第36話 壊滅
パチン
俺が指を鳴らした瞬間、俺とガロ以外の全ての人間の動きが遅くなる。
「えっ?」
「ガロ。君には見ていてほしい」
「先生?」
悠々と立ち上がった私をスローに動く一番近くにいた人間の首を撥ねた。
「へっ!」
「この場にいる人間は全て暗殺ギルドに登録されている暗殺者たちだ。もちろん、王国の闇に必要な者立ちではあったが、今回は間違えた相手と手を組んでしまってね」
また一人、目玉をついて絶命させる。
次の女性は胸を一突きにして、四人目の男性は魔法で吹き飛ばした。
「先生……何をしているの?」
「これは友へのレクイエムだ。そして、これはガロ、君への授業だよ」
「授業?」
五人目は剣で串刺しにして、六人目は四肢を切り落とした。
「そうだ。シーフとは諜報、視察と言った他の職業では見ることのない酷い死を見る機会が増える。例えば、同じ冒険者が魔物に食べられているとする」
ゴクリ……ガロが唾を飲む音がする。
七人目の魔法使いは、自らが発動した魔法を暴発させてやる。
「だが、シーフは感情に左右されて魔物に食べられている冒険者を救ってはいけない。近くに仲間がいて、確実に救える算段をつけるまでは、一人で突っ込んで死ぬことは許されない。それは仲間に危険が魔物がいることを教えなければならないからだ」
八人目はカジノのテーブルに両手を突き刺して丸焼きにする。
「ガロは家族思いで良い子だ。だからこそ、知ってもらわなければならない。人の命は平等ではない。平等であろうとするが、不平等こそが平凡で当たり前の日常なんだ」
九人目は真っ二つ切り裂いた。
十人目からは面倒になって一閃で切り伏せた。
「さて、残る獲物は一人だけだ」
スローになりながらもガタガタと震えて涙を浮かべるダンカンが残されている。
「ガロ……君はどちらを選ぶ?ここは君にとっての分岐点だ。
いつか、盗賊討伐や賞金首など人を殺す機会はやってくるだろう。
ガロの目の前にいる男は暗殺ギルドの諜報員としてハンズ・バンの小間使いをしていた。ハーフラインを殺すことにも一役かっているだろう」
ハーフラインは弱い男だった。
それでも彼なりの強さで理不尽に抗おうとしていた。
しかし、相手の悪辣さに命を散らすことになってしまった。
それは弱さ以外の何者でもない。
もっと早く、彼がすることが分かっていれば手助けすることも出来た。
ハーフラインそれを一人で全て背負い込んで、一人で果たそうとした凄い奴だ。
「先生。強さがどんなものか、俺にはまだわからねぇよ」
「そうだね。君は優しいから」
「だけど、こいつらがしたことが悪いことだってのは分かってる」
ガロの瞳にはダンカンへの憎しみなど微塵もない。
スラム街でダンカンに搾取され続けた日々があったとしても、ガロは腐ることなく賢く生きていた。
「ダンカン、あんたがしてきた悪いことは俺は知らねぇ。
だけどさ……これからあんたが起こす悲劇は止められるってことは俺でもわかるよ」
ガロは自前のダガーを取り出してダンカンへ向ける。
手を上げようとするが、ダンカンの動きはゆっくりとしていて、ガロの動きには到底ついていけない速度だ。
「これはケジメだ。あんたと俺の因縁。ここで終わらせてもらうぜ」
ガロは優しくダンカンの首を切り裂いて血を噴き出させる。
真っ赤で綺麗な血しぶきがカジノを染めて、この場にいた暗殺者全てを殺し尽くした。
「おいおい、穏やかじゃねぇな」
時間がスローから通常へと戻ると、一人の男が現れる。
ガロはその男を見た瞬間、身の毛も際立つ恐怖を感じた。
「くくく、ガキはわかりやすくていい。死を予感して、身構える猫のようだ。でっ?おっさんお前は誰だ?」
ピエロのような派手な服装。顔にペイントをして、ピンクの髪は真面な人間には見えない。
「ハーフラインの使いとでも言っておこう」
「ハーフライン?う~ん。知らねぇな。多分、依頼で殺した奴なんだろうが、殺した奴のことまで覚えていねぇんだ。悪いな。ましてや俺の仕事じゃなけりゃ余計にわからなぇ」
こちらをバカにする口調にガロは嫌悪されて後ずさる。
「お前が暗殺ギルドのマスターか?」
「う~んどうだろうな。まぁここに居て、生き残ってるのが俺だけなんだ。そうかもな」
「暗殺ギルドは今日をもって廃業してもらう」
「おいおい。本当に穏やかじゃねぇな。意味わかって言ってるのか?ここは単なる支部だ。例えば、あんたが俺を殺して支部を潰したところで、他のところからあんたを殺すために暗殺者が送られてくることは変わりねぇぞ?」
男は面白いオモチャをみつけたと言わんばかりに楽しそうに語っている。
「別に問題ないさ。もしも、それを行うなら暗殺ギルド全てを破壊してやってもいい」
「へっ?へへへあはははあはあはははははあははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!」
狂ったように笑ったピエロはピタリと笑いを止める。
「いいね~いいよ。あんた……名前を聞いてもいいかい?」
「シドーだ」
「シドーか……俺はケルビー。奇術師ケルビーと言う。どうだい?あんた暗殺ギルドに来ないかい?幹部……いや、ボスとして歓迎してもいい」
ケルビーはこれまで多くの暗殺を行ってきた。
だが、それは同時に相手の力量をある程度計れる自信もある。
強い奴であっても、暗殺なら殺す方法が存在する。
正面から戦う必要はないのだから……ただ、例え正面から戦ったとしても負けるつもりはないとケルビーは思ってきた。
だが、目の前に現れた男の底が見えない。
「悪いが、俺は冒険者専門の家庭教師をしていてな。暗殺者になるつもりはない」
「そうかい……残念だね」
ケルビーは仕掛けていたバクダンを同時に発動して、部屋全体を飲み爆炎が吹き上がる。
パチン
ケルビーは爆発を起こすと同時に建物から飛び出した。
「やったか?」
「誰をだ?」
ケルビーが爆発して全焼する暗殺ギルドを振り返るが、目の前に俺が立つ。
「くっ!化け物」
「お前はどうやらわかってしまう奴のようだ。もしも、別の形で……生徒として会えたなら違った結末になったかもしれないな」
ケルビーはこれまで多くの死を振りまいてきた。
だが、次に気づいたとき己の身体は炎の中で燃え始めていた。
「なっなんだよ。どうなってるんだよ。俺の身体動けよ!逃げろ!」
叫ぼうとするが、血が口から吐き出されて言葉が出ない。
「お前の頭だけは、証拠として必要なんだ」
ケルビーは聞こえてくる声にゾッとした顔をする。
「もうお前は死んでるよ」
首だけになったケルビーに真実を告げると、ケルビーは目を見開いて死に絶えた。
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