第11話
道路は比較的空いており、30分ほど車を走らせたところで蒲田達は南麻布の現場に到着した。高級住宅街と呼ばれるだけあって、周囲には白亜の邸宅やタワーマンションが立ち並び、緑豊かな街道の光景も相まって裕福な暮らしぶりを感じさせる。蒲田は自分の住む
現場となったのは、坂の上にある一軒家だった。白亜の門柱には無骨な黄色いテープが張られ、青い制服を着た鑑識やスーツ姿の捜査員が足早に家の中へと入って行く。蒲田と竹部もその一団に続いた。
玄関を抜けてリビングに行くと、ソファーに腰掛けているエプロン姿の女性が目に入った。格好からしてこの家に住む主婦だろう。まだ事件の余韻を引き摺っているのか、リビングを行き交う捜査員の姿を茫然自失として眺めている。
「おい、被害者への聞き込みはもう済んだのか?」
竹部が近くにいた捜査員を捕まえて尋ねた。若い男の捜査員はびくりとして身を引いたが、すぐに気を取り直して言った。
「は……はい。そちらの女性からは済んでおります。ですが今までと同様、犯人は目出し帽を被っていたため、人相は判明しませんでした。声や身体つきについても聞きましたが、特に目立った特徴はなかったと……」
「ちっ。また情報なしか……。ホシが家に入ってきたのは何時だ?」
「今から1時間ほど前ですから、15時頃です。インターホンが鳴って、女性は宅配業者だと思って扉を開けたそうです。そこへ犯人が踏み込んできて……」
「家人を縛り上げ、金品の在処を聞き出したってわけか。お決まりの手口だな」竹部が忌々しそうに舌打ちした。「家にいたのは1人だけか?」
「はい。あ、いえ……」
「どっちだ? はっきりしろ」竹部が凄みを利かせた。
「あ、すみません……。その、家にいたのは1人だったのですが、途中で子どもが帰ってきたんです」
「子ども?」
「はい。小学生の男の子です。その子が家の前に到着したところで、家から飛び出してくる犯人の姿を目撃したそうです。犯人の方は気づかなかったようですが」
「ってことは、そいつが何か手がかりを握ってる可能性があるわけだな。子どもはどこにいる?」
「2階の自室にいます。室内の捜査が済み次第、事情聴取を行おうと思っていたところで……」
「なら、その役目は俺達が引き受ける。おい、蒲田」
捜査情報を頭の中で整理していた蒲田は、姿勢を正して竹部の方に集中力を移した。
「何でしょう? 警部」
「お前、その子どもから事情聴取をしろ」
「私がですか?」蒲田が目を剥いた。「私、子どもは苦手なのですが……」
「俺だってそうだ」竹部が面白くもなさそうに言った。「だが俺の勘によれば、その子どもは重大な手がかりを握っている。お前の方が歳も近しい、まだ話は聞き出しやすいだろう」
「はぁ……。ですが、何も我々だけでやらなくても、所轄に協力を仰げばいいのでは?」蒲田が若い捜査員の方を見やりながら言った。
「いいか、蒲田。情報ってのは鮮度が命なんだ。人間の記憶なんざ不確かなもんで、時間が経てば経つほど正確さが失われていく。だから一刻も早く聞き出した方がいいんだよ」
「はぁ……」
「とにかく行くぞ」
竹部が話題を切り上げるように言うと、どすどすと階段を昇っていった。蒲田は不安を拭えないまま竹部の後に続いた。
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