第13話【日々】


 夏、僕と青猫はプールへ出かけることとなった。最近出来た大型遊泳場に行こうと勧めるも、近くの市民プールがいいと譲らない青猫。

 僕としては地元は避けたかったけれど、仕方なく市民プールに足を運んだわけだ。

 客は子連れ、しかも幼児や小学生低学年くらいの年齢層が目立つ。


「さぁ泳ごう!」

「猫なのに水場好きなのかよ」

「何言ってるのさ。ボクはネコ型ロボット、猫とは違うのさ!」

「そういうものなのか? まぁいいや、暑いし水に浸かるとするか」




 結局、時間を忘れて遊び倒した僕と青猫だった。


 夏の終わりには祭りを堪能し、秋は山へキャンプだ。いつしか僕は青猫と共に過ごす日々を楽しむようになっていた。

 青猫の言う前の僕たちも、——つまりは◯んでしまったであろう僕たちも、こんな気持ちだったのだろうか。だとしたら、◯にたくなんてなかっただろう。青猫とずっと一緒に居たかっただろう。きっと。


 ずっと一緒に、在りたかっただろう。


「君! 見てくれこの葉っぱ! 真っ赤だぞ!」

「ん、そうだな」


 前の僕は、願わなかったのだろうか。

 ずっと一緒にいたいと、願わなかったのだろうか。僕としては、願ったと思うのだけど。

 契約がそのまま継承された前の僕そのものである僕ならば、僕と同じように願うはずだ。


「ねぇねぇ、今日は何処に泊まるんだい?」

「あぁ、ロッジを予約してある。ホテルもいいけど自然に囲まれて過ごすのも悪くないかなって」

「うん、そうだね。こうして息抜きするのって大事だと思う。ボクも楽しいし。ねぇ、君は楽しい?」


 紅葉を背景に場違いな青、決して溶け込むことのない青が僕に微笑みかける。


「あぁ、勿論、楽しいよ」


 青猫は目も眩むような笑顔で僕の手を掴んだ。僕はその手を、——冷たいその手を強く握り決心した。

 青猫と負のループを越えて先を見ると。




 その夜、僕は中々寝つけずロッジの外に出た。秋の夜風は少しばかり肌寒く感じられた。青猫の肌のように冷たい。

 青猫の話によると、彼女をロボットに変えたのは所謂最初の僕だ。ロボットになる前の青猫の身体はあたたかかったのだろうか。


「どうしたんだい……? 急に居なくなったらさみしいじゃないか」

「ごめん、起こしたか」

「ううん、いいさ。それよりボクも夜風に当たりたいな。隣に座っていいかい?」

「あぁ、勿論」


 不思議な気分だ。

 初対面の時は何処かにふき飛ばした青猫と共に、秋の夜空を見上げている。星が綺麗だと瞳を煌めかせる彼女を見て胸が熱くなった。


「必ずだ」


 ふとこぼれた声に青猫は振り返り首を傾げる。


「ずっと一緒にいよう。必ず二人で、その日を越えて先を見に行こう」

「永遠の半月の、」




 ————その先へ

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