第10話
その時、会議室の扉が勢いよく開かれ、2人の警官が室内に飛び込んできた。部屋中の視線が注がれる中、1人の警官が息を切らしながら叫ぶ。
「会議中失礼いたします! 先ほど所轄から連絡が入りまして、例の連続強盗事件の4件目が発生したとのことです!」
「何だと!」
真っ先に叫んで立ち上がったのは竹部だった。会議室は俄かに色めきたち、前方に座る上層部の面々も険しげに顔を見合わせている。
「どこだ! どこで起こったんだ!?」竹部が口角泡を飛ばす勢いで尋ねた。
「南麻布です。駅の南側にある住宅街で発生したようで、所轄の捜査員が現場に急行しています!」
「なら俺達も行くぞ!」
言うが早いが、竹部はスーツのジャケットを引っ掴んで会議室を飛び出してしまった。
しかし蒲田は躊躇した。単身で勝手な行動を取れば、それは組織の規律を乱しかねない。だが、会議室の前方に視線をやると、捜査指揮を執る係長は諦めたような顔をして、早く行け、というように蒲田に向かって手を振って見せた。竹部は暴走機関車のようなもので、一度走り出したら誰にも止められないことは周知の事実だった。
蒲田は係長に向かって黙礼すると、自分も竹部の後を追った。
会議室に来た警官から住所を聞き取り、蒲田は竹部と2人で現場へと向かった。後で係長から無線で連絡が入り、残りの捜査員についても現場に向かわせるとのことだった。
「しかし竹部さん、勝手に現場に行くことを決めてしまってよかったんですか?」
パトカーに乗り込み、シートベルトを締めながら蒲田が尋ねた。最初は竹部が直々に運転しようとしたが、この調子だとスピード違反で検挙されかねないと思い、蒲田が運転を引き受けることにしたのだ。
「当たり前だ。目と鼻の先で事件が起こってるってのに、待機なんかしてられっかよ」竹部が鼻息荒く言った。
「ですが、あまり先走った行動をされていると、上層部から反感を買うのでは?」
「はっ。じゃあ何か? お行儀よく上からの指示を待って、それでホシを取り逃がしてもお前は構わねぇってのか?」
「そういうわけではありませんが、我々は組織で動いているわけですし……」
「組織なんざ問題じゃねぇ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
竹部は苦々しげに言うと、ジャケットのポケットから煙草を取り出してライターで火をつけた。煙草を咥え、腕組みをして前方を睨みつける。その目は獲物を狙う猟犬のようで、必ずや犯人を逮捕して見せるという執念に燃えている。
蒲田はそんな竹部の姿を横目で眺めながら、この人は優秀には違いないが、組織には適さない人間だな、と考えた。組織の方針を顧みずに単独行動を続ければ、それは時に致命的な結果を招きかねない。竹部は自らのやり方で実績を上げ、ゆえに層部からのお咎めもないのだろうが、いつまでも幸運が続くとは限らない。
(将来、俺に部下が出来たとしたら、その点はきっちり教育してやらねばならんな。単独で突っ走るのではなく、常に組織に忠実である。それが刑事だ。間違ってもこの人のように、傍若無人な振る舞いをする人間にだけは育てまい)
蒲田は密かに決意すると、アクセルを踏んでパトカーを発進させた。
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