第38話 冒険者ギルドマスター ハンズ・バン
【sideハンズ・バン】
ここ二週間ほど仕事が上手くいっていない。
それもこれも副ギルドマスターであったハーフラインが反旗を翻したからに他ならない。ハーフラインはワシの功績を妬んで不正をでっち上げようとしおった。
冒険者ギルドという荒事に関する仕事をする上で必要悪という者を理解しないバカな奴であった。
邪魔さえしなければ死ぬこともなかったというのに、奴に任せていた雑用が他の者ではかなり仕事が遅くなり、面倒なことこの上ない。
「ハンズ・バンギルドマスター」
入ってきた職員は、ハーフラインの後釜にしたものだが、仕事ができない無能で仕方ない。
「今度はなんだ!?」
「王都冒険者ギルド本部より、監査の通達がなされました」
「はっ?どういうことだ?監査?この間、A級認定をするための審査をしたばかりだろ?」
「それが、こちらの不正の証拠について調査を行うと言われて、すでに本部ギルド職員が待機しております。ギルドマスターが拒否しようとも強制執行されると」
何を監査するつもりなのかはわからない。
だが、嫌な予感がする。
「入れるな!絶対に入れてはならん!」
「しかし!すでに一階に」
「なんだと!!!」
ワシは急いで階段を駆け下りて一階へ向かった。
冒険者を退けて本部ギルド職員が書類などをダンボールに入れている姿が目に入る。
「なっ何をしておる!ここはワシのギルドだぞ!」
元A級冒険者であるハンズ・バンが威圧を放ったことで、数名の職員は手を止めるが、上級職員たちは誰一人気にした様子もない。
そんな中で一人の職員がハンズ・バンへと近づいていく。
スーツに眼鏡。どこから見ても事務員と言った風貌をした男はハンズ・バンの威圧などものともせずハンズ・バンへ接近した。
「ギルドマスターのハンズ・バン殿ですね。私は今回の監査を担当させて頂きます。筆頭監査官マルサと申します」
「きっ貴様!なんの権限があってこのような暴挙をしているのかわかっているのか!!!」
「もちろんです」
眼鏡を片手で上げた職員は、鋭い瞳でハンズ・バンを睨みつける。
「むっ!??」
「我々は、副ギルドマスターハーフライン殿が残した書類を元に王国第一王子様より正式に要請を受けてきております。
あなたにどのようなバックがついているのか知りませんが、その方が本当にあなたの後ろ立てになってくださるのか疑問ですね」
クソ!ハーフラインめが、死んでもワシの邪魔をするというのか!!!
ワシはマスター室に戻って貴族様への連絡を送る。
いくら王子であろうと、王都の権力者であるあのお方が介入すれば我の邪魔をすることはできない。
「おい、新人のバッツはいるか?」
「へい、ギルドマスター。なんでしょうか?」
「ちょっと使いを頼まれてくれ」
「構いません。この場にいても何もできませんからね」
バッツも状況についていけないで戸惑っていた。
まだまだ新人ではあるが、オーボもダンカンもいない今となっては声をかけやすいのはバッツしかいない。
「ならば、ワーイル侯爵の下へこの手紙を届けてくれ」
「へい」
冒険者ギルドを後にしたバッツを見送り、侯爵様からの返事を待つ間に本部ギルドに見られては困る物を隠す作業に入る。
いくらギルド本部の職員が優秀であろうとも、突破できない領域があるのだ。
それさえバレなければ、最悪は免れることが出来る。
「失礼。こちらの調査もさせて頂きます」
先ほどのマルサが侵入してきて、ギルドマスター室を部色し始める。
ワシは黙って応接室へと移動してお茶を飲むことにした。
今更、どう調べようと意味が無いのだ。
「ハンズ・バン殿。お身体の方もよろしいでしょうか?」
応接室まで追いかけてきたマルサが、ワシが隠していると判断したようで検査を求めてきた。
「好きにするがいい」
「それでは」
どれだけ調査しようと意味はない。
ワシには秘策があるのだ。
「何もありませんね」
「ふん、ならばもうよかろう」
ワシが素直に従ったことに疑問を抱いているようだが、証拠は絶対に見つけることはできない。
「筆頭監査官!」
「どうした?」
「実は……」
調査員がやってきて、何やら話を始めるがワシに怖いものは存在せん。
「ギルドマスター。申し訳ありませんが一階へお付き合い頂けませんか?」
「なにっ?ワシには関係あるまい」
「ご協力いただけないのであれば強制的に連行することになりますが?」
「ふん、いいだろう。付き合ってやる」
連行されるようなことは何もない。
堂々としていればいいのだ。堂々と……
監査官と共に一階に赴くと、見たことがある顔が待っていた。
「お久しぶりです。ハンズ・バンギルドマスター」
「お前は……シドーだったか?」
顔はなんとなく覚えていたが、名前はうろ覚えでしかない。
仕えない無能というイメージで塗り固められた男だ。
「貴様がどうしてここにいる?」
「ギルドマスター。私はハーフライン副ギルドマスターの代理としてここにやってきました」
そうか、この男とハーフラインが繋がっていたのか!
「貴様が!」
「はい。最後の仕上げのために来させていただきました。しばしお付き合いください」
気に入らん男ではあるが、無能が何をしようと所詮は無能のすることだ。
「いいだろう。付き合おう」
「ありがとうございます」
ワシが承諾するとシドーは腕を振り上げた。
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