繋ぐ者たちの反省会

 閉店後の『Bar 天の川』にて。店主の鵲翔助かささぎ しょうすけは、誰かと電話していた。


「……と、いうわけですよ」


『おぉ~!さっすが翔兄しょうにい!やってくれると思ってたよ~!』


 電話口からは、明るい声が響いてきた。相手は彼の妹、翼咲つばさのようだ。


「まぁ、私も姫井さんには幸せになってもらいたかったので」


『うん!あたしもそう思う!……で、姫井さん……いつ頃こっちに来るかな?』


 翼咲はワクワクを抑えきれない様子だ。そんな彼女に、彼は苦笑いしつつ言った。


「さっきも言った通り、まだ分かりませんよ。……ただ、姫井さんはすぐにでもそちらに行かれるようでした」


『えぇ!?ホントに……!?やったぁ……!!』


 電話の向こうから、歓喜の声が聞こえてくる。それを聞いて、彼はクスッと笑いながら言った。


「……姫井さんは、本当に星野さんのことが好きなんでしょうね……」


『それを言うなら、星野さんも同じだよ!この間なんか、姫井さんの話を聞いてたんだけど……。星野さん、話に夢中になりすぎて、1時間くらい喋ってたし!』


「へぇ……。それは凄い……」


 翔助は感心したような声でそう返した。


『《近いうちに嬉しいことがあるかもよ》って伝えたんだけど、酔ってたのか、全然気付いてなかったみたいだけどね……。あははっ……』


 翼咲はおかしそうに笑った。


「それは残念でしたね……。……ん?ちょっと待ってください……。あなた、星野さんに何を飲ませたんです……?」


 翔助は怪しげに尋ねた。すると、彼女は慌てたような口調になった。


『あ、いや……!別に変なものは入れてないよ!普通のカクテルだし……』


「……それは何というカクテルで……?」


 なおも翔助は追及する。


『えぇと……確か……「ロングアイランド・アイスティー」だったかな……?あはは……』


「……それ、度数の高いカクテルじゃないですか……!あなたは一体、何を考えているんですか……!」


 呆れたような彼の言葉を遮るように、翼咲は慌てて言った。


『で、でも、星野さんも喜んでくれたしさ……』


「そりゃそうでしょうけど……」


『それにほら、「ロングアイランドアイスティー」のカクテル言葉は《希望》じゃん?きっと、2人にとって良い未来が訪れるはずさ……!』


 彼女は自信満々に言う。


「はぁ……まったく……。それなら、度数を弱められる『ダイキリ』でもよかったではないですか……。同じカクテル言葉ですし……」


『あ……』


「『あ……』じゃないでしょう……。あなたは本当に……」


『ごめんってば!……そうだ、翔兄は姫井さんに何を出したの?』


 翼咲ははぐらかすように話題を変えた。

 翔助は仕方なく質問に答える。


「私は『ジン・トニック』を出しましたよ」


『ふむふむ……。どんなカクテルだったっけ……?』


「『ジン・トニック』のカクテル言葉は《強い意志》や《いつも希望を捨てないあなたへ》ですよ。1杯目にも良いですし……」


 翔助の言葉に、翼咲はヒュウっと口笛を吹いた。


『さっすが翔兄!相変わらずの博識っぷりだねぇ……!』


「褒めても何も出ませんよ……。まぁ、確かにあなたの言うことも一理あるかもしれませんが……」


『だよねだよね!姫井さんと星野さん……早く会えるといいね……』


 翼咲はしみじみと言った。


「そうですね……。……まぁ、あの2人のことですから、いずれ会えますよ」


『ふふっ……。それもそうかもね……。じゃあ、また電話するね!おやすみなさい……』


「はい。お疲れ様です」


 そう言って、翔助は電話を切った。


「うまく、繋げられればいいのですが……」


 彼は窓の外を眺めながら呟く。


(翼咲に、2人が無事に会えたら、連絡でも入れてもらいましょうかね……)


 そんなことを考えながら、彼はグラス磨きを再開するのだった───。

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