第37話 王国が変わる日

一週間の間を空けて、鍛冶師ギルドのギルドマスターゴルドンから献上品が出来上がった連絡がきた。

王国に流れる新聞記事には、裏とは言え、巨大なスラム街の裏カジノだった場所が一夜にして壊滅したことは随分と話題になった。


また、B級冒険者の新人殺しなど……小さい記事も取り上げられていたが些細なことだ。



「先生、準備が出来ました」



リリアの声で目を空ければ、四人の姿が見える。

登城するために用意した衣装に身を包んだ四人は気慣れない服に戸惑っていた。



「セシル。大丈夫かい?」



いつもフルメタアーマーによって顔を隠していたセシルは目元だけを隠す仮面を付けている。



「はい。大丈夫です」



彼女は幼い頃に受けた顔の傷を隠すため、人前では顔を晒すことを拒んでいた。

私は傷を治療することは出来た。

だが、心に抱えた傷は彼女自身で乗り越えていくしかない。



「そうか、では行こうか」

「本当に大丈夫かな?不安だよ」

「ディーの兄貴落ち着けよ。礼儀作法はこの一週間で習っただろ」

「そうだけど」


あの襲撃事件を体験したガロは、精神的に強くなった。

元々物覚えがよかったこともあり、礼儀作法や所作は誰よりも早く覚えていた。

立っている姿を見ればどこかの貴族子息に見えてくる。


「姉さん、礼儀作法は私達も不安だよ」

「女は度胸よ。行くしかないでしょ!」


ドレスを着た二人はとても綺麗で、赤い髪がドレスに良く似合っている。

セシルの方が礼儀作法を覚えるのが早くて綺麗ではあるのだが、心の持ちようはリリアの方が上のようだ。


「リリアの言う通りだ。度胸と気迫以外に必要なものはない。後は俺とガロの動きを見ていればいい」


俺はパチンと指を鳴らす。


すでに献上品はゴルドンから受け取っているため王城の門番前へと転移する。



「何者だ!」


歩いて門へ近づいていくと兵士に止められる。


「本日、王子へ献上品を遂げるように仰せつかりました。シドーと護衛のC級冒険者パーティーメンバーのリベンジャーズです」


「……確認できた。通って良し」


兵士に通行許可をもらい、王城内で待っていた他の兵士へ謁見前の待合室へと通される。


「マジかよ。めっちゃフカフカじゃん」

「こら、ガロ。礼儀作法だよ!

「うわ~めっちゃ緊張してきたよ!!!」

「セシル、落ち着きなさい。大丈夫よ」

「お姉ちゃん、それは花瓶で私じゃないよ」


待合室で緊張しまくる四人を眺めているとすぐに時間など過ぎてしまう。


「王子が会われるついて来られよ」


呼びに来た兵士に従い。謁見の間へと進む。

客人ではないため応接間というわけにはいかない。

謁見の間は、王子の執務室の横に疲れた小さな部屋だった。


「シールズ王子におな~り~」


兵士の声に従って、膝を付いて頭を下げる。

四人も俺に習って頭を下げた。



「献上品、急な要件ではあったが、大儀であった」

「はっ!」


いちいち謁見を求める者に名を名乗っていては疲れてしまうので、王子は名乗ることなく要件を伝えてくる。


「また、その方らが提出した書類は読ませてもらった……事実であるのだ?」

「副ギルド長ハーフランが命を賭して調べた内容でございます」


追加書類として、暗殺ギルドで見つけたリストやハーフラインが殺された証拠も提出すている。


「近々冒険者ギルドに調査が入るだろう。王都冒険者本部ギルドから信用できる者が調査に当たる」

「ありがとうございます」


貴族を抑えるために王子を利用しようとしたハーフラン。

だが、王子側は今回のことを重く受け止め、冒険者ギルドに働きかけをしてくれた。

また、暗殺ギルドで見つけたリストによって、王国側に反旗を持っていた貴族たちのあぶり出しもできることだろう。


「……もしも、これらのことが事実であれば、貴殿らには褒美を取らせることになる。その旨心得ておいてくれ」

「はっ!ありがとうございます」

「ふむ。以上である。下がれ」

「はっ!」



ただ、王子が話していたようだが、俺は王子が信用に足る人物なのか見極めていた。


まだハッキリとはわからないが、ディーやガロと同じ年代の少年で王子にどこまで負担をかけてよいのかふと疑問が浮かんでしまう。



「失礼します」


扉の前で振り返って退出する。

廊下に出ればここまで案内してくれた兵士が待っていて、門へ案内してくれる。

城を出たところでガロが座り込む。


「ガロ、まだ早い」


パチン



王家の威厳とでも言えばいいのか、四人は何も話していないにも関わらず、緊張で疲れ切って家に帰り着くと食事も食べにないで自分の部屋に戻って眠りについてしまった。



俺は王子の言葉だけでは心許ないと判断して家を出た。



パチン



「王都冒険者ギルド本部支部長ローガン殿に面会を求めたい。シドーが来たと伝えてください」


冒険者ギルド本部に来た俺はローガンの部屋へと案内された。


「やぁ、ローガン」

「よくぞお出でくださいました。我が師」


前回よりも緊張感は幾分和らいだようで、ローガンが膝を付いて出迎えてくれる。


「王子より、連絡が来ました」

「仕事が早いな」

「王は凡庸な方ではありますが、王子は優秀と聞いています」

「そうか、それで?ハンズ・バンはどうなる?」


少しだけ殺気が漏れたかもしれない。

ローガンの額から汗が噴き出す。


「ハンズ・バンは冒険者ギルドマスターの職を失うことでしょう」

「それだけかい?」

「……ハンズ・バンのやり方は褒められたものではありませんが、評価を上げたのも事実。不正で稼いだ物は取り戻しますが……それ以上の罪は問えないかと……」



これはハンズ・バンが賢いのではなく。


人の世とは法の元で人命が守られているためだ。


「そうか……君は何も悪くないよ」

「はっ!」

「魔王がいる時代ではないからね。人命は大切だ」



魔王と言う言葉にローガンの顔が青く染まっていく。



「久しぶりに勇者のあの子に会いたいな」

「セリカは関係ありません!」

「どうしたんだい?僕はあの子に会いたいと思っただけだよ」

「あっいえ……申し訳ございません」

「謝る必要もないさ。結果は聞くことはできた。お邪魔するよ」

「お待ちください!師が望まれるのであれば……」

「君は人の世で生きているんだ。法は守りなさい」


俺はローガンに手を振りギルド本部を後にした。



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