第18話 妹の役目
誰よりも優しくて、自分を表に出さない。出すことが恐い。
恐怖から自らを隠して、偽り、強い自分を作り上げる。
「セシル」
「はっはい!」
補助魔法を5つ習得するまで一年はかかると言われている。
それは補助魔法が、イメージが難しく。
また他人の魔法をかけるための範囲が狭いため有効な魔法を思われていないからだ。
「よく三つも一週間で覚えたな」
「えっえへへへ。先生が教えてくれた魔法は私に合ってたみたいです」
「合ってた?」
「はい。補助魔法は直接誰かを傷つけません。例えば、体を重くする魔法」
「グラビティか?」
「はい。これは体を重くしますが、この魔法をかけられると身動きがとりにくくなるだけで、相手を傷つけません。他にも早く動けるアクセル。防御力を高めるブロックは体が早く動いたり、防御するとき魔法のバリアみたいな感覚で凄いんです」
興奮して話をするセシルは、自分の新しい力を喜んでくれたようだ。
「最近は棒術を使うことも覚えようとしているみたいだな」
「あれ?知ってたんですか?」
「まぁ、ここの庭で練習してればな。なぜ隠してやろうとしたんだ?」
「えっと、笑わないでくださいね」
「ああ」
モジモジと恥ずかしそうにフルメタルアーマーがガシャガシャと音を鳴らす。
「私、孤児のときにたくさんイジメられていたんです。そのときはお姉ちゃんを妹の私が守るんだって……私は小さい頃から力が強かったし、身体も丈夫でしたから……」
彼女たちが孤児で暮らしていたことは聞いていたが、それ以上の内情は初めて聞く。
「だけど、大きくなると暴力だけじゃなくてイジメって色々あるんです。
お姉ちゃんは大きくなるにつれて今のような態度を取るようになって、イジメられなくなりました。
だけど、私は大きくなるにつれて、人を傷つけるのも傷つけられのも怖くなってしまってそんなとき体の大きな男の子に熱い鍋の湯をかけられた事があったんです。
あっお姉ちゃんは知りません。
凄くヒドイ火傷を負って、助けてくれた冒険者さんがいました」
以前、孤児院に訪れる冒険者がいるという話をしていた。
リリアに剣の使い方を教えただけでなく、セシルに鎧を与えた相手だろう。
「その人がポーションをかけてくれたので、傷は残らなかったんですが、それから自分の体には傷があるような気がして人前で鎧が脱げなくなりました」
身を抱きしめるようにその時のことを思い出すセシル。
「お姉ちゃんは凄いんです。昔は泣き虫だったのに、強くなって私の手を引いてくれて。誰とでも話が出来て……でも、私は恐いです。だから盾と棒を使って遠ざけたくて」
セシルの力なら槍を持って敵を倒すことも出来ただろう。
だが、恐怖を抱える彼女は敵を倒すことすら恐く感じてしまっている。
それではダメだ。
冒険者は、自ら危険に飛び込まなければならない。
セシルは他人の為ならば、危険に飛び込むことが出来るかもしれないが、そのとき敵を倒せなければ危機を脱することはできない。
彼女には冒険者以外の職を薦めた方がいいのかもしれない。
「それでも私は冒険者になりたいんです」
考えていたことを読んだのか、セシルは決意を込めた瞳で俺を見た。
「どうしてそこまで冒険者にこだわる?リリアはセシルがいなくてもやっていける。
それにリリアはセシルが好きなことをしたいと言えば、養ってくれると思うぞ」
「だからです。お姉ちゃんは凄い。凄いけど、きっと弱いのを隠すために強くなってるんです。それをわかってあげられるのは私だけだから。私お姉ちゃんが大好きなんです」
人にはそれぞれ理由がある。
彼女は優しいが故に力を持ったことを悩み。
大好きな人のために自分を活かす道を進む。
「ならば示そう。お前の道を。それが教師として俺の役目だ。セシル。お前には絶対防御の称号を授かるレベルまでタンクの技術を叩き込んでやる」
タンクの最高峰
どんな相手からも、どんな攻撃からも、どんな場所であろうとセシルがいる限り誰も傷つかない。
そう言われる絶対防御の称号。
「はい!」
「覚悟を示したんだ。折れるなよ」
俺は間違っていた。決して、この子は弱くない。
いや、誰よりも折れない信念を持っている。
ならば、攻撃など出来なくてもいい。
「その代わり棒は捨てろ。お前に必要なのは盾だけだ」
「えっ?」
「勘違いするなよ。戦士なんかは何でも使うから盾と槍を持つ。だが、お前には攻撃を期待しない。防御だけに特化して、全てを守り全てを補助しろ」
その日から、盾に関する技術を教えていく。
補助魔法に盾術。
セシルは信念に基づく戦闘スタイルを確立させやすい。
ただ、セシルのレベル上げは難航するだろう。
パーティーを組んでいれば、経験分配を受けられるがレベルを上げるためには己自身で倒す方が効率がいい。
「棒で遠ざけたいって言っていたな」
「えっはい」
盾を構えて踏ん張ったり、押したりしているセシルに問いかける。
「よし、なら良い技がある」
盾術は奥が深いのだ。
パチン
「ふぇ?」
「ここは初級のスライムダンジョンだ」
「えっえっ?ああ、はい。そうですね。でも、なんでスライムダンジョン?」
「今からセシルにある技を伝授する」
「ある技?」
「ああ、これは盾術の三つある奥義の一つだ」
「奥義!!!」
索敵したスライムの前でバックラーを構える。
スライムダンジョンは初級だけあって、現れるのはスライムのみ。
そして階層を重ねない限り、スライムが行ってくる攻撃手段は一つだけ。
「バニッシュ」
スライムが飛び込んでくるタイミング見計らって盾を押す。
スキルの発動と共にスライムが弾き跳ぶ。
「えっ!」
「どうだ?今のなら出来そうか?」
「えっえっ?え~と、はい。出来ると思います」
それから元々のレベルが5だったこともあり、レベル10までスライムを倒し続けた。
「私が、モンスターを倒してる」
最初驚いていたセシルもコツを掴みだすと、大楯を使っても上手くカウンターを決めることができていた。
「よし。初級試験合格だな」
「ふぇ?合格?」
「ああ、セシル。お前は付与魔法だけじゃなく。自分で戦える技も手に入れた。元々フルメタルアーマーと持って生まれたポテンシャルによって強さ持っていたんだ。だから、後は戦う術だけだった。攻撃を選ぶのか、防御を選ぶのかは、今後の課題ではあるが、初級としては十分に合格だ」
ガロに続いて、セシルも己のスタイルを見つけつつあり、三人の生徒は素晴らしい成長を遂げてくれている。
残る一人は……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます