第6話 今日は想いで魂を貢いじゃう

 この日彼は、一体いつになったら自分の魂が奪われるのかを聞いていた。


「いつまでって…もうすぐよ。あとちょっとで終わるわ。なんでそんなに自分の余命が知りたいの? それにあなたってやっぱり変だわ。自分の魂が奪われるのをわかっていて、平然とそれを受け入れているんだもの。この前の手紙で過去の因縁ともおさらばできたんでしょ? なら自由に生きればいいじゃない」


 だが、彼は何か腑に落ちないと言った態度を取ってくる。


「え? 私? そりゃあ、あなたがそんな隙だらけな感じだから、わざわざこうやって言っちゃうのよ。言っても大丈夫かなー的な。たしかに、普通のサキュバスだったら魂の話は巧みに隠すわ。でも、あなたは何というか、隠すだけ馬鹿馬鹿しいっていうか。どうせ言ったって、それが普通みたいな態度を取るんでしょ」


 そう言って彼女はベッドに寝転ぶ。


「そうね……。わかったわ。そしたら、今日は一度地獄に帰るわね。それで、明日、あなたの魂を取りに来るわ。いいこと? 明日の朝一には来るから」


 彼女は珍しく、一切の笑みのない声でそう言ってくる。


「もし来なかったら、あたしに何かあったと思って、うまく悪魔からも逃げおおせたとでも思いなさい。いいこと、明日の朝だからね」


 そう言いながら彼女は立ち上がる。


「もう行くから。私がいないからって仕事しちゃダメよ。じゃあ……バイバイ…ありがとう」


 その言葉を残して、彼女は地獄へ帰っていった。


 そして次の日、彼女は姿を現さなかったのだった。



 ◇◆◇◆



 次の日の朝、彼が未だに部屋にいるのを見て、彼女は少しだけ残念な思いを持つ。本当はいなくなっていて欲しかった。まだいるということは、彼は贖罪を受け入れているのだろう。


「はぁ、まだいるし…。もう…いいのに。手紙にだって書いてあったじゃない、もういいんですって。…それとも、私のことに気付いちゃったのかな」


 独り言を口の中で転がしながら、彼女は移動を開始する。


「でも、彼の魂は全快できたし、とりあえずはいっか。当初の目的は達したわけだし。……さて、どこにいこっかな。あと二日か。思い出の場所にでも行っておこっかな。さすがに歴代初だろうなぁ、研修未達成は」

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