第35話 計画

ハーフラインが用意した書類に目を通して、グレートモンキーの使い方について記されていたため、俺はガロを連れて鍛冶師ギルドへ訪れていた。



「あんたがハーフラインが言っていた冒険者かい?」


「いえ、私は冒険者の家庭教師をしております。彼が今回依頼を達成した冒険者パーティーメンバーリベンジャーズの一人です」



「リベンジャーズのガロと言います。今日はハーフラインさんから依頼された素材をお持ちしました」



「……惜しい人を失っちまったな」



鍛冶師ギルドのギルドマスターゴルドンは、ハーフラインのことをよく思ってくれた人のようだ。



「本当に……友人でした」


「そうか、それは辛いな。素材を提出する意味はわかっていると思っていいんだな?」


「はい。第二王子への献上品なのですよね?」


「そうだ。ハーフラインさんは、こちらのギルドと折り合いをつけるために第二王子と顔つなぎをするつもりだった。もちろん、オレッチの方から王子へ献上はさせてもらう。だが、主となっていた者を失ってはな」



ハーフラインの計画は、ハンズ・バン及び、その関係者たちの不正の証拠を集め、王子へ献上することで貴族たちからの圧力を牽制した上でハンズ・バン一味の失脚を狙うというものだった。


そのため、新人冒険者などのハーフラインに協力する者達を使って素材を集めをして、商人ギルドや鍛冶師ギルドに協力してもらって王子へ献上できる手はずを整えていた。


その最終手段がグレートモンキーの毛皮を使った防具であった。



「ハーフラインの意思は私が継ごうと思っています」


「あんたが?あんたは家庭教師なんだろ?冒険者ギルドに関係ないんじゃないのか?」



怪訝そうな顔でゴルドンは疑問を口にする。



「私は元冒険者ギルド職員なんです」


「元?」


「ハンズ・バンに辞めさせられていまして」


「なるほどな。恨みか?」


「いえ、恨んではいませんでした。ただ、友の仇を討ちたいとは思っています」



ゴルドンはしばらく考えるそぶりを見せる。



「あんたが悪いわけじゃないが、あんたの思いだけじゃ信用ができん。信用に足る証拠を見せてほしい」



ガロは不安そうな顔で俺を見る。



「それでは一つ。暗殺ギルドを潰してまいります。そこのボスである男の首をお持ちしましょう」


「はっ?」


「先生?」


「この書類をご覧いただけますか?」



ゴルドンにハーフランが用意していた3の封筒を手渡す。


そこにはハンズ・バンと関連する裏組織が記されていた。



「これは……ハァーなるほどな。ここを潰すってことか?」


「そうです」


「それが出来ると?」


「貴族を抑えるためには確かに王子の権力が必要になるでしょう。ですが、裏にはその力は及ばない。

せいぜい、ハーフランはハンズ・バンを追い詰めることで、裏との関係を匂わせて手を切らせるつもりだったようだが、むしろ裏ギルドを先に潰します」



ゴルドンはテーブルに書類を置いて、深々と溜息を吐く。



「俺もギルドのマスターを務める者だ。裏の奴らは知っている……もちろん、お手手繋いでというわけじゃない。何度か煮え湯を飲まされたことがあるってことだ……ハァーわかった。あんたがもしも暗殺ギルド潰せるなら俺たち鍛冶師ギルドは協力しよう」



ゴルドンの協力を取り付けることに成功した俺は笑顔を作る。



「ありがとうございます」


「おいおい、まだ潰せるか決まったわけじゃないだろ?」


「そこは頑張るしかないですね」


「暗殺ギルドを潰すのに頑張るか?案外あんたみたいな人が一番怖い人だったりしてな。ガハハハ」



ゴルドンに約束を取り付けたことで、俺は商人ギルドに赴いて、同じ条件で約束を取り付けた。



ただ商人とは職人とは違い……



「私らは自分らにとって利益になればと考えるだけです。現在の冒険者ギルドマスターさんは私らのことは考え変お人やから協力はします。ですが、あんた様がどのような方なのかも見極めさせていただきますよって」



商人ギルドマスターハントと商人というよりも歴戦の戦士のような鋭い瞳で俺を見た。



「期待に沿えるように頑張らせていただきます」


「それでは」



ゴルドンと違い完全な許可ではなかったが、黙認してくれる胸を預かり。


俺はガロを連れて、暗殺ギルドへ訪れた。



「先生、どうして俺を?」


「ガロ、君との約束の一つはここにいる」



暗殺ギルドはスラム街の端の酒場を経営していた。



酒場に入るとガラの悪そうな男たちがこちらに睨みつけてきた。



「冒険者の方かね?何をご注文で?」



片目に眼帯をつけた初老のマスターに声をかけられる。



「コンガリと焼けたステーキを」


「焼き方は間違いないか?」


「ああ、ウェルダンで」


「ついて来い」



酒場の奥へと進んでいくと奥は広い倉庫になっていて、最奥へ入るとカジノとなっていた。


見た目よりも広い空間なのは、建物の見た目に魔術が施されているいるからだ。



「ガロ。見て見ろ」



カジノのディーラーとして、ガロの因縁の相手であるダンカンが働いていた。



「ダンカン」


「ここはそういうところだ」



俺はガロを連れて、ダンカンがディーラーをしているテーブルへついた。



「お客さん……へぇ~なんの用だ?」



ダンカンは俺とガロが来ても慌てることなく余裕の笑みで出迎える。



「今日はここを潰しに来た」


「……面白い冗談をいうじゃねぇか……ここをどこだかわかってねぇのか?」


「いや、分かっているさ。だけど、俺には何の問題もない」


「そうかよ。なら死ねよ」



ダンカンが指示を出すと、俺とガロを囲んでいた暗殺者たちが一斉に武器を抜き魔法を構える。



「遅いな」



俺は指を鳴らした。



パチン


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