2人が織り成す物語
俺が転勤してから
ただ、やはり寂しいものは寂しいもので、俺の頭の中にはいつも彼女の顔が浮かぶのであった。
(姫井さん……。今、何してるんだろうなぁ……。会いたい……。……ダメだ。仕事に集中しないと)
俺は頭をブンブンと振って雑念を振り払うと、パソコンに向かった。
***
その日の夜。俺はいつものように残業をしていた。すると突然、デスクの上に置いてあったスマホが震え始めた。着信だ。
「こんな時間に誰だろう……」
そう思いつつ画面を見ると、そこには『姫井さん』と表示されていた。俺は急いで電話に出た。
「はい……。もしもし」
『こんばんは。お久しぶりです。姫井です。……お元気でしたか?』
久しぶりに聞く彼女の声。少し低めだが心地の良い声音だ。俺は思わず頬を緩ませながら言った。
「もちろんです」
……自分でも分かるほど弾んでいる気がする。彼女はクスリと笑うと、話を続けた。
『良かったです……。それでですね……。今、お仕事中でしたか……?大丈夫でしょうか……?』
「えぇ。ちょうど終わったところなので」
『そうなんですね……!では、この後……予定とかありますか……?』
「いえ……。特には……」
……何だろう?俺たちは離れているはずなのに、姫井さんはまるで近くにいるように話している。
『よかった……!それなら、
「えっ……?ちょっ……」
電話が切れてしまった。
「なんだったんだ……?」
俺は首を傾げると、とりあえず会社を出た。
***
しばらくすると、駅に着いた。辺りを見渡すと、こちらに向かって歩いてくる人物がいた。
「………!?」
その姿を見て、俺は目を疑った。……姫井さんがいる。
彼女は笑顔でかけ寄ってきた。
「星野さん……!」
「姫井、さん……?どうしてここに?」
「ふふっ、驚きましたか?……私、こっちに引っ越して来ちゃいました!」
彼女は悪戯っぽく笑って言った。俺は未だに信じられず、戸惑っていると、彼女が続けて言った。
「驚かせようと思って黙っていたんですよ。……びっくりしました?」
俺は動揺しつつも答えた。
「そ、そうだったんですね……」
彼女はクスクスと笑いながら言った。
「そんなに驚いた顔をされるとは思っていませんでしたよ……」
「いや、だって……」
……まさか姫井さんがこのタイミングで来るとは思わなかったから。
彼女はふっと微笑みながら言った。
「私も最初は迷いましたよ。でも、どうしても星野さんに会いたくて……。自分でも、こんな気持ちになるなんて思ってませんでした」
「そんな……。俺もですよ」
俺はそう答えて、彼女を見た。しばらく見つめ合うと、なんだかくすぐったい気分になった。……そして、お互いに笑い合った。
「……星野さん。七夕は、昔は8月だったんですよ。知ってましたか?」
姫井さんはクスッと微笑んで言った。
「そうだったんですか……。知りませんでした」
「……私たち、七夕の日は会えなかったでしょう?前世は織姫と彦星だったのに……って」
「あぁ……。そういえば、そうでしたね」
俺もつい苦笑いしてしまった。
「だから、旧七夕の今日は一緒に過ごせたらいいなぁって思ったんです」
「……嬉しいです」
俺は素直に言った。すると、姫井さんは嬉しそうに笑った。
「ふふっ……!よかったです!……あっ、でも……。星野さん、今日は何時まで平気ですか……?」
「明日は休みですから、時間は気にしなくていいですよ」
「そうですか……!それは良かったです!それなら、どこかでお酒でも飲みながら話しませんか……?」
『お酒』と聞いて、俺はとある店が頭に浮かんだ。
「はい。それなら、良いお店を知っていますよ」
「本当ですか……!それは楽しみです……!」
彼女はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい……!よろしくお願いしますね……!」
こうして、俺たちは歩き出したのだった―――。
☆:*・∵*☆.。.:*☆.。.:*・.☆:*
沙織と文彦。2人の出会いは運命だったのかもしれないし、偶然だったのかもしれない。
ただ一つ言えることは、2人は出会うべくして出会ったということ。お互いに惹かれ合い、愛し合って……。
彼らの頭上には、天の川が輝いていた。それはまるで、2人を祝福するかのようだ。
彼らは手を繋いで歩く。互いの温もりを感じながら。これから先もずっと、共に歩めるようにと願いを込めて。
これは、彼らが織り成す恋の物語である。
2人が幸せな未来を迎えるのは、もう間もなくのことだろう―――。
天の川が繋ぐ2人の心 夜桜くらは @corone2121
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