第34話 友からのメッセージ
グレートモンキーを討伐したリベンジャーズは、素材を回収して帰宅することになった。
ただ、意識を失ったパンサースナッチを放置することもできないため、俺がギルドハウスへと連れ帰ることにした。
ギルドハウスには留守の間に、郵便が届いていたらしく。
厳重に魔法で封が成されおり、特定の人物以外には開けれないようになっていた。
「ハーフラインから?」
俺はパンサースナッチをギルドハウスの牢屋へ入れると自室へ戻って封筒を開いた。
1と書かれた封筒を開くとハーフラインからの手紙が入っていた。
『まずは、このような方法で書類を送りつけたこと申し訳ない。
今の私にはもっとも頼りになる人間はシドーの他に考えられなかった。
そして、約束していたB級冒険者パンサースナッチに関しては、犯罪の証拠を同封しておいた。
王都ギルド本部に提出してくれれば、君たちの安全を約束した上で、パンサースナッチを冒険者として抹消できることだろう。
また、二枚目にはハンズ・バンの不正の証拠を同封してある。
それらをどう使うのかは、シドーに任せようと思う。
私は……すまない。自分では判断できない。
三通目には、ハンズ・バンの裏との繋がり、人間関係。その証拠。
また、貴族との密会で使われた証拠の数々とかかわった貴族の名前を記したリストを同封している。
二枚目だけであれば、ハンズ・バンだけを終わらせることが出来る。
しかし、三通目をしかるべき場所へ提出すれば、現在のギルドも……あとはないだろう。
こんなことをシドーに頼むことになってすまない。
俺は……弱い……自分一人では何もできない……あとは頼む』
所々空間が開き、涙の後も見て取れる。
ハーフラインなりに悩み苦悩してしたためた書類なのだろう。
俺は二つの書類に目を通して、今後のことを考えようと思っていた。
まずは、ハーフラインともう一度相談する必要もある。
リベンジャーズの捜索に付き合ったので、ハーフラインと会ったのは二日前だが、早々に会う必要がありそうだ。
パチン
すぐにハーフラインとアポを取る必要があったため、俺は冒険者ギルドの外へと転移した。
しかし、冒険者ギルドでは人手が集まり騒ぎが起きていた。
「何かあったのか?」
集まる市民へ問いかける。
「ああ、なんでも殺しがあったらしいよ。冒険者ギルドの事務員さん。え~となんて言ったかな?最近副ギルドマスターになった」
「ハーフライン?」
「そうそう、そのハーフラインさんが今朝殺されたらしいんだ。なんでも川で浮いていたところを発見されたらしいよ。惨いことをする人もいるもんだね。これだから冒険者なんて野蛮な人たちは怖いよね」
市民はハーフラインの遺体が運ばれてきたと聞いて、そそくさとその場を離れていった。
俺は冒険者ギルドの入り口でハーフラインがタンカーになって運ばれてきた姿を見ることしかできなかった。
ハーフラインの手にはロケットが握られており、そこには家族の写真が挟まれていた。
誰がやったのかわからないが、家に届いた書類はハーフラインの思いだ……
ハーフラインの最後を見届ける必要などない。
奴が託したのはそんなことじゃないんだ。
「お前の思いは託された」
パチン
ギルドハウスに戻った俺は、ハーフラインが用意してくれた書類の一枚目を元にパンサースナッチたち三人を連れて王都冒険者ギルド協会へと出頭した。
「あなたは?」
「元、冒険者ギルド初心者講習講師マナブ・シドーと申します。
現在はフリーの冒険者専用の家庭教師をしております。
今回は、初心者冒険者を獲物として、悪さをしている犯罪者を連れてまいりました」
王都冒険者ギルドの職員は抑揚のない淡々とした口調で問いかけてくる。
「こちらに」
ハーフラインが用意した証拠を提出する。
そこには、パンサースナッチがしてきた証拠となる魔導写真の証拠と盗品の数々が記されたリストだった。
「これは……少々お待ちいただけますか?」
「はっ!」
事務員は本部内へ入ると、提出された書類を冒険者ギルド統括本部長へと渡した。
本部長は内容を認めて判を押した。
「これを持ってきた者と面談はできるか?」
「えっ?会われるのですか?」
「ああ、少し興味深い」
「お連れします。パンサースナッチはどういたしますか?」
「しかるべき罰を与えるので、牢へ」
「かしこまりました」
戻ってきた事務員に案内されて、冒険者ギルド本部に入っていく。
広い応接間の真ん中のソファー。
そこに座る男は、王国でも誰も手を出すことが許されない。
冒険者ギルド幹部の一人。
勇者パーティーの戦士でSSS級冒険者。
「久しぶりです。我が師」
そんな男がソファーから降りてシドーの前で膝を折る。
「久しぶりだね。ローガン」
「姿を消されたと聞いていましたが、まさか王国にいたとは」
「この国には俺を知る人はいないから。君以外には」
俺が声をかけるとローガンは髪の無い頭から汗を落とす。
「安心して、何もする気はない。ただ、この国で世話になった友人が殺されてね。悪は……断罪するつもりだ」
俺はローガンを通り過ぎてソファーへ座る。
「すまない。君の許しもなく座ってしまった」
「いえ、問題ありません。私が出来ることはありますか?」
「そうだね……俺は静かに生きていこうと思っていたんだよ。
何も問題なければ誰にも迷惑をかけることなく人生を終えようとね。
俺の知識など、子供たちを育てて命を少しでも伸ばさればよかった。
それを邪魔されてしまったよ。
別にただのやりとりだけであれば、よかったのに命を狩り取られてしまった」
ゴクリ
ローガンの喉が広い部屋で響く。
「ローガン、私はリベンジしようと思う。子供たちだけの成長だけでなく。自分自身で」
「おっお待ちください。師が動かなくても命じて頂ければ、今すぐその者達をここに連れてきて全て私が殺します。どうか」
「ダメだよ。君の敵じゃないでしょ?」
「グっ!しかし、師が動けば、王国は……」
「はは、安心して、全てを壊そうとは思っていないから、思い知らせてやるだけだよ。誰を怒らせたのか……」
俺のために用意されたのであろうお茶を飲んで立ち上がる。
「ローガン。久しぶりに会えてうれしかったよ。
だけど、君にしてほしいことは、誰にも私がここにいることは言わないこと。
そして、私が復讐するのを冒険者ギルド幹部として見届けてほしいってことぐらいだ」
「はっ」
ローガンは最後まで平伏したまま、俺を見送った。
昔から、真面目な子なので苦労のたえない子だった。
彼も大人になり成長してくれたことを嬉しく思う。
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