからね。きっとその辺りが他と違うんじゃなあい!?」


「そうかもな、すごいらしいな」


段々と調子に乗ってきているが、事実すごいことらしいので、素直に褒めておくことにした。


「じゃあ、もしかして使い方を工夫すれば使える骸具とかあるんじゃないのか?」


「あるかも」


そうして、ブーギーだけではなく、俺とレイアも色々と品物を物色し始める。

弱い獣から作った骸具ばかりなため、微妙な効果が多いが、使えそうなものをいくつかピックアップして、作業台の上に並べる。


「これだけぇ…?」


最終的に残ったのは2つだけだった。


「何よ!持ち上げたり文句言ったり!」


「ごめんごめん、確かに失礼だった」


謝辞しつつ、改めて机の上の骸具を見る。

1つは手袋だった。触るとブヨブヨと液体が入っているような感じだが、衝撃には滅法強いとのこと。スライム的な獣が原料らしい。

試しにレイアに殴ってみて貰うことに。俺は右手にその手袋を装着する。


「流石に自分の手に付けて試すのはやめましょう?」


彼女からの申し出により、マネキンの腕に手袋をはめて、殴ってみることにした。


「はっ!!」


彼女は4本の腕を出しはしないが、本気で殴る。

彼女は生前、絶対に壊れない椅子の上で無茶をするタイプの人間だった。


結果は…。


「すごい、壊れてない!」


マネキンは原型を保ったまま、作業台にめり込んでいた。


「転生者の一撃に耐えるなんて、すごいわアタシ…」


レイアは少し悔しそうにしていた。壊したら弁償だったと思うので、少し安心した。


「いやこれはホントにすごい。是非買わせてくれ」


「でもこれ、素材が手に入らなくて片方しかないし、1つ16万円くらいもらうけど、いい?」


ブーギーは少し申し訳なさそうに言うが、これだけの性能であれば何の文句もない。


「大丈夫、値段の価値はある」


早速ポーチから金貨を16枚出して支払った。

そして、もう一つの骸具だが、そちらは衝撃を与えると爆発する棒だった。

棒の先には蕾のようなものがついており、これが破裂して中の小さな種を飛ばす。まるで破片手榴弾だ。ちなみに、1回爆発するともう一度爆発させられるまでに3日かかるらしい。


「威力はどんな感じなんだ?」


俺が訊ねると、彼女は腰に下げていた、牛か何かの皮をなめして出来た袋を軽く持ち上げる。


「これに穴が開くくらい」


「うーんそれならイカソードとあんまり威力は変わらないな」


「そのケンサキイカの剣だってそこまで斬れないわけじゃないからね。使い方の問題もあると思うよ。ぶっちゃけ、剣使ったことないでしょ」


「まあそうだな…」


結局は、武器の性能も大事だが、何よりも使い手の技術も大事という話だ。


「とりあえずしばらくは、剣に火を着けて戦えば?」


「熱くて持てないわ!」


俺はツッコミつつも、念のためライターのような骸具を買った。

別に本当に火を付ける訳じゃない。簡単に火を着けられれば、旅が楽になると思っただけだ。


「じゃあ、このハナビツボミの杖は買わなくて大丈夫?」


「あ、うん。そっちは大丈夫だ。ありがとう」


俺が断ると、ブーギーは広げていた商品を片付け始めた。

その様子を見つつ、さっき彼女が言っていたことを思い出す。


「あのさ、もしかしたら骸具が売っているってことを宣伝したら人間の客も増えるんじゃないのかな。俺、調査団で宣伝してみようか?」


「え?ああ、いいのよ。どうせアタシの見た目にビビってた連中でしょ。能力が認められるのは嬉しいけど、それで嫌々こっちを見ないように買い物されても腹立つもん。アタシの人間のお客さんは紳弥だけでもいいんだ」


微笑むブーギーを見て、俺は感動して言葉を返せなくなってしまった。

そこまで見た目を気にされなかったことが嬉しかったのだろうか。もしそうであるなら、逆に今までどれだけ見た目で忌避されてきたのだろうか。


「よし分かった、どんどん稼いで、沢山ここで装備を買わせて貰うよ」


「ええ、そうしてね!」


こうして俺たちは彼女の店を後にする。

帰り際、振り返ると、建物の右側と左側から、姉弟がそれぞれ手を振って見送ってくれていた。


「ありがたいな」


俺は呟く。

この世界に来てから、散々な目に遭ってきたが、その分色々な人に助けられている。

恩返し出来るように、自分が出来ることを精一杯頑張っていきたい。


「ところで紳弥」


しみじみとしていたが、レイアに話しかけられて現実に戻る。


「ん?どうした?」


「随分あの鍛冶屋の店員に好かれているけれど、私に合いに来る前に何をしたのかしら。これで浮気は3件目?」


「え!?いや別に何もしてないし、浮気もしてないし…ていうか、浮気ってなんだよ!」


「異種族ハーレムを作るつもりだわこの男。しっかりと私が見ておかないとね」


「おい話を聞け」


俺はレイアに引きずられながら、今日も平伏の黄原に向かうのだった。


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