2人が織り成す物語

 俺が転勤してから一月ひとつき程が経った頃。相変わらず仕事は忙しかったが、同僚とも打ち解けてきて、充実した日々を送っていた。

 ただ、やはり寂しいものは寂しいもので、俺の頭の中にはいつも彼女の顔が浮かぶのであった。


(姫井さん……。今、何してるんだろうなぁ……。会いたい……。……ダメだ。仕事に集中しないと)


 俺は頭をブンブンと振って雑念を振り払うと、パソコンに向かった。


***

 その日の夜。俺はいつものように残業をしていた。すると突然、デスクの上に置いてあったスマホが震え始めた。着信だ。


「こんな時間に誰だろう……」


 そう思いつつ画面を見ると、そこには『姫井さん』と表示されていた。俺は急いで電話に出た。


「はい……。もしもし」


『こんばんは。お久しぶりです。姫井です。……お元気でしたか?』


 久しぶりに聞く彼女の声。少し低めだが心地の良い声音だ。俺は思わず頬を緩ませながら言った。


「もちろんです」


 ……自分でも分かるほど弾んでいる気がする。彼女はクスリと笑うと、話を続けた。


『良かったです……。それでですね……。今、お仕事中でしたか……?大丈夫でしょうか……?』


「えぇ。ちょうど終わったところなので」


『そうなんですね……!では、この後……予定とかありますか……?』


「いえ……。特には……」


 ……何だろう?俺たちは離れているはずなのに、姫井さんはまるで近くにいるように話している。


『よかった……!それなら、大鷲おおわし駅前に来てください!それでは、失礼しますね』


「えっ……?ちょっ……」


 電話が切れてしまった。


「なんだったんだ……?」


 俺は首を傾げると、とりあえず会社を出た。


***

 しばらくすると、駅に着いた。辺りを見渡すと、こちらに向かって歩いてくる人物がいた。


「………!?」


 その姿を見て、俺は目を疑った。……姫井さんがいる。

 彼女は笑顔でかけ寄ってきた。


「星野さん……!」


「姫井、さん……?どうしてここに?」


「ふふっ、驚きましたか?……私、こっちに引っ越して来ちゃいました!」


 彼女は悪戯っぽく笑って言った。俺は未だに信じられず、戸惑っていると、彼女が続けて言った。


「驚かせようと思って黙っていたんですよ。……びっくりしました?」


 俺は動揺しつつも答えた。


「そ、そうだったんですね……」


 彼女はクスクスと笑いながら言った。


「そんなに驚いた顔をされるとは思っていませんでしたよ……」


「いや、だって……」


 ……まさか姫井さんがこのタイミングで来るとは思わなかったから。

 彼女はふっと微笑みながら言った。


「私も最初は迷いましたよ。でも、どうしても星野さんに会いたくて……。自分でも、こんな気持ちになるなんて思ってませんでした」


「そんな……。俺もですよ」


 俺はそう答えて、彼女を見た。しばらく見つめ合うと、なんだかくすぐったい気分になった。……そして、お互いに笑い合った。


「……星野さん。七夕は、昔は8月だったんですよ。知ってましたか?」


 姫井さんはクスッと微笑んで言った。


「そうだったんですか……。知りませんでした」


「……私たち、七夕の日は会えなかったでしょう?前世は織姫と彦星だったのに……って」


「あぁ……。そういえば、そうでしたね」


 俺もつい苦笑いしてしまった。


「だから、旧七夕の今日は一緒に過ごせたらいいなぁって思ったんです」


「……嬉しいです」


 俺は素直に言った。すると、姫井さんは嬉しそうに笑った。


「ふふっ……!よかったです!……あっ、でも……。星野さん、今日は何時まで平気ですか……?」


「明日は休みですから、時間は気にしなくていいですよ」


「そうですか……!それは良かったです!それなら、どこかでお酒でも飲みながら話しませんか……?」


『お酒』と聞いて、俺はとある店が頭に浮かんだ。


「はい。それなら、良いお店を知っていますよ」


「本当ですか……!それは楽しみです……!」


 彼女はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。


「それじゃあ、行きましょうか」


「はい……!よろしくお願いしますね……!」


 こうして、俺たちは歩き出したのだった―――。


 ☆:*・∵*☆.。.:*☆.。.:*・.☆:*


 沙織と文彦。2人の出会いは運命だったのかもしれないし、偶然だったのかもしれない。

 ただ一つ言えることは、2人は出会うべくして出会ったということ。お互いに惹かれ合い、愛し合って……。


 彼らの頭上には、天の川が輝いていた。それはまるで、2人を祝福するかのようだ。

 彼らは手を繋いで歩く。互いの温もりを感じながら。これから先もずっと、共に歩めるようにと願いを込めて。


 これは、彼らが織り成す恋の物語である。

 2人が幸せな未来を迎えるのは、もう間もなくのことだろう―――。

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天の川が繋ぐ2人の心 夜桜くらは @corone2121

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