第17話 孤児院の姉妹

【Sideリリア】




私たちが生まれた家はそこそこ大きな貴族だったそうだ。


とても美しいお母さん。

傲慢で意地汚いお父さん。


お父さんは美しいお母さんを自分の物にするために、多くの悪いことをした。


そして、私たちが生まれてお母さんが死ぬと、悪いことがお父さんへ返ってきた。


さんざん悪事をしてきたのだ。

報いを受けるのは仕方ない。

だけど、その報いは娘である私たちにも降り注いだ。


お父さんが殺されて、私たちは孤児院に預けられた。


そこは、ある貴族のオジサンが出資している孤児院で、貴族のオジサンは孤児院にやってきて、私たち二人に話を聞かせる。



「お前達は悪い貴族の子供なのだ。お前達は一生、罪を償わなければならない。

最低限の食事と生活はさせてやろう。だが、成人したらどこへなりと死に行け」



そう言って最低限の生活という、最低な生活が私たちを待っていた。


孤児院では、私たちは元貴族で悪いことをした孤児と言われていた。

子供たちは素直で残酷な生き物だ。

悪い物を見つけたら退治する。

私たちは退治というなのイジメを受けた。


まともにご飯を食べられる日はまだよかった。

ほとんどの日が泥や髪の毛、虫が入っていた。


妹のセシルはそれでも強かった。

いつも笑って私に心配をかけないでおこうとして笑っていた。

元々力が強い子だったので、孤児院の子供達から受ける攻撃を私に代わって受けていた。

傷だらけでそれでも私に向かって「大丈夫だよ」と笑ってくれる。


私はただただ恐くて、泣くばかりの日々。


そんな私たちに変化が訪れたのは、一人の冒険者がやってきたときだった。


彼女は言った。



「僕には先生がいるんだけど。その先生が言うんだ。この世に弱い奴なんていない。弱い風に見えるそいつは自分の強さを知らないだけなんだってね」



その冒険者さんはとても綺麗な人で、彼女よりも大きな剣を背中に背負っていた。


私は彼女にかけられた言葉を何度も胸に刻んで、彼女にお願いした。



「私も強くなれますか?」



いつも泣いているばかりの自分が嫌いだった。


妹に守られているばかりの自分が嫌いだった。



「もちろん、僕は先生じゃないから上手く教えることはできないけれど。君に扱える剣を教えてあげる」



そう言って細い木の枝を拾った彼女は、木の枝が隠れるように半身になって構えを取る。そのまま突き出された剣技は美しくて見惚れてしまった。



「まだ君は小さくて力もない。だから回転力を使って振ってみて」



私は彼女に教えられるままに木の枝を振り続けた。

最初は上手くできなくて、何度も何度も繰り返し教えてもらった。


そのうちに綺麗に突き出せるようになった。


そうしたら世界は少しだけ変わり始めた。



「なんだ?また一人で木を振ってるのかよ」



イジメをしていた大きな身体のゼフが、私から木の枝を取り上げてイジメてきた。



「お姉ちゃんをいじめるな!!!」



いつものように妹のセシルがやってきて、ゼフととっくみあいの喧嘩になる。

セシルは小さい身体なのにゼフに負けない力で喧嘩をしているけれど。

どうしてもゼフには勝てなくて、殴り倒される。



「はぁはぁはぁ。思い知ったかセシル。お前らは悪い貴族なんだ。俺が懲らしめてやらないとな」



ゼフは私から取り上げた木の枝でセシルを殴ろうとする。


いつもなら、私は泣いて何もできないはずだった。


だけど、いつも練習していることが、今なら出来ると思った。


私は地面に落ちていた木の枝を拾ってゼフの脇腹を突き刺した。



「ゲフッ!」



私の突きは、ゼフを吹き飛ばして倒れさせる。



「私の妹をイジメないで」



そのとき私は始めて戦うことが出来た。

この剣さえあれば私は戦うことが出来る。


それから少しずつ、イジメは少なくなっていった。

何かされるたびにやった奴を相手に睨むことができるようになった。


ゼフもこちらを睨むだけで何もしてこない。

セシルは私と一緒に冒険者の彼女に戦い方を習うようになり、いつか孤児院を出て自分たちだけで生きていく。


そう心に誓うようになった。



「そっか~君たちは冒険者になるのか。いいね。本当は僕の先生を紹介してあげたいんだけど。先生はどこにいったのかわからないんだ。ごめんね」



彼女は申し訳なさそうに頭を下げてくれた。

何も悪くないのに頭を下げてくれる彼女に私の方が申し訳なくなる。


「あなたは何も悪くないわ」


「そんなことはないよ。頭を下げるのは当たり前だよ。


う~ん。先生が言ってたんだ。


お礼をする。

謝罪をする。

挨拶をする。


それらは出来るときにやっておけ。タイミングを逃すと言い辛くなるからなってね。


僕は君たちの望みを叶えてあげる手段を知っているのに、叶えてあげられない。

だから、ごめんと謝罪する。今がそのときだと思うからね」



彼女の言葉は私を形作る。


私はとても弱い。


彼女の言葉がなければ強くなれなかった。

彼女が教えてくれなければ生きる方法も知らなかった。

彼女が私にとって目標になった。


だから、私は決めた。


毎日、自分が作ったルールは守ろう。

誰よりも強く、厳しく、気高く彼女のようにあろうとした。



「リリア。絶対に倒されない。負けない剣士になれ。今回は不合格だ」



突きつけられた答えは不合格。


私が?私が不合格?今まで努力してきたのに?何がダメなの?こんなにも頑張っているのに不合格。


ぐっと砂を握りしめる。


だけど、子供の頃と今は違う。


先生は示してくれている。

冒険者の彼女のように。



「走る。倒れない。考える。私にはこの三つが必要なんだ」



私は立ち上がって走り始めた。

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