楽しいやりとり [side 文彦]

[side 文彦]


(……やった!……でもまさか、本当に連絡先を交換してくれるとは思わなかったな……)


 帰り道の途中、俺は考えていた。



 俺は今日の昼休み、勇気を出して姫井さんに話しかけた。普段なら、そんな勇気は出せない俺だったが、なぜかその時は違ったのだ。

 そして、彼女と仲良くなりたいと伝えた。すると彼女は、「いいですよ」と言ってくれた。


(まさかOKしてくれるとは思わなかった……。でも、これで一歩前進だ)


 俺は小さくガッツポーズをする。そして、スマホを取り出した。


(さて……。まずは何を送ろうか……)


 俺は悩んだ。いきなりメッセージを送ってもいいものだろうか?……でも、せっかく連絡先を交換したんだから、何か送りたいよな……。

 俺はしばらく考えた末、シンプルにこう送った。


『今日はありがとうございました。これからよろしくお願いします』


(……これじゃ普通すぎるかもしれないな)


 俺はさらに悩み続けた。……すると、しばらくして返信が来た。


『星野さん、こんばんは。姫井です。こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします』


(よかった……。返事が来てくれた)


 俺はホッとした。……しかし同時に緊張してきた。俺は生まれてこの方、女性にメッセージを送信したことがない。だから、すごくドキドキする。



(……大丈夫だろうか)


 俺は心配になった。……だが、このまま何もしないのもよくないだろう。俺は意を決して、彼女にメッセージを送った。


『今日は突然、声をかけてしまい申し訳ありませんでした。迷惑ではなかったでしょうか?』


(……なんか、俺らしくないな)


 俺は苦笑した。


(でも、これが今の俺なんだ)


 俺は彼女の反応を待つことにした。すると、すぐに返ってきた。


『全然、迷惑ではありませんでした。むしろ、星野さんとお話しできて良かったと思っています』


(……本当か?)


『それなら安心しました』


『はい。それに、星野さんとのお話は楽しいので……』


 ……なんだろう。すごく恥ずかしくなってきた。


(俺って、今までこういう経験がなかったから、よくわかんないんだよな……)


 俺は苦笑しつつ、次の言葉を考えた。



(そうだ。姫井さんはどんな人なのか聞かないと……)


 ……でも何から聞けば良いんだ? 俺は悩んでしまった。すると、またすぐに彼女から送られてきた。


『星野さんは、どんなお仕事をされてるのですか? ちなみに私は、事務員の仕事をしております』


(へぇ……。仕事は何をしているんだろうと思ってたけど……。事務の仕事だったのか)


 俺は納得しつつ、返信を考える。


『俺は営業マンをしています。主に外回りが多いですね。あと、たまにデスクワークもありますけど……』


 そこまで書いて、手が止まった。



(……俺のことばかり書くのは変じゃないか?)


 俺はそう思った。


(姫井さんは俺のことを聞いてきたけど……俺だって姫井さんのことが知りたい)


 そう思った時、ある言葉を思い出していた。

 それは、『相手のことを知りたかったら、自分のことも教えないと』という言葉だ。

 確かにその通りだと思う。……よし!


『俺も姫井さんのことについて聞きたいことがあります』


『はい。何でも聞いてください』


 姫井さんから返信が来た。

 ……メッセージを送ったのはよかったが、何を聞くか考えていなかった俺は再び悩んでしまった。


(えっと……質問……。『ご趣味は何ですか』……?いや、それじゃなんだかお見合いみたいだし……)


 そこまで考えて、俺は急に恥ずかしくなった。


(……でも、姫井さんの趣味が気になるのは事実だよな)


 そう思った時、ふと気になったことを聞いた。



『そういえば、姫井さんは休日に何をされているんですか?』


 我ながら良い質問だと思った。


(姫井さんは、普段から忙しそうにしているイメージがあるしな……)


 そう思っていたのだが、意外にもあっさりと答えが返ってくる。


『私は家で家事をしたり、買い物に行ったりすることが多いですね。あとは編み物をしたり……』


(……え?)


 俺は驚いた。……まさか、こんなに家庭的な人だったなんて。


(……でも、そういうところも良いな)


 そう思いつつ、次の言葉を考えてみる。



 そんなこんなで、やりとりは夜遅くまで続いたのだった―――。

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