第4話 お荷物と前祝い 【追放Side】

 バニス=メントと聞けば、名前だけで道を開ける奴もいるくらいだ。

 俺はそのレベルまで強くなったんだ。


「今日は最高に気分がいいぜ」


 満席だった酒場。今ではこの店にいるのは俺達パーティーだけ。他の奴らは逃げるように去っていった。

 小物共の情けない姿と、お荷物を捨てられた解放感。

 寄生虫がいないだけで、ここまで気が楽になるとは思わなかったな。本当に、俺は自分の心の広さが怖くなる。

 今まで、良く堪えてきたモノだ。


「ま、ここからは遊びじゃ済まないからな。流石の俺も余裕がなくなるぜ」


 俺がお荷物であるユライを追放したのは、何も俺の心が限界に達したからじゃない。俺達が【選抜騎士】に任命されたからだ。

 選抜騎士団は4年に一度、国の王から任命される。

 他国の選抜された騎士達と戦いどの国が最も優れているかを決める、いわば国の象徴だ。名誉ある【選抜騎士】に指名された以上、今までのように遊びで荷物を連れていけない。


 だって、選抜騎士として名を国中に轟かせれば、チマチマと魔物を狩って暮らす必要もなくなる。メシも女も喰い放題だ。


「大体、ここまで遊びで付き合ってやったんだ。ユライも楽しかったことだろうぜ」

「ねー。クエスト受けるたびに、「何が必要ですか!?」って、必死に道具を集める姿は笑えたわね」


 俺のとなりで、プリスが笑いながら肩に頬を擦りつけた。

 プリスはいい女だが、俺と釣り合うかと言われると正直、微妙だ。このレベルの女が後、4,5人いてようやくトントンだ。


「しかし、彼に知られる前に追放できて良かったですね。【選抜騎士】に任命されたことを知ったら、もっとゴネたかも知れませんから」

「へっ。仮にゴネても俺が力で追放したさ。そんなことより、新しいメンバーはどうしたんだよ。オストラが連れてくるんじゃなかったのか?」


 明日、俺達は王様と顔を合わせることになっている。

 そこにパーティーが欠けた状態で行ったら格好が付かないからな。パーティーのメンバーは昔から4人と決められている。古い決まり事なんて正直どうでもいいのだが、名前を売るためなら我慢するさ。


「初めまして。私を誘ってくれて光栄だわ、バニス」

「こちらこそ。話が分かる女で助かったぜ、アディ」


 アディは俺達がライバル視していたパーティー、【炎の闘士】の付与使いだ。弓矢使いと同じく後衛だが、よりサポートに特化した魔法を持つ。

 ちょろちょろと邪魔されないし、なにより、アディはいい女だ。見た目は俺の好みでボンでキュでボンだ。最高!!


【炎の闘士】に所属していた時は不愛想だったが、【選抜騎士団】をちらつかせたら食いついてきた。

 本当、こういう女が揺らぐ時はたまんねぇよな。

 今からでも襲い掛かりたくなるぜ。

 ま、でも、楽しみは後に取っておかねぇとな。


「じゃ、パーティーが完成したことだし、改めて乾杯と行きますか」


 俺の言葉に仲間たちはグラスを掴む。


「【選抜騎士】に乾杯!!」


 これから、様々な試練が待ち受けているだろうが俺は絶対に失敗しない。

 俺は特別なんだ。

 どんな強力な魔物を前にしても生き延びてきた。


 魔物と戦うのは大変だし、名を売るために使えない荷物を抱えてきた。

 ようやく苦労が清算される。

 冷たい酒が喉を潤した。

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