第39話 王国の裏の顔

俺はハーフラインの書類に書かれていた。

ハンズ・バンと繋がりのある貴族の下へとやってきていた。


「貴様がこれを?」


提出された書類を読み終えた侯爵はソファーに座り直して深々と息を吐く。



「何が目的だ。こんなもので私を脅せると思っているのか?」


鋭い眼光で、俺を睨む眼力は、初老を迎えているとは思えないほど鋭い。


「はい。思っています。正直な話ですが、書かれている内容は貴族であれば多少は手を染めている悪事だと言えるでしょう。そのための小間使いとして、ハンズ・バンを利用した」


「まぁ、そうだな」


無駄な言い訳などしない。

これまで貴族社会で生き残ってきた男は甘い男ではない。


「だからこそあなたは知っている。もしくは逆らってはいけない引き際を理解していると判断させていただきます」


「どういう意味じゃ?」


「ワーイル侯爵……手を出してはならない存在の話を聞いた事は?あなたはその道も王国の中では詳しい方でしょう」


俺はただ腕を組んでワーイル侯爵に問いかける。

彼よりもずっと若い俺が何を言おうと意味が無いように思える言葉であっても、世界とは広いのだ。


「勇者……もしくは魔王か……それがどうしたと言うのだ?勇者は魔王を倒したことで冒険者となって世界を回っていると聞く。しかも彼女は何かを探しているようで、こんな些細な出来事に関心などないじゃろう」


「そうですね……ワーイル侯爵。あなたに少し昔話をしましょう。これは勇者たちしか知らない物語です」


いきなり何をいうのかと怪訝な顔をするワーイル侯爵。


「大人しく聞くことをおススメしますよ」


ワーイル侯爵は先を促すように唾を飲み込む。


「ある小さな村に一人の女の子がいました。


彼女は魔王の進行により、両親を失い。

その日生きることも難しい状態だった。

そこへ冒険者をしていたある男が現れた。

彼は、幼い彼女を助け、戦う術と生きる術を教えた。


彼女は才能を開花させて、いつの日からか勇者と呼ばれるようになった。


その力を使って魔王討伐を果たした。


しかし、世界とはそう単純なものではない。


魔王という脅威が去った後、魔王を倒せる存在である勇者は人類にとって本当に必要な力なのか?


世界は勇者に反旗を翻そうとした……だが、世界に対して反旗を翻した者がいた」


そこで言葉が切られて、ワーイル侯爵は額に汗を流す。


「デビスティーチャー」


ワーイル侯爵が言葉を発する。

俺は演出するように己の体から威圧を放つ。


「貴様は誰だ?」


「私は冒険者専門の家庭教師をしております。

マナブ・シドー。

得意科目は、冒険者ジョブ全般。

自身の得意魔法は空間魔法と時間魔法」


パチン


指を鳴らしてワーイル侯爵の背後へと転移する。


「なっ!」


「よくお考えください。これが最後の通告です。

あなたは引退し、王国の裏の顔をお辞めなさい」


耳元で囁くと噴き出す汗を拭こうともしないで、ワーイル侯爵は頭を抱える。


そんな応接間の扉がノックされる。


「ワーイル侯爵様!冒険者ギルドに監査が入ったと連絡が来ました」


「ワーイル侯爵、決断の時です」


執事の言葉に俺は最後の問いかけをする。


「……ワシは知らん。

冒険者ギルドマスターハンズ・バンとは一切関係ない」


「よろしいのですか?」


執事はこれまでのワーイル侯爵の行為を知っているのだろう。


「今日をもって家督も息子に譲る。ワシは今日をもって引退する」


そこには憔悴して老け込んだ男がいるだけだった。


「かしこまりました」

「私も失礼します」


俺が侯爵邸を出ると、そこには連れてきていたディーが待っていた。

だが、その隣にはハンズ・バンから手紙を持ってきたのであろうバッツと共に……


「おい、役立たず!どうしてお前がここに居るんだって、聞いてるんだ」

「君には関係ないと言っているだろ、バッツ」

「何を!俺様の言うことが聞けねぇのか!」


いつまでも落ちこぼれと罵るバッツに俺はディーの横に立ち告げる。


「ディー、私に遠慮する必要はない。子供はケンカするものだ」

「よろしいのでしょうか?」

「ただ、私は新人が死ぬところはあまり好きではない。あくまでケンカでな」

「わかりました」


俺のウィンクにディーはバッツを見る。


「バッツ、ずっと言いたかったことがあるんだ」

「あぁ?なんだ?」

「君って口が臭いし、声は大きいし、弱いのに偉そうで目障りなんだ。僕の前にいちいち現れないでくれないか?」


ディーがこれまで思っていたことを告げると、バッツの顔は見る見るうちに赤くなり拳を握る。


「上等だ!お前が俺の前を歩きあがるから目障りだったんだ!」

「レベル差があるからね。僕は魔法は使わない」

「舐めるなよ!」


殴りかかるバッツに、ディーが身をかわしてアッパーを決める。

魔法強化をしていないディーの拳では、戦士のバッツにはそれほどダメージはないだろう。


だが、ディーに殴られたことがバッツには驚きだったようで、殴り倒される。


「なっ殴りやがったな!」

「ああ、何度でも殴ってやるよ。

僕も自分の体を鍛えて、弓を弾いているんだ」


一か月前とは比べられないほど鍛えられたディーの体。

レベルが上がり、経験を積み、多くの魔物と戦ってきたディーは立派な冒険者だ。


しばらく二人を眺めていたが、力に任せて殴るだけのバッツと、交わして技術を使って殴るディーでは力量に差があり過ぎるようだ。


勝敗が決したことで、俺は転移で冒険者ギルドへ向かった。


パチン



冒険者ギルドに入った俺の下へハンズ・バンがやってくる。



「お久しぶりです。ハンズ・バンギルドマスター」

「お前は……シドーだったか?」



どうやら俺の名ぐらいは覚えていたようだ。



「貴様がどうしてここにいる?」

「ギルドマスター。私はハーフライン副ギルドマスターの代理としてここにやってきました」

「貴様が!」

「はい。最後の仕上げのために来させていただきました。しばしお付き合いください」


ハンズ・バンには秘密がある。

それは俺が所有する魔法を同じ物を奴がもっていると言うことだ。


「いいだろう。付き合おう」

「ありがとうございます」



承諾を受けたことで、俺は断罪の手刀を振り下ろした。


空間が裂けて、中からアイテムが放出され始める。



「なっ!何を!!!」

「あなたのお持ちのスキルを破壊させていただきました。私も同じ魔法が使えますが、スキルで同じ力をお持ちだったとは」


ハーフラインの記述が無ければ、ハンズ・バンがアイテムボックスを持っていることを知ることはできなかった。



「やっやめろ!これは俺の物だ!全て私個人の所有物だ!誰も見るな!!!」


そこには不正の証拠となる貴族のリストや裏帳簿も含まれていた。

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