第12話【眼光】


 突然現れた謎のネコ型ロボット、その名も青猫。未来の僕に頼まれて、過去の僕を助けに来たと彼女? は言い張るわけで。

 俄に信じ難い話ではあるけれど、とりあえずは話を聞いてみることにした。

 さておき、まずはカレーを作ろう。



「うまい! やっぱり君のカレーは最高だ。二人目の君は作ってくれなかったし、な、懐かしい味だ。君はコンビニのバイトを辞めてカレー専門店を開業すべきだ」

「この程度で開業出来たら、世界中カレー専門店だらけになるぞ」

「くすくす、それはそれで悪くないと思うぞ」


 ご機嫌な様子の青猫を横目に僕もカレーを食べた。腹も満たされ、本題に入る。


「つまり僕はその日、必ずどうにかなると、そういうわけなのか?」

「き、君はエスパーか!? まだ何も言ってないぞ!?」

「……大事なところを言えなさそうにしているから、憶測で話しているだけだよ。考えたくもないけど。で、それを回避するために青猫は過去に戻って来たわけか」

「うんうん」

「はぁ……僕の人生、ほんとろくなものじゃないんだなぁ。ま、僕らしいと言えば僕らしいかも知れないな」

「な、何を言っ」

「最近思うんだよな。何のために生きてるんだろって。毎日仕事をして帰って寝て、仕事して、寝て、その繰り返し。人間ってさ、自由のようで実は不自由な存在だと思わないか?」

「……?」

「あ、悪い。話が逸れちゃったな。で、その日僕は家にいればいいってことだろ。わかったよ、青猫の忠告通りその日は家から出ないと約束する。それでいいか?」


 青猫は僕の顔をじっと、——まるで電源の入っていないロボットのような表情で見つめる。僕が目の前に手のひらを翳してやると、ハッと我にかえったのか瞳に生気が宿った。


「う、うん! その日の買い出しなんかもボクが引き受けるよ! 君はボクの帰りを待っていてくれたらいいのさ」

「おいおい、その日までここに居座る気なのか?」

「あ、当たり前だろ? ま、前の君たちはボクにもっと優しかったぞ!? その日まではまだ長いんだ。それまで君とした色んなことを再現していくのさ。あんなことや、こんなことも!」

「あ、あんなこと……こんなこと?」

「あー、今君、エッチなこと妄想した」

「してねー!」

「したね。知っているぞ〜? 君はボクみたいなスレンダーより、ムチムチプリンな女の子が好みだってことも。でも安心して。一緒に寝ているうちに君はボクの虜になってくのさ。君は気付いていないだろうけど、寝ながらボクの身体をまさぐってくるんだから。童貞だから仕方ないけどね」

「僕の知らない僕の話をするんじゃない! 誰がそんなペラボディ……」





 ロボットか。

 確かに、人間のようなあたたかみは感じられない。青猫は眠っている、僕の布団で。


「おい、青猫?」

「すやすや、ぴー」


 やはり眠っている。

 いや、僕は何を考えているんだ。こんなペラボディとか罵っておいて何を緊張、——きんちょーなどしているものか!


「すやすや〜」





 やわらかい





「すやすや、いやん」

「……っ!?」



 暗闇に光る猫の眼光と目が合ったよ。


 合いましたとも。

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